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9 わずかな変化

閲覧ありがとうございます。


目覚めたら、朝だった。


あれ?父たちから魔力の流し方を聞くくだりだったような?


夢?


半分夢現でぼんやり起き上がる。


いや夢ではないように感じる。


この指先の温かい感じ、やっぱり全身を薄い膜が覆っている感じがする。


指で薄い膜を摘もうとするが、摘めそうにない。

なんだろう?


「お目覚めになられましたか?」


ルーラがいつもの顔で、レースを上げていく。


「おはよう、ルーラ。私は……?」

「はい、お嬢様は昨夜魔力酔いを起こして、倒れてしまったようです。」


「魔力酔い?」

「はい、魔力を初めて扱う者、突然強大な魔力に目覚める者、体が弱った者などが魔力を扱いきれず目眩や意識消失を起こすのです。」


「魔力を初めて……」

「お嬢様は昨夜魔力の澱みの治療を受けた際、体が本調子でなかった事もあり、魔力酔いを起こしてしまったとサンタール医師が申しておりました。」


「そうなのね。」


魔力酔い………


きっと、私のせいだ。

私の魔力が混ざってしまって。


ルキアーナちゃんの体も2種類の魔力には堪えてしまったんだろう。


私だって元日本人だし、魔力とは縁もゆかりもなく育ってるから魔力の感覚はよくわからない。


けど今は少し感じてる気がする。この温かい感じや薄い膜がそうなんだろう。



ゆったり鏡台へ移動させられ、ルーラに髪を梳いてもらう。


アシンメトリーの髪も見慣れてきた。


「あら?」

櫛を持つルーラの手が止まる。


「どうかした?」

「はい、お嬢様の髪の毛はいつもながら綺麗な銀髪なのですが、たまにチラッと違う色の髪の毛も混ざっているようです。茶色のような黄色、いや薄いオレンジ色かしら?」


「そうなの?」

眉をひそめると


「大丈夫です。数本あるだけで、全く気になりませんし、素晴らしい銀髪には変わりありません。ショックが強いと白髪になる事もあるらしいですし、お嬢様も怖い思いをしたんです、髪もショックを受けたのでしょう。無理矢理切られましたしね。」


そうなんだろうか……‥ショックで?


……………怖いと思った。


私はむしろ、魔力と同じで、私が少し出てきたのではないかと思う。


そのうち全面に私が出てくるのではと不安になる。


魔力に変化が出て、髪色も変わっていって、他にも変化が増えて、ルキアーナちゃんが私寄りに変化していってしまったら。


当然、私の事がこの家族たちに気付かれ、みんなに責められるだろう。


ルキアーナちゃんの体を乗っ取っている奴だ、いい気はしないよね………。


みんなの優しい顔を知った分、責められたら辛いなぁ。


もしそうなった時は精一杯謝ろう……。

そしてルキアーナちゃんに生きてほしかった事も伝えよう。


膝の上でキュッと手のひらを握ると、ルーラが手を止めた。


「はい、出来ましたよ。」


サイドを複雑に編み、ゆるくまとめてある。


「ありがとう、ルーラ。」


私の感謝に嬉しそうに笑うルーラ。この笑顔が守れるように。


それから、いつもの朝食に向かったのだった。



  ♢♢


午後、私は昨日同様、ルーラに図書室前まで連れてきてもらっていた。


魔力の使い方は聞いてないけど、なんかこの体を包む薄い膜のおかげで、図書室の鍵があけれるような気がするからだ。


なんとなく、この薄い膜はルキアーナちゃんがしてくれてると思ってる。


魔力の使えない私の為にしてくれてる気がするのだ。


父は仕事で不在のため、サンタール医師に同行してもらった。


もちろん魔力操作の確認をしてほしいから。


「いきますよ。」


胸の前に手を伸ばして、手のひらを赤い石に近付け………チョン、わずかに触れた途端。


………ガチャン…


「開いた………。開きました‼︎ 開きましたよ!」

興奮して、サンタール医師に振り返る。


そこには大きく目を見開き、固まる先生がいた。


「ふふふ、昨日できなかったのに、すごいでしょう。」


得意げに言うと、先生はおでこに片手を当てて首を振った。


「いやいや、ありえんですよ。」


「え〜、開けれましたよ。エーデル侯爵様に魔力の流れを良くしてもらったから、開いたんですよね?」


ほら、とパカンと開いた扉を手のひらで指す。


でもそんな事お構いなしに、先生は私を上から下まで観察する様に見る。


何かおかしいのかしら………。

眉をひそめる。


そんな私の表情に気付いたのか、サンタール医師は一歩一歩下がって離れた。


「これは失礼しました。不躾に見てしまい、申し訳ございません。」


「いえ、大丈夫ですけど………。」

けどの疑問が顔に出たようで、


「少し説明しましょう。」

と言って、サンタール医師は図書室の外に案内した。


外から見る図書室は本当に大きい。


個人図書のレベルじゃないわ、近所の方も利用したら?と思う。


近所の家は全く見えないけど。


しばらく歩くと、3メートルほどの高さのポールが見えてきた。


黒のポールの先には、水色の、いや空の色が透けて見えてるのかも。

透明な石が付いている様だった。

見た感じ街灯っぽい。


ポールの前にサンタール医師が立ち止まる。


そして空を指して、

「ルキアーナ様、どのように見えますかな?」


なんでそんな質問するのかが分からない。


え〜?


見上げると青い空。強いて言うなら、


「白い山の様な形の雲ですかね〜。いや、山では普通だから、端が伸びているから、羽根……そう羽根の形の雲に見えます!」


と答えると、サンタール医師が狼狽える。


「あ、いや、そうではなくてですね………。」


「違いましたか。何の形でしょう?」

「いえ、そうではなくて」


「流れて細い川のような形になってしまいました。」

「いえ、雲の形を聞いたのではございません!」


え?

そうなの?

でも他に空には何もない。ポール?


「綺麗な青い空と白い雲とポール以外に何かあるのですか?」


私の言葉に、サンタール医師の表情はひどく真剣だ。


「キラキラ光っては見えませんか?ポールの先の石が。」


石…………。


特に光っては見えない。ただ透明っぽい大きめの石があるだけだ。


「光ってません。透明な石があるのは分かりますけど。」


私の答えに頷いて。


「瞳にも歪みが出ているやもしれませんな。」


首を傾げる。


「通常魔力の弱い物は、魔法は見えても、魔力は見えません。」


そう言ったサンタール医師の緑瞳が光って、急に右手から緑の蔓植物を出現させた。


「わーすごい!手から植物を出せるの?」


思わず感動してサンタール医師の手を掴む。


「ははは、感動してもらえて、何よりです。」

「手から急に生えたわ。葉っぱ本物だわ。」


「そうです。魔法とは見えるのです。頭で作り出したい魔法をイメージします。そして魔法を使おうとする手や場所に魔力を集めて、その集まった魔力で具現化するのです。」


へえ、魔法ってそうやって出来るのか。魔力って大事なんだねえ。


「そして魔力の多い者は魔力を感知する能力にも長けてくるので、魔力を感じたり見えたりする者が出てきます。おそらく図書室の鍵を自身の魔力で開けれないルーラは魔力が見えないでしょう。」


少し離れたところにいるルーラが頷く。


サンタール医師がポールを指す、ルーラも顔を上げて石を見て首を横にふる。


「そしてルキアーナ様を初めウィンテリア家の者も私も、魔力はかなり高いので魔力が見えます。その証拠に、このポールは魔力が集まっているので、石はとても眩しく発光しています。これらのポールに溜まっている魔力は、敷地内の結界のエネルギー源となっています。発光の強さで、魔力の残量が一目瞭然でわかるのです。そして定期的に宰相閣下がポールに魔力を流して、屋敷全土を守っています。」


いかにも魔法の世界って感じの話だった。


魔力にも色々な使い方があるのね。


「結界って何から守ってるんですか?」

「悪意を持つ者や魔獣、魔物の侵入を防いでいます。」


えっ、怖っ!!


普通に不審者の侵入を防ぐ物かと思ったら、もっと規模がデカかった。

規模の大きさにびっくり。


「魔獣とか魔物ってどんな物か分かりませんが、その辺に居るものなのですか?」


ビビって思わず周りをキョロキョロしてしまう。


「いやいや、おりません。怖がらせてしまいましたかな。人の居住区には滅多に現れる事も無いですが念の為の防犯です。」


穏やかにサンタール医師が笑ってくれるから、ほっとした。


良かった、この辺に変な生き物がいなくて。


「お父様に感謝しないといけませんね。」


ニッコリ笑ってポールの石を見つめる。


私にも魔力とか見れたら良いのに。


何も見えない私には、サンタール医師の手から急に植物が生えてきたように感じた。どうやって出てきたか分からなかったし、ポールがどれだけ光ってるのかもわからない。


見えないってなんか損してる気がする。


見えたら、もっといろんな景色が違うのかもしれない。


そんな事を考えている私に、サンタール医師は諭すように話し始めた。


「以前、ルキアーナ様は魔法は使えなくても、魔力は流せていましたし、見えてもいました。宰相閣下でなくてもウィンテリア家の血筋ならポールに魔力を流して貯める事ができるので、例外なくルキアーナ様も魔力の補充をしておられました。でも今は体の内に膨大な魔力を感じるのに、魔力が全く流せない。」

「…………」

「そして、魔力が見えない。ルキアーナ様ほどの魔力を有していて見えないというのはありえません。これは瞳も魔力の弊害があるのではと考えます。特に瞳は魔法属性を反映させる大事な器官ですから、またなにかが阻害している可能性があります。早急に調べる必要があります。」


ここでも私が邪魔をしているような気がする。


ドキドキして変な汗が出る。


そんな私を他所にサンタール医師が更に首を捻る。


「かと言って、団長殿が言っていた2種類の魔力はありえないのです。魂に付随して魔力は1つという概念は古来からずっと変わらぬものです。しかもルキアーナ様は無属性。たとえ後発で属性が発生したとしても、それが魔力を淀ませたり阻害し合うとは考えにくいのです。」


ゔっと詰まる。

バレ、バレそう………。


「しかし恐怖体験というのは内面、精神まで害してきますから、魔法はイメージが大切ですから、なんらかの影響が出たのかもしれないですな。さぞ精神ショックが大きかったのでしょう。ルキアーナ様はまた記憶障害や別人の様な表情の変化もございます。私は心配でなりません。最近よく眠れていますかな?」


嫌な流れが一転、めっちゃ心配され出した。


これはこれで、嘘ついてる手前居た堪れなくなってくる。


「昨日みたいにエーデル侯爵に魔力を流してもらえば、治るのでしょうか?」

私の言葉に、すぐ首を振る。


「昨日の様に、ルキアーナの瞳に直接魔力を流してもらう事は反対ですな。瞳は魔法に直結する繊細な器官ですので、万が一にも失明に繋がる可能性もありますのでやめておいた方がいいでしょう。治療法があるか様々な者に、話を伺ってきますので、しばし猶予をいただけたらと思います。」


こくんと頷く。


「まあ、問題はそれだけではないのですがね。」


まだ問題があった⁈


目が飛び出そうになる。


「先ほども言った通り、私は魔力が見えます。図書室の扉を開ける際、通常魔力が魔石に吸い取られる事で鍵が開きます。ですので魔力が魔石に向かって流れているのが見えるのです。でもルキアーナ様が開けた際は全く魔力が見えなかった。でも扉が開いた。開くはずが無いのに開いたんです‼︎ これがどういう事なのか。」


えっ近い‼︎

怖い、先生!


「な、なんででしょう?」

「分からないのです。これも調べてみなくてはなりません。」


開いたのはこの薄い膜のような物のおかげだろうけど……先生に見えないなら、なんか言わない方がいい気がする。


「よろしくお願いしますね。」

そうぎこちない笑顔で言うと、


「こうしてはいられない!」

と言って、先生が昨日同様走って行ってしまった。



しばし遅れて、私もルーラと屋敷に向かう。


2種類の魔力、オレンジ色の髪の毛、体を覆う薄い魔力の膜、魔力の見えない瞳。


少しずつ増える変化に自分を感じて、不安になるのだった。







閲覧ありがとうございました。


サンタール医師、大変です。


面白ければ、ブックマーク、評価をよろしくお願いします。


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