11 婚約者ではなく婚約者候補と母の思い
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王子が去って、執事のセバスチャンが来た。
王子を見送った後、すぐに駆けつけてくれたみたい。セバスチャンは王子の行動を邪魔できない(不敬に当たる)為、ドアの外で待機してドア破壊と私との会話を一部始終把握していたらしい。
更に駆けつけた母もドアの惨状にめまいを起こし、別室で休んでもらったようだ。
ドア壊れるし、母倒れるし、王子登場に大惨事だよ。
「あの方は本当にルキ…私の婚約者なのですか⁈」
腹の虫がおさまらない私は怒り気味にセバスチャンに聞いた。
セバスチャンは木の属性なのか魔法でドアをどんどん直していく。
「正確には婚約者候補でございます。」
本来なら魔法に興味深々だけど、今はそれどころじゃない。
「婚約者候補?正式に婚約者ではないの?」
ドアを直し終えて、セバスチャンが振り向く。
「はい、正確には婚約者ではございません。」
なんなんだ、アイツ、婚約者じゃないじゃん!
腹立つわー。
「どういうことなんですか?」
私が聞くと気まずそうに、目を伏せて、
「旦那様がお戻りになって聞いた方がよろしいかと思います。」
と言った。
それもそうだ、しっかりルキアーナちゃんの父から聞いた方がいいだろう。
頷いて私は父の帰りを待った。
その間、ルーラと王子の悪口を言いまくったのは言うまでもない。
♢♢
夜、馬車が着く音が聞こえ、私は走って玄関に向かい初めて父を出迎えた。
淑女教育が全く生きてなかったが、父はそれはそれは感動して、抱きしめて離してくれなかった。
なんとか感動の父に、私に婚約者候補がいるのか聞いたら、ニコッと笑っているのに怒っているという器用な表情で話をしようと言ってくれた。
今日の出来事をセバスチャンから報告を受け、父は激怒していたみたい。
そして応接室に父、母、向かいに私と兄が座った。
父と母はお互い見つめ頷き合うと、父が話してくれた。
それは母の生まれの話から始まった。
母はなんと先代国王の末姫だった。
それは驚きだったが、母の美しさは並ではないと思っていたので、納得だった。
そして今の国王は先代王弟の嫡男という。
先代国王には姫しか生まれず、隣国や重鎮家臣へと嫁いだりしていく中、それでも跡継ぎをと最後に生まれたのが母。
またの姫誕生に、王太子は王弟が崩御していた為、王弟嫡男に決まり、王太子妃には隣国の皇女が輿入れする事が決まった。
王太子が18歳になり結婚の儀が行われて、ものすごく華やかなお祝いだったらしい。
けど、それから数年、王太子妃には子が出来なかったので、世継ぎの事もあり、しばらくして側妃を娶ることがすぐ決まった。
輿入れした側妃は早くに懐妊し第一王子を産んで、5年後にやっと正妃も第二王子を産んだらしい。
しかし、王太子は成長してどんどん美しくなる母に目をつけていて、側妃が懐妊したという知らせがあったにもかかわらず、更に母を側妃にしようとした。その時の母17歳。
表向きの理由は、賢王であった先代王の血をより濃く受け継ぎ賢王の資質を持つ世継ぎを得る為とか、意味わからない。
この頃、父と母は王立学園の学友で既に恋仲だったらしい。
父は公爵嫡男かつ優秀で、国王も次期宰相に是非欲しい人材だった。
でも父は宰相になりたくなかったらしい、母と結婚して公爵領で過ごしたかったけど、国王が権力を使ってしまっては母を幸せにしてやれない。
だから国王に王太子が即位する際は、自分が宰相になり支えるという条件を提示して母を妻にする事を直訴したらしい。
めっちゃロマンス、素敵です、父。
見た目も中身もハイスペックなイケメン!
で、国王は国政の安泰を取り、父の条件を飲んだもんで、王太子は母を諦めるしかなかったと。
そして今の国王なり、王子は2人しか生まれていない。
ああ、アイツか。アイツが側妃の子で、最悪なやつだ。
ドアを破壊したキラキラ笑顔の王子の顔が浮かんで、片口角を上げて失笑の息をもらす。
それから、父と母は国王から許可が下りてすぐに結婚して、兄が生まれている。
兄はあの王子と同級生らしい。
そして国王は今度は私が生まれると、王太子の婚約者にする事を王命で指示したらしい。
まだ母に執着しているようにしか思えない。
婚約の理由は爵位の高さと豊富な魔力。けど、爵位で言うなら他にも令嬢がいるし、ルキアーナちゃんは魔力あるけど魔法は使えない。魔法が得意な令嬢もいて候補者に困ってないはずという。
父は激怒したけど、王命は絶対なので聞くしかない。
仕方なく受ける代わりに、しぶしぶ条件を出したらしい。王太子は決まっていない。ルキアーナちゃんが16歳になるまでに婚約者に選んだ王子が王太子となる事。結婚は王立学園を卒業した18歳以降にする事。
16歳になるまでに選ぶ。ルキアーナちゃんってめっちゃ責任重大……。
聞いた話に気が遠くなり、フラッとなる。
そんな私に父は王子たちの事も教えてくれた。なんせ記憶喪失設定が発動してるから。
第一王子の名前はキロネックス・コア・クルリスターでお兄様の同級生で20歳。
金髪に青い瞳で見た目は華やか、水魔法が得意。
王族特有の傲慢さと非道さを持つが、外面が良く覚えめでたく学業、剣技、魔法も優秀という。ついでに大きな声では言えないが女癖は悪いらしい。
そんな事私に教えていいの?と聞くと、いけない所も知っておく必要があるだろうと。
しかしキロネックスとは、毒クラゲの名前通り見た目キラキラ中身猛毒。ほんと毒ありな男だったな。
そして第二王子はラトルスネイク・コア・クルリスター、15歳、黒髪に黒瞳で病弱。
魔力は第一王子より高いけど、魔法の扱いはイマイチ、というのが属性が闇と希少で扱いが難しいんだって。
第一王子が毒クラゲで、第二王子がガラガラ蛇とは…………王様のネーミングセンスよ。こっちの世界ではいい意味なのか?
名前はあれだけど、まだ見ぬ黒髪に黒瞳の王子を想像して日本人に近そうで、私は親近感が湧く。
けど彼には秘密があって、どうやら世間では病弱とされているけど、実際は父曰く、ただの引きこもりらしい。
気が弱くて、全く人とコミュニケーションが取れないらしい。
いやいや、第一がアレで、第二が引きこもり………。
それはどうだろうか? 微妙……。
遠い目になる私を見た母が、
「ゲイル国王はどういう子育てをしているのかしら、これではルキアーナがかわいそうです。今からでも王命を解いていただく事はできないのかしら? この間も死にそうな目に合って、精神的ショックも受け、不憫で仕方ありません。」
憂て瞼を落とす、母綺麗です。
そんな母に、兄は頭をガシガシかいて、
「キロネックス殿下は優秀なんですが、底根がネジ曲がっているのですよね。ラトルスネイク殿下は心根が弱すぎてひ弱なんですよ。よし、殿下方には騎士団でより厳しく鍛錬していただきましょうかね。そうすれば殿下方もマシになってくるのではないでしょうか!」
と、ものすごく真剣に言う。
真剣に、底根が曲がってるとか、ひ弱とか、マシになるとか、まあまあ兄の発言も不敬。
「そうだな、それができれば少し変わっていたかもな。」
父も苦笑いだ。
「オリビア、申し訳ないが王命が覆る事はまずない。だからルキアーナが婚約者候補を外れる事はない。ましてルキアーナが選んだ王子が王太子になる事になっているのだからな。しかも令嬢の中にルキアーナほどの魔力を有した者がいないのもまた事実。王族は何より魔力を求める、生まれる子もまた次代の王にと魔力が多い者を望まれるからな。」
父の言葉に皆が口を紡いで、静寂に包まれる。
めっちゃ気が重い。
なんかルキアーナちゃんが生きる希望失ったのは、この辺りに原因がある気がする。
そう思っていると、母が私を見て語るように話始めた。
「ルキアーナ、あなたは生まれた時から尋常ではないほどの魔力を有していた為に、生まれてすぐ婚約者候補となりました。8歳で貴族教育を終え、今度は王太子妃となるべく妃教育も始まりました。王子たちは昔からあんな様子で、あなたを幸せにしてくれるとは到底思えなかった。それでもあなたは王子を支えるのが妃の務めと王宮に言い聞かされ、厳しい教育に泣く泣く耐え過ごしていました。王族となる者は感情をコントロールして表情から読み取られないようにするよう教育を受けます。それが仇となり頑張りすぎるあまり、自身の感情全てに蓋をしていった様に思います。日を追うごとに、どんどん表情を失っていきました。笑う事も怒ることも、泣くことさえ無く仮面のような無表情に。貴族令嬢とは家の為に嫁ぐ事はよくある事で、特に女は夫を支える様に教育されて育ちますが、ある程度は自由に羽目を外して遊ぶことも可能です。でも、ルキアーナは王妃にと望まれてしまった、逃げる事も羽目を外すこともできない。将来国母となるべく隙のない人物像を求められ、辞す事もできず、厳しく縛り付けられていたのだと。今思えば、もっとルキアーナに手を差し伸べれる事があったのではと。」
言葉が出ない。
何歳からずっと、教育に縛られて………。
将来の伴侶はほぼ勝手に決まり、子供らしく遊ぶ事も出来ず、感情が死ぬほどの教育って、もうありえないんだけど。その上、命も狙われて。
ストレス抱えすぎだよ。そんな生活が続けば心も壊れちゃうよ。
夢や希望もなく生きれないよ………。
生きたくないって、もういいかって思うよね………。
ルキアーナちゃんを思うと、胸が痛くて息苦しい。
父も兄も鎮痛な表情で、テーブルを見つめたまま動かない。
母は震える声で、
「攫われた事もおそらく王太子妃の座を狙っている貴族の企みでしょう。ルキアーナがいなくなれば、王命は無効になりますから。でも、あなたが怖い思いをして記憶を失ったと聞いて、ショックと共にホッとした自分もおりました。あなたが王子の婚約者にならなくても良いのではないかと。王妃とは教養もですが、健康や心の芯の強さも求められます。精神脆弱が辞退の理由になるのではないかと。ルキアーナは記憶を取り戻したいかもしれない、でも今のままで私は構わないと思っております。辛かった日々を忘れて、幼な子のように表情豊かに過ごせるなら、人間味を帯びていて私は嬉しく思います。」
ホロリと泣き笑いの母の頬に涙が伝う。
同意するように父も兄も何度も頷いている。
ルキアーナちゃんの母の思いを聞いたのは、ここに来て初めてだった。
お母さんもお父さんもお兄さんもたくさん思う事はあっても、ルキアーナちゃんの状況に手が出しにくい現状は辛かったろうね。
母親の辛い思いが伝わって、私の瞳も潤んでいく。
家族の為に頑張るルキアーナちゃんと、ルキアーナちゃんの頑張りを無碍に出来ない家族。
どちらも頑張ってきたんだね。
王命酷すぎる、人生に影響がありすぎだよ。
涙をこぼし続ける母の肩を父が抱く。
「そうだな、国王に掛け合ってみよう。私も王命が覆るようもっと努力してみるよ。」
おお、父が掛け合ってくれる。
それは1番良いかもしれない。
そうだよ、なにもルキアーナちゃんがそんなに頑張らなくても、いいよ。
王妃となる人は体も精神も健康で、しっかり教養を身につけた人が望まれ大変なんだろうけど、なりたい人はごまんといるはず。
それに今のルキアーナちゃんは、記憶喪失設定で現代人の令嬢とは程遠い私なのだから、私が王妃になるよりは、うんといいよ。私も助かるし。
王命が撤廃されたら、王子達の婚約者になる事もなく、妃教育の必要もなくなり、ルキアーナちゃんは今より自由を求める事が出来るはず。
そうなれば、ルキアーナちゃんも好きな事ができて、やりたい事とかも出てきて、弱った魂が復活してくるかもしれない!
素晴らしい、是非父には頑張ってもらわねば!
「お父様、お母様、お兄様、私の事を心配してくれて、たくさん考えてくれていて、ありがとうございます。」
にこりと笑ったら、溜まっていた涙がこぼれてしまった。
みんな私の言葉に、本当に嬉しそうに微笑んだ。兄も私の頭を撫でてくれる。
「父上には無理をお願いしますが、ルキアーナの事よろしくお願いします。」
兄も嬉しそうに父に頭を下げる。
よーし、希望が出てきた!目指せ、婚約者候補辞退‼︎
父頑張って!
閲覧していただき、ありがとうございました。
家族愛です。
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