126 伝えられない(第一王子視点)
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夜会に戻らないわけにもいかず、重い足取りで会場に戻った。
悲惨な事が起こったとは思えないほど華やかに夜会は進んでいた。
ダンスも一区切りし、各々談笑している姿が増えている。
皆にこやかに礼を返すが、この中に犯人がいるかもしれないと思ったら疑心暗鬼になる。
だが悟られないよう入念に顔を作って対応した。
無事に陛下が閉会の挨拶をして退室され、私は皆を最後まで見送る。
師団長は念の為、他にも危険なアクセサリー類が無いか、皆に悟られないよう鑑定してまわったようだ。
最後に財務大臣一行を見送り、残った宰相にルキアーナ嬢の事を伝えた。
膝から崩れ落ちそうになった夫人を支えて、宰相殿は顔色悪く立ち尽くした。
帰ったと思っていたのに危険な目に遭っていたのだ、驚きは一入だろう。
ルキアーナ嬢が眠る部屋に案内した。
廊下に弟を見つけて、互いに頷き合い中に入った。
2人の王宮侍女が部屋の端に控えて付いている。
寝台ではルキアーナ嬢が穏やかな表情で眠っていた。
その顔を見た途端、こちらが安堵した。
ラルクに会ってはいない。
もしかしたら、こいつも害されたからボロボロだったのかと思ったら寒気がした。
起きたら何処でどうしていたか聞かねば。
宰相夫妻は後ろで声を顰めて泣いていた。
安堵の色を浮かべている。
侍女に目配せする。
「別室を用意しますので、御二方はそちらで休んで下さい。ご息女が目覚めたらお知らせします。」
先に侍女が出ていき、宰相殿が頷いた。
「ご厚意…に…感謝致します。」
夫人も口元に手を当て、膝を折った。
「では、こちらに。」
案内の途中でザイナスの姿を認め、一緒に呼んだ。
部屋に入り、これまでのルキアーナ嬢に関する出来事だけを伝えた。
どのみち宰相には全て話さないといけないだろうが、今はこの情報だけでいい。
バルコニーから落ちただけでも心配は尽きないだろうから。
我慢ならず涙する夫人を宰相が慰める。
宰相には物凄く感謝された。
本当に助けれていたか自信なく居心地が悪く感じ、ザイナスに後は任せて部屋をあとにした。
夜会も終わり深夜。
人の気配が少なくなり城が静かになる。
色々ありすぎて眠る気にならず、ルキアーナ嬢の元に戻った。
付き添いの侍女が部屋に入れてくれる。
ベッドサイドに椅子を持って行き座った。
何にも考えてなさそうな幸せな顔でクーカー寝るルキアーナ嬢に呆れる。
人騒がせな奴だ。
どれだけ皆の寿命を縮めれば気が済むんだ。
今日の壊れたアクセサリーを思い出した。
コイツがもし付けていたらと思うとゾッとする。
あんな物作るやつの気がしれない。
最終的な狙いはやはりコイツなのだろうな。
何から調べようかと懐から紙を取り出して書いていく。
どのくらい集中していたのか、朝日が差し込んでいるのに気付いて目を瞬いた。
もう朝か、とカーテンから入る陽の光を見つめていると、ルキアーナ嬢の声がした。
寝て起きたばかりで疲労が大きいだろうに、すぐ起きようとするので止めた。
そして体調を心配したというのに、私を見て不審そうな顔をする。
失礼な奴だ。
まあ、それがルキアーナ嬢だなと思ったら安心した。
宰相を呼んでくるか。
立ち上がり部屋を後にし、宰相がルキアーナ嬢と会っている間に私は陛下に報告しに行った。
朝から柔和な顔がどんどん厳しい表情に変化していく。
それもわかる王宮の1番大きな夜会で残忍な殺害事件があったのだ。
泥を塗られたように感じているだろう。
ありえない事態なのは間違いない。
早急な犯人の炙り出し、子爵領の詳細と関わりある貴族の洗い出し、アクセサリーの捜査、花祭りと式典の安全性の見直し、そしてルキアーナ嬢に手厚い療養を命じられる。
たくさんの事を命じられ、一度に出来るかと悪態つきたくなる。
が、自分が既に部下に采配したことばかりだった。
一応それぞれ報告が上がるだろうと息をつく。
陛下と別れ医務室に赴くと、子爵令嬢を治療していたルンバール医師がいた。
徹夜明けの割に仮眠でもとったのかすっきりした顔をしていたので、ルキアーナ嬢の診察をお願いした。
ルキアーナ嬢の無事を伝えると、ルキアーナ嬢が戻っている事に酷く安堵した様子だった。
子爵令嬢の容態もすっかり落ち着いた報告を受けた後、揃って部屋を訪れるとゆったりしたデイドレスを着たルキアーナ嬢がソファでくつろいでいた。
ルンバール医師の診察を伝えると意外にすんなり頷いた。
体に問題が無いのを確認して、子爵令嬢の容態が落ち着いた事を伝えたら、ルキアーナ嬢はホッとしていた。
そして令嬢の命を助けたというに、逆に怪我をさせたんじゃないかと反省している。
やれやれと呆れてしまう。
子爵令嬢に話を聞くのに、ルキアーナ嬢も立ち会った方がいいだろうと思い、立ち会うかと聞けば、さらに子爵令嬢の体を心配する。
もっと罵ってもいいはずなのに、コイツは怒ることもしない。
そんな様子に、会話を聞いていただろう子爵令嬢が意を決したように入って来た。
勝手に涙を流し許しを乞う姿にイラついた。
泣いて済む話では到底終われない事になってる。
勝手に許しを謝罪を受け入れるなと一喝した。
しかし、ルキアーナ嬢とスルファとかいう子爵令嬢は昨夜まで喚いていた伯爵令嬢達が死んだ事は知らない。
とりあえずお前の話をしろと命じた。
自分の身に起きた事を淡々と語る子爵令嬢にもう涙はない。
自身の落ち度を認め、処罰を望んでいる。
隣ではルキアーナ嬢が終始大人しく話を聞いている。
珍しい……疑問あればすぐ食いかかってくるのに。
子爵令嬢の話が本当なら、伯爵令嬢にいいように使われただけだな。
後で沙汰を出すとして、一旦子爵令嬢にザイナスを付き添わせて退室させた。
ルキアーナ嬢に伯爵令嬢の話を出されて動揺した。
話を聞き出す前に事が切れてしまい、もうこの世にいないのだと伝えられなかった。
誤魔化し子爵令嬢の語った話を振ると、面白いくらいにポンポン疑問をぶつけてくる。
ふむ、治癒魔法で後遺症はおかしいか。
治癒師に治せないと言われれば、後遺症もあるだろうと受け入れていた。
もう一度洗い直すか。
そして何も知らないはずなのにバックに黒幕がいるのではと存外悪い顔付きで晒してくる。
何処までも勘がいいらしい。
おそらく伯爵令嬢も子爵令嬢もルキアーナ嬢を貶める為の駒にすぎず、操作していた奴がいる。
それも長い年月をかけて。
そう考えていたら、子爵令嬢の罰を軽減させる為に陛下へ助言してくれないかとお願いしてきた。
また珍しすぎる……初めてじゃないか?
それが存外気分が良く、見返りを求めてみた。
子供なんだが、子供みたいな返答を返され可笑しく感じた。
もう徹夜で疲れもあり、奔走しているのだから婚約の許可くらいいいだろう。
そう変なテンションで揶揄ってやろうと近付くと、思わぬ反応をみせた。
コイツの赤面している顔は初めて見た。
銀のまつ毛をギュッと寄せ幼い顔全体が赤い。
少しこちらを意識をした様子が可愛らしく感じたら、そのまま口からついて出ていた。
小動物が怯えるような様子に、宥めるようにこめかみに口付ける。
そういえば記憶喪失になったコイツに会うようになってから、誰かに口付けたり逢瀬を繰り返したりも無くなっていたな。
思わぬ自身の行動に驚くとともに、今度は固まっているルキアーナ嬢が可笑しくて離れた。
とりあえずまだ子供だな。
ゆっくり休みように言うと、放心状態のルキアーナ嬢をそのままに部屋を後にしたのだった。
まだ子供なんだ、子供は年上が守ってやるべきだな。
アクセサリーの出所を早急に突き止める所からか。
その前に陛下の式典の安全性も見直さねば……時間がないな。
なかなか休めない体を叱咤して、歩きながら顔を引き締めるのだった。
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