1 検査技師の人生終了
私は朝日千笑25歳。
顔はもう少し美人だったら良かったのにとよく思うけど、可愛い系の自分の顔は好きだ。
童顔に低い背で子供に見えがちだけど、私は立派な社会人。
仕事には誇りを持っている。
大学では一生懸命勉強し、国家資格を取り、検査技師となった。
地元の病院に勤務するようになって、やっと一通り仕事を覚え、任される仕事も増えて毎日は充実していた。
今日も検査データを正確かつ迅速に臨床に返し、医師と論議したり患者に検査説明したりと走り回って仕事した。
そしていつものように帰り支度をして、病院の裏道を通って、大通りへ出た。
そこのコンビニで夕飯買おう。
そう思って横断歩道に向かった。
コンビニに目をやると、見慣れた服装の人が歩道を歩いてる。
うちの病衣を着てるわよね。
こんな時間に?
時計を見ると午後6時47分。
入院患者なら今は夕飯が終わるくらいか、抜け出したのかな………
信号は……変わりそうにないな。
横断歩道を過ぎ、早足で対向車線側を併走するように追って行く。
コンビニの灯りで見えた長い茶髪で、誰かわかった。
杏里ちゃん。
彼女は、糖尿病コントロール目的で4病棟に入院してる中学3年生の女の子。
さては、おやつでも買いに来たか。
入院して2週間、間食も我慢してるからな。
今日も検査結果を説明してきた。
彼女は高血糖になったり低血糖発作を起こしたりして入院を繰り返しているのだ。
先週、低血糖発作を起こして倒れて、緊急入院してきた。
友達に初めて一緒にマックへ行こうと誘われて、嬉しくてみんなと同じ物を食べた。
彼女にとってはカロリーの摂りすぎだ、自分も食るべきではないと分かっていた。
けど、同年代と食べ歩きをした事のない彼女にとって、みんなと同じ行動をすることは大切な事だった。
結果、食べ過ぎた分の血糖値を下げようと思って、薬を規定量の2倍飲み、カラオケで低血糖発作を起こして倒れた。
病院で意識を取り戻した時、彼女は大泣きをした。友達と普通に遊びたかっただけ、退院して会う友達とはいつもよそよそしくなる、自分と本当の友達になってくれる人はいないんじゃないかと、不安に。
その気持ちは理解できた、けど医療人としては、その行動は許してはいけなかった。
糖尿病は普段の血糖値コントロールがすごく大切で、制限無しには出来ない。
上手く食べる物と量を自分でコントロールできるようになるまでが大変。
彼女は幼少期に発症した。食べたい盛りの子供のコントロールは大変で、本人にかかるストレスも大きい。
今日は確か、食事の量、薬のタイミングを守って、いい検査結果だったはず。
おやつ食べたいよね〜。
気持ちが緩んできたのかも。
もっと話ができたら良かったけど、仕事があってあまり時間を割いてあげれなかったなぁ。
次はしっかり話をしよう‼︎ 食べてもいいおやつの相談をしよう。
彼女とのやりとりを思い浮かべながら、彼女を追う。
あれ? コンビニ過ぎたね。
どこへ向かってるんだろう?
不思議に思って、更に彼女を追う。
辺りは暗いし、斜め前を進む彼女の表情は見えない。
遠くから車が向かって来て、彼女の体が光に包まれていくように見えた。
それがなんだか彼女が消えていくように感じて、嫌な予感がした。
気付いたら、大声で彼女の名前を呼んでいた。
「杏里ちゃん!」
急に呼ばれ、体を大きくビクッつかせて、立ち止まり彼女がこちらを見た。
コンビニの光が割に強くて逆光で、表情が見えない。
「こんな時間に…」
彼女の顔半分に車のライトが当たった瞬間、眉の下がった「ごめんね」と言うような笑顔を見て、言葉が出なかった。
どんどん彼女の姿がライトで輝いていく、動悸が激しくなる。
次の瞬間、彼女は車道に出て行った。
いけない!
咄嗟に体は動いて。
間に合って!!
思いっきり走って、車の前に飛び出して、彼女の頭に飛びついた。
瞬間、辺りが真っ暗になり
「〜**〜***ーーー‼︎」
なんか耳慣れない声がしたと思ったら、脇腹に激しい痛みが走り、頭、肩と立て続けに全身がぶつかり、その衝撃で後ろに飛ばされた。
ああ、脇腹裂けたな、肩も骨折、複雑骨折か、頭もぶつけたから、これ助からないな。
杏里ちゃんは無事かなぁ?
あー、抱きしめている感覚ないな〜
一緒に突き飛ばしてしまったかも、怪我してないかな〜
ああ、これ明日勤務できないな。
今から病院に私が運ばれたら先輩たち怒るだろうな〜ごめんなさい仕事増やして。
走馬灯のように、そんな事を考えながら、私はそこで意識を手放した。
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