13 最悪なお茶会
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翌朝、朝食を取っていたら、父が言った。
「王に婚約の話を打診してはみたが、聞き入れてもらえなさそうだ。」
その一言に母が動揺する。
「そんな、ルキアーナがこんなになっても…………。」
俯く母を見ながら父が続ける。
「記憶障害も一時的かもしれない。婚約・結婚までは時間があるため、様子をみるといいと言われ、現状のままとされた。」
まあ、王族がルキアーナちゃんを手放すとは思えない。
昨日の本から考えて、そうなるだろうとは思っていた。
申し訳なさそうに父が私をみる。
「大丈夫です。様子を見てくれるのなら、今すぐどうこういうことはないので、私も出来ることからしていきます。」
まずは王子たちに嫌われていくことだな。
ルキアーナちゃんは魔力が高いだけで、治癒魔法は使えない。聖女でもないわけだから、伴侶に必ずなるという事はない。ポッと誰か聖女が現れたら、当然王命撤廃してそっちが正妃になるだろうし。
そんな事を考えていると思わない両親は、
「頑張らなくて、いいんだぞ。」
と心配そうに頷いてくれる。
本当にいい両親だと思う。
食事も終わり、お茶を飲んでいるとセバスチャンが父に封書を持ってきた。
蝋印初めて見た。かっこいいな、我が家にもあるのかな?
しかし、父は蝋印を見て厳しい顔つきをした後、私を見た。
飲んでいたお茶が詰まりそうになる。
え、なんか嫌な手紙なの?
父が封を切ると、ほのかに薔薇の香りが漂う。
女か? 手紙に香水とか。スンスン嗅いでみる。
「第一王子からの茶会の誘いだ。」
女じゃなかった、あの毒クラゲ王子か。
薔薇背負ってる嫌な笑顔が浮かぶ。
薔薇の匂いさせてそう。気持ち悪い。
毒クラゲ王子を思い出して眉間に皺寄せた私を見て、
「体調不良で欠席もできるぞ?」
と父が言う。
ふむ、確かに。
行かないという手もあるが、ルキアーナちゃんが王子を選ばないより、コイツ無理って嫌われた方が話が早そうだ。
それに王族からの誘いは断らない方がいいと、教養の先生が言っていた。
「行ってみようと思います。」
そう言った私を父と母は心配そうに見つめ、
「無理はしないように、ルーラ一緒にルキアーナに付き添う様に。」
と指示を出した。
「承知致しました。」
ルーラは父に頭を下げ、
「お召替えをいたしましょう」
と言って私を連れ出した。
お召替え要らないと思うが、王族のお茶会なのでもっとしっかりしたドレスでないといけないらしい。
もうここから面倒臭く感じる。
毒クラゲ王子に会うのに可愛く着飾る必要が無い。
貴族の生活慣れないわー。
けどルーラが選んでくれたドレスはタンポポ色で明るくて、ルキアーナちゃんの可愛らしさに元気さをプラスした。
わーかわいい。
ちょっとテンションの上がった私は、手土産のお菓子も持って、早速馬車で王宮へ向かった。
♢♢
初めて乗る馬車は楽しかった。
馬の蹄の音が規則的に聞こえ、軽く車体が上下する。
お尻の下のクッションが柔らかくバウンドして楽しい。
外の景色も初めてだ。
外国の草原風を見たり、ドイツの家っぽいのが並んでいたり、ワクワクが止まらない。
そんな私を見てルーラが笑う。
「王子様に会うというのに楽しそうですね。」
忘れてた、王子に会いに行っているんだった。
観光地巡りしている気分だった。
「初めて見る景色で綺麗だしかわいいし、楽しくて。王子の事を忘れてたわ」
そう私が言うとルーラはプッと吹き出した。
「心配しておりましたが、安心致しました。」
「大丈夫よ。」
王子から婚約無しにしてもらうからと心の中で言う。
ルキアーナちゃんは王子に好かれるかもしれないけど、今の中身は私なんだから、お淑やかでもなんでもない。
さらに25歳の私からすれば、18歳の王子なんて性格の悪いチンチクリンにしか見えない。キラキラだけど。
しばらく馬車で走ると、だんだんお城が見えてきた。
おお、シンデレラ城みたい。
と思って見ていたが、だんだん近づくにつれて、お城の大きさと豪華さにびびってしまった。
門の前に馬車が停まり、見上げる門の高さにもビックリする。
3メートルくらいの巨人でも通れそう。
ルーラが門番に何か伝えている。
はー、お城とは、こんなにも規模が大きいものなのね〜。
まるでお上りさん。
馬車から降りれば、お城の侍女が案内してくれる。
城の中でのお茶会かと思ったがどうも庭であるらしい。
途中までルーラも一緒だったけど、ここから先は立ち入れないとかで別となってしまった。
「ここでお待ちしております。」
とルーラは心配そうにしてたけど、私は大丈夫と言うように手を振ってルーラと別れた。
どこまで進むんだろう、我が家も広くて迷うのに、ちゃんとルーラの所まで戻れるか道を覚えなくては。
建物の一つ目でルーラと別れ、二つ目の建物も通り抜けた時点でお手上げだ。覚えれるわけがない。
大人しく侍女さんの後をついて行き、3つ目のアーチをくぐったら、広々とした庭園が出てきた。
「うわー!」
もう不思議の国のアリスだ!
あのお茶会の様な庭とテーブルセット。
「かわいい!」
思わず早足で近づくと、後ろから声がした。
「喜んでもらえた様で。そんなはしゃぐ姿も初めてだな。」
振り返ると、さも楽しいと言わんばかりの毒クラゲ王子が歩いて来ていた。
げー喜んでいる姿を見られてしまった。
少し目を逸らし、頭を下げて、膝を落とす。
「クルリスターの若き太陽、キロネックス殿下にルキアーナ・ノア・ウィンテリアがご挨拶申し上げます。本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
そう挨拶すると、
「へえ、少しの間に挨拶出来る様になったんだ。その姿を見ると以前と変わらないね。頭上げていいよ。」
王子の許可を得て、頭を上げる。
今日もキラキラだ。
なんで、こう色使いが派手なんだろう。
芸術家か男性アイドルのようだ。
王子の出立に目がチカチカしながら移動して、お互い向かいあってテーブルに着く。
こんな長いテーブル、他に誰がくるのかしら?
少しキョロキョロすると、肘をついて私を見た毒クラゲ王子が言った。
「今日のお茶会は私達だけだよ。やっぱり記憶はないままか。定期的に私は君と2人のお茶会を開いていた。」
そうなのか。
こんなに離れて?
意味がわからないと首を傾げる私をよそに、殿下はサッと片手を上げて給仕を促す。
流れるようにお茶が整う。
使用人が離れるのを見計らって、殿下がお茶をすすめる。
「ここに来たって事は、婚約者選びの事は聞いたのかな。」
「はい。」
私が頷くと、王子はテーブルに肘を付いた手に顎をのせ、ニッと笑う。
「君は選ぶ立場だけど、私以外選べないという行動は必要でね。度々こうして2人の仲の良さも対外的にアピールさせてもらってるんだ。君を尊重して優しくしているように見せていれば、君に私を勧める人間が増える。私が王太子になる率が高いと思わせたら、意のままに動いてくれる臣下が増えるというものだ。」
びっくりする、そんな思惑言っちゃうんだ。
私の見開いた瞳を見て、更に王子の青い瞳が孤を描く。
ルキアーナちゃんはお茶会で王子にこんな事を言われてたの?
イラッとする。
いや、それなら本当に優しくしたら良くない⁈
アピールの為だけに呼び出され、自分の利しか考えないとか、人間終わってるわ。
人への気遣いとか王子は習わないのか?
父は毒クラゲの事、外面がいいって言ってなかったっけ?
ルキアーナちゃんには外面すら向ける必要無いって事?
眉間に皺が寄りそうになるのを、グッと堪えて一口お茶を飲む。
バラのいい香りが鼻を抜けるが、気分は最悪だ。ここでも薔薇か。
「そんな事を私に伝えてメリットがないように思います。いくら外堀を埋められても、選ぶのは私です。仮に優しくしているなどと言わずとも、本当に尊重して優しくしていただけたら良いのでは? 殿下にとっても選ばれやすくなる上、対外的にアピールと言わずとも本当のアピールができるかと。まあ、もう殿下の人となりは知っていますから、今更優しくされるというのは受け入れ難いですが。」
そう言うと、王子が少し目を丸くした。
「驚いた。記憶が無くなったら、人が変わったかのようだね。意見を全く言う事がなかったのに。以前は私が何を言おうと受け流して、聞こえていない感じだったよね。」
ルキアーナちゃん聞きたくなかっただけと思うよ。
「申し訳ございません。記憶を失ってしまいましたので、以前がどのような対応だったのか覚えておりません。」
そっけなく、軽く会釈程度に頭を動かす。
「いや、別にかまわないよ。なんだか急に年齢差を感じなくなったな。」
そんなセリフに思わず、フッと笑ってしまった。
王子は少し眉間に皺を寄せて、首を傾げてる。
オホホ、そりゃ、12歳のルキアーナちゃんには言い返す術は持ってなかったでしょう。
でも、私は25歳の年上ですから!生意気王子には負けません。
「まあ、いい。君への対応だけど、私は王太子になりたい。けど、君の気持ちがほしいわけではない。君の価値はあくまで、優秀な能力を宿した子が産める事。私は君を愛しているわけでは無いから、君からの好意は迷惑でしか無い。本当に優しくして好かれたら困るだろ?煩わしいのは嫌いなんだ。特に子供は嫌いでね。だから好かれて纏わりつかれるのは、勘弁。君が私を想って、苦しい思いをしないように、今から思い遣ってあげてるんだよ。」
物分かりの悪い子に教えるように、王子が語る。
さも、当たり前のように語っているが、何言ってんのこの王子。
王子を好きにならんでいいのは良いとして、なんで好かれると思ってるんだ。絶対ルキアーナちゃんも嫌いだったと思うよ。ルキアーナちゃんを道具の様に言いおって、腹立つやつだな。
私のイラつきに気付かないのか、王子は更にたたみ掛ける。
「そして対外的にアピールして、高位貴族達皆が私を王太子に推したら、妃となる君も無碍にできなくなる。王妃になるのであれば、高位貴族との付き合いは重要だ。王妃が臣下の意見を全く聞かず、挙句臣下との間に溝があっては、君は身動きが取れなくなり針のむしろだ。幸い第二王子とは会ってないんだろう? そんな状態では、軍配は必ず私に上がる。私は君に選ばれるんじゃない、私が選ぶんだよ。」
さもおかしそうに王子が笑う。
なるほど、流石に毒クラゲの名にふさわしい毒々しい考えだな。
確かに、余計ないざこざはルキアーナちゃんが正妃になった時には回避しておきたい。
けど、それは王太子妃になる事が、決定事項で話が進んだ場合だ。
どちらかと言うと、私はルキアーナちゃんが王太子妃にならなくてもいいようにしたい。
「1つ聞いてもよろしいですか?」
神妙な面持ちで、口を開く。
どうぞと手のひらで、促される。
「私は魔力が豊富ですが、魔法は使えません。王妃になり有事の際は全く役に立ちません。それなら、私より魔力が劣っていても、それなりに多く魔力を有し、かつ治癒なり魔法も使える令嬢の方が、王妃には向いているのではないでしょうか。にもかかわらず私にこだわるのは、どうしてなのでしょう?」
王太子妃回避の為、どこにこだわりを置いているのか王家の考えを知っておきたい。
毒クラゲ王子は、そんな質問が来るとは思ってなかったのか、訝しげだ。
しばらく考える素振りをして、王子が口を開く。
「大前提として王命だから、王の考えの全てはわからない。が、魔法が使えなくても、君の価値はその魔力量だけだ。他を寄せ付けない程のその量は、治癒属性なら間違いなく大聖女。仮に私との子ができて水属性を引き継いでも、私を軽く凌駕するだろう。王家がその魔力量を取り込もうとするのは当然だ。他国や臣下の子が王家を上回る事があってはならないから。反逆、争いの火種となる。…………後は、その無属性か。皆が属性を有する中で、なぜ属性を持たない者がいるのか。なんせ無属性者の数が少なすぎて、情報がない。未知を紐解く為という所かな。それに有事の際に聖女でもない王妃が何かをする必要はない。邪魔だ。」
いちいち物言いがイラッとする。
価値が魔力量だけとか、言い方!
けど、王家が他に取られることを脅威とするくらい魔力多いのかルキアーナちゃん。
こりゃ、ちょっとやそっとじゃ、王家は諦めそうにないじゃないか。
今度はこっちが眉をひそめる。
とそんな私を見て、思わずといった感じで、王子が笑いをこぼした。
「くくっ………王太子妃は回避できないぞ。諦めろ。」
「………。」
「逃げれないさ、諦めて、私を選んでおけ。お前は妃になり、役割をこなすだけで良い。それしか役に立たんからな。そうすれば、こんな茶番をする必要もない。私がいいようにしてやると言っているのだ。」
「……私は、回避したい…です。」
王子に負けないつもりで来たのに、返す言葉がない。
そんな私を見て、一層楽しそうに王子は笑みを浮かべる。
「回避はできぬ、抵抗するうちは、茶会は継続だ。楽しんで行くが良い。」
「こんな会話で全く楽しめません!」
ふんっとそっぽを向くと、王子は悪い顔をした。
「楽しいだろ?庭を可愛らしく飾り、菓子やテーブルも飾った。君も喜んでいた。」
チッ、確かに見て喜んでしまった。
でも、それはお前が準備したわけではなく、お前は指示しただけだろう。
「確かに可愛らしくて喜びましたが、お茶会は会話を楽しむ場では?」
胡乱げに見る。
「対外アピールと言っただろう。他に君と何の話をする?話をすることが無い。」
当たり前に呆れたように言われる。
おいおい、コイツマジか。
回避できないなら、恋愛関係でなくてもお互いわかり合って、良い関係を作れたらと思うけど?
「一方的な思いは不要との事でしたが、それは私からも殿下の想いは不要ですので同意しますが。お互い分かり合い、良い関係を作ることも出来るかと思いますが?」
私が言うと面倒くさそうに、
「良い関係?そんなものがあるわけないだろう。他人と分かり合うなど、出来るはずがない。分かり合おうなどと時間の無駄だ。王、王妃になるために必要な手段を取り、子をなす。それ以外一緒にいる必要性も、分かり合う必要もない。」
チッ、腐ってる。
こんなやつにルキアーナちゃんはやらん!
「私は結婚とは父と母のように在りたいと思っております。殿下とは分かり合えないようですね。」
「だから分かり合う必要が無いと言っているだろう。結婚後は好きな奴とこっそりよろしくしたらいい。私もそうする。ただ君が私以外と子をなすことは許さん。」
堂々と浮気宣言に、浮気許可。
呆れて言葉が出ない。
どう育ったら、こうなるんだ?
開いた口が塞がらないでいると、殿下の侍従が近寄ってきた。
私に聞こえないよう殿下に耳打ちをする。
2人してチラッとこちらを見る。
なによ。
殿下が侍従に耳打つと、侍従は去っていった。
「さて、今日もお茶会は行ったし、この辺りでお開きにしよう。急ぎの案件が入った。」
急ぎか、殿下も仕事があるんだろう。
私としても、ここに長く居たくない。
「わかりました。」
私が答えるとすぐに殿下は立って、
「ここで、失礼する。帰りは送っていけないが大丈夫だろう。その辺の侍女を捕まえてくれ。」
と言いながら侍従が向かった方へ早足に去っていった。
あんの、クソ王子、どうやって回避してやろうか。
残された私は、イライラしながらお茶を飲み切るのであった。
閲覧していただき、ありがとうございました。
第一王子からルキアーナちゃんに毒矢がブサブサ刺さって、ダメージ大………。
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