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4.様子がおかしい断罪劇

 突然フリッツが体調不良に陥った事で、オレリア達への断罪劇は一次中断された。


 その原因でもあるフリッツだが……つい先程まで気張った表情を浮かべながら、エセルフリス達と一緒にオレリア達への断罪劇に参加しようとしていた。しかし、今は死人のように顔色を青白くさせ、ヴィクターに支えられていないと立っていられないというぐったりした状態だ……。

 しかしそんな状態のフリッツを心配するどころか、マリーベルは楽しげに辛辣な言葉を容赦なく浴びせ始める。


「あらあら、フリッツ様。どうされたのです? 今度はあなた様が、わたくしの事をオレリア様方のように断罪してくださるのではございませんの? それなのに……そのようなしなびた野菜の真似事などなさっていてはいけませんわ。さぁ! どうぞ遠慮なく、わたくしを断罪してくださいな!」


 まるでロマンス小説によく出てくる主人公を苛め抜くライバル令嬢になり切ったようなマリーベルの立ち回りにエセルフリス達だけでなく、オレリア達も含む会場内の人間が唖然とし始める。

 フェシリーナなど、その狂ったように暴走を始めたマリーベルに恐怖を感じてしまったのか「こんな展開があるなんて……」と呟き、エセルフリスにしがみつきながら、フリッツと同じくらい青い顔をしている。


 しかし、会場中を唖然とさせたマリーベルの大立ち回りを見せつけられてもフリッツは、かなり不調なようで言い返す気力も出ない様子だ……。それでも虚ろな瞳をしながら、何とかのろのろと顔を上げる。

 そんな弱り切ったフリッツにマリーベルが更なる追い打ちをかける。


「まぁ、体調不良では仕方ありませんわね……。ですが、フリッツ様。どうぞ、ご安心くださいませ。実は先日からわたくし、父にフリッツ様との婚約を見直して頂くよう打診しておりますのよ?」


 その瞬間、死んだ魚のように虚ろな目をしていたフリッツが、何かに怯えるように驚愕しながら、ゆっくりと目を見開く。

 その反応を楽しむようにマリーベルは、更に意地の悪い笑みを深めた。


「8年前、フリッツ様より是非にと頂いた婚約の申し入れでしたが……。時が経てば、殿方の女性の好みなどは変わりやすいもの。ですが、お気になさらずに! わたくしも外交をメインとする伯爵家の生まれでございます。顔が広い父にかかれば、すぐに新たな婚約者を見つける事が出来ますわ。ですから、どうぞフリッツ様は、今現在お慕いしている女性の為に今後の人生を謳歌してくださいませ!」


 まるで会場全体に語りかけるように両手を大きく広げ、婚約解消の意志がある事を宣言したマリーベルは、今度はくるりと向きを変え、エセルフリス達にニッコリと微笑みかける。


「エセルフリス殿下、並びに側近候補の皆様も今後は、どうぞフリッツ様のようにご自身が大切にされたい女性を守る事に専念なさってくださいませ。わたくしの父の情報によりますと……皆様のご婚約者様は、近隣諸国のご令息方や爵位を継がれている独身貴族の方に大変人気がおありとの事です。もし皆様から婚約を解消されたとしても、必ず良縁に恵まれますわ。特にオレリア様のような素晴らしい女性は、すぐに婚約の申し入れが入る事でしょう。何故ならこの三年間、殿下の学園生活をご存知の国外の王侯貴族のご令息方より、オレリア様の婚約が解消をされた際は、すぐに知らせて欲しいと数名の方が父に依頼されているくらいなので」


 マリーベルが、更に意地の悪い笑みを深めながら語った内容に何故かエセルフリスが、分かりやすいくらいに体を強張らせた。


「エレノア様とセアラ様に関しても同様でございます。エレノア様は国内のすでに家督を継がれている独身の爵位ある殿方から熱烈な支持がございますし、セアラ様は隣国では、それはもう大人気でして! もしかしたら隣国の王族からも婚約の打診があるかもしれませんわね」


 すると今度は側近候補二名が、ビクリと肩を震わせる。

 ヴィクターなど驚きのあまり一瞬、フリッツを支える力が抜けてしまったようで、危うく友人を床に落とすところだった。

 そんな複雑な心境の男三名の反応を華麗に無視したマリーベルは、今度は真剣な表情を浮かべながらオレリア達の方へと向き直る。


「皆様……今はお辛いかもしれませんが、やはり女は自分を求めてくださる殿方と添い遂げる事に幸せを感じると思います。もし今、パートナー候補の殿方に思う事があれば、思い切って切り捨てる事も選択の一つです。その場合、外交を得意とする我がブバルディア家が全力で皆様方の新たな婚約相手をご提案させて頂きます。どうか一つの選択肢として、是非ご検討くださいませ」


 そう言って真っ直ぐな瞳を向けてきたマリーベルは、何故か覚悟を決めたような鬼気迫る雰囲気をまとっていた。

 そんな自身の婚約解消を匂わせただけでなく、何故かオレリア達の婚約継続についても不穏な展開を匂わす発言をマリーベルがした為、卒業パーティーの参加者達が(ざわ)めき始める。同時にオレリアだけでなく、エレノアやセアラもその雰囲気に呑まれ始めた。


 確かにこのような状況になってしまったのならば、相手の有責として婚約解消へと話を進める事が一番簡潔で全うな対処法になるだろう。しかしオレリアの場合、婚約者が王族でもあるエセルフリスである。王家が、そう簡単に自分達の有責を認めてくれるかは、かなり微妙だ……。


 ましてやオレリアは王族向けの教育を受け、すでに終了させてしまっている。そこまで手塩にかけて教育を施した息子の婚約者を王家は、そう簡単に手放してはくれないだろう……。

 だからと言って、オレリアの有責で婚約解消を望んでしまうと、今度は賠償金問題で家に多大な迷惑を掛けてしまう。たとえオレリアの父が娘の事を思いやって、そのように動いてくれたとしてもオレリアは深い罪悪感に襲われてしまうだろう。


 そもそも一番の問題点は、オレリア自身がエセルフリスとの婚約解消を全く望んでいない事だ。

 確かにフェシリーナばかりを気にかけ、婚約者である自分を蔑ろにしがちだったエセルフリスには、色々と思うところはある……。だが実際問題、これと言って浮気に該当するような行動をエセルフリスは一切していないのだ。


 そしてその裏付けは王家によって、すでに取られていた。

 実は一年前、オレリアはあまりにもエセルフリスがフェシリーナばかりを優先する為、彼の母である王妃エスティーナにその件を相談したのだ。すると王妃は、すぐに国王に掛け合い王家の影を使って調査する手配をしてくれた。

 結果エセルフリスも含め、四人の令息達が浮気をしている可能性は白の判定だったのだ。


 だが、四人が必要以上にフェシリーナに執着している状況は、王家の影からもかなり報告が上がっており、国王夫妻も眉を顰めたくなる結果だったらしい。その部分に関しては国王夫妻も思う事があるようで『早急に原因を調査するので、もう少し時間が欲しい』と王妃エスティーナからオレリアは懇願されていた。


 しかし、あれからすでに一年が経過している……。

 そもそも原因を調査するも何も、単純にエセルフリス達がフェシリーナという一人の令嬢に一斉に心を惹かれたという状況にしか思えないのだが……。何故か王家の方では、その状況に何か原因があるのではと考えているらしい。


 もしエセルフリスが自らの意志で、フェシリーナを選ぼうとしているのであれば、オレリアも大人しく身を引こうと思っている……。だが、エセルフリスの意志とは別に何か原因があって、フェシリーナに気持ちが傾倒しているのであれば話は別だ。

 その場合、オレリアは一切身を引くつもりはない。


 オレリアがエセルフリスと婚約をしてから早12年……。

 この期間、オレリア達は厳しい王族教育を習得する為、時には互いに叱責し合い、時には二人で涙しながら励まし合って、ここまで来た。

 だがそんなオレリアは、エセルフリスがフェシリーナに抱く甘く溺れてしまいそうな感情を抱きたくなるような恋人特有の関係を築く事は出来なかった……。


 しかし、その代わりエセルフリスとは、互いに安心して背中を任せられる程の深い信頼関係が、しっかりと築き上げられていたはずだ。それがたかが三年ごときの……しかも他の令息達との関係醸成の合間に深められた薄っぺらな関係に負けてしまったとは、オレリア自身も受け入れたくない結果なのだ。


 だが王妃の『調査する』という言葉から、何の進展がないまま一年も経過してしまった今では、すでにエセルフリスの中でオレリアよりもフェシリーナの存在の方が大きくなってしまっている事を物語っているとしか思えない状況である。

 それでもこの12年間、自分が夫に迎える相手はエセルフリスだけだと信じて疑わなかったオレリアの認識は、そう簡単には変える事など出来ない……。


 恐らく今この四人の令嬢の中で現状婚約解消を検討しているのは、先導しているマリーベルとセアラの二人だけだろう……。

 セアラは、自身の意志というよりも婚約者トルキスの意志を尊重したいという理由で。

 マリーベルの方は、フリッツ本人からの強い要望で受けた婚約にも拘らず、この三年で蔑ろにされた事への怒りで、それを望んでいるはずだ。


 逆にオレリアと騎士団長の息子を婚約者に持つエレノアの場合、相手の都合上による政略的な意味合いが強い婚約の為、自分達からは簡単に婚約解消を申し出る事は出来ない。


 オレリアの場合、王家が厳選に厳選を重ね、最も相応しい第二王子の臣籍降下先として婚約相手に選ばれた経緯がある。今更、ぽっと出の淑女としてのマナーをまともに身につけていない令嬢を王族であるエセルフリスの婚約者にするなど、ある意味王家の恥となる。仮にフェシリーナが優秀な令嬢だったとしても、エセルフリスの臣籍降下先が子爵家になる事は、王家としてはあまり好ましくない展開だ。


 そういう意味では、エレノアの場合も同じである。

 辺境伯を父に持つヴィクターは、エセルフリスの側近を何年か務めた後、いずれはその家督を継ぐのだが……。国境警備に定評があるこの辺境伯家は、実は隣国との交渉事に関しては相手の方が一枚上手で、苦汁をなめさせられる事が多いのだ。


 その状況を少しでも軽減する対策として、幼少期から才女として名を馳せていたエレノアを嫁がせ、隣国のメリットばかりが考慮された契約内容を見直しさせるという王家の目論見がある政略的な婚約だったのだ。その為、ヴィクターの婚約相手もエセルフリス同様、簡単に変更など出来ない。

 その背景を重々理解しているエレノアは先程、仮面夫婦となる未来が訪れても自身は受け入れると言い切ったのだ。


 だが、それだけ重要な政略的意図がある婚約だったとしても、婚約する当人達が受け入れたくないと言い張れば、破談という展開も訪れてしまう。だが、今までその声が二人から上がらなかったのは、エセルフリスもヴィクターも自分達の婚約には、かなり政略的な事情が絡んでいる事を十分な程、理解していたからだ。


 それが自由奔放なフェシリーナと出会った事で、二人は自分達だけ自己犠牲要素が強い婚約状況だという事に気付き、嫌気が差したのかもしれない……。王侯貴族としての責務を全うする為、己の人生を犠牲に出来るかどうかは、もはや本人達の人間性と責任感次第である。


 だが、三年前まではその責務を優先させる事が当たり前だという認識だった二人はフェシリーナによって、この三年間ですっかり自分優先の思考に変えられてしまった……。そんな二人の考え方を改めさせる事は、かなり難しい状況だとオレリアだけでなく、エレノアも感じているはずだ。


 その為、二人はこの後、意地でも婚約を解消しないと言い張り、国の為に地位や権力に固執している令嬢を演じなければならない。そんな二人を周囲は、自身の婚約者から疎ましく思われ、地位や権力に固執する浅ましい令嬢という冷ややかな視線を送ってくるだろう……。

 たとえそれが、この国にとって重要な婚約である為に固執しているとしても。

 そんな覚悟をお互い確認するようにオレリアは、エレノアの方に視線を向ける。

 すると、エレノアも同じ考えなのか、ゆっくりと頷いてくれた。


 オレリアとエレノアは互いに参加するお茶会で一緒になる事が多く、その際に何度か会話を弾ませた事はあるが、セアラ程の親しい間柄ではない。

 しかし、中等部から学年首席を何度も経験している優秀なエレノアとは、どこか自分と似ている部分を感じていた。その為、オレリアはずっと親近感のようなものを抱いていたのだが、まさかこのような形で、距離を縮められる機会を得られるとは思ってもみなかった。


 それはエレノアの方でも同じなのだろう。

 互いに目を合わせて頷いてくれた際、気苦労が絶えない自分達の状況を労い合う戦友のように苦笑を返された。もしこの茶番劇が終わったら、もっと積極的にエレノアと交流を図ってみようと呑気な事を考えながら、オレリアは真っ直ぐな瞳をマリーベルに向ける。


「マリーベル様、そのようなお気遣いあるお声がけを頂き、誠にありがとうございます。ですが、わたくしとエセルフリス殿下の婚約は王令によって結ばれたもの。今後この婚約が継続されるかは、全て王家の判断に委ねる一存です。ですが、もし……エセルフリス殿下が婚約解消を望まれる状況が訪れたならば、その時は是非お力添えをお願いしたいと思います」


 そのオレリアの言葉を聞いたエセルフリスが、何故か茫然自失といったような表情を浮かべた後、何やら思い詰めた表情を浮かべ、そっとオレリアから視線を逸らした。

 そんな自身の思いを語ったオレリアに続き、エレノアの方も口を開く。


「わたくしもオレリア様と同じ考えでございます。ヴィクター様との婚約は、今後の辺境伯領を政治経済的部分で助力して欲しいと現辺境伯様のみならず、王家からも打診があり結ばれたものになります。たとえヴィクター様にとって、わたくしが何の感情も抱けない女であっても、領民の為にと耐えて頂く事は大変心苦しいとも感じておりますが、それでもわたくしは自身が与えられた役割を全うしたいという気持ちの方が強いのです。ですが、もしヴィクター様に他の女性を選ばれたいという強いお気持ちがおありなら、わたくしはその要望もしっかりと受け入れる覚悟も出来ております。ですので、そのような事態が起こった際は、改めてマリーベル様にご相談させていただきます」


 エレノアは凛とした雰囲気で婚約解消を提案してきたマリーベルではなく、何故か婚約者であるヴィクターに視線を向けて、そう告げる。すると、フリッツを支えたままのヴィクターも一瞬だけ、茫然した表情を浮かべたが、その後は眉間に皺を刻んで何故か悔しそうに視線を床に落とした。

 すると二人の意見を聞かされたマリーベルが、最終確認をしてくる。


「お二人は……婚約を継続するかの判断は、ご自身のご婚約者様に委ねられるという事でよろしいでしょうか……」

「「はい」」


 特に示し合わせた訳でもないのにオレリアとエレノアの声が、自然と重なる。

 その二人の意志を確認したマリーベルは、今度はセアラの方に視線を向けた。

 するとセアラが、ビクリと肩を震わせる。


「セアラ様は……いかがされますか? 婚約者であるあなたを証拠もないのに嫌がらせを行った人間として疑われているトルキス様と、このままご婚約を続けられますか?」


 そのあからさまに悪意のある言い方でセアラの意志を確認してきたマリーベルの言葉に対し、トルキスが過剰に反応する。


「マリーベル嬢! ご自身がフリッツとの婚約解消を検討されているからと言って、我々を巻き込まないで頂きたい!! 私達には私達なりに今後どうするかをこれから話し合おうと――――」


 そのように主張して会話に乱入しようとしたトルキスをマリーベルが、見事にぶった切る。


「トルキス様には伺っておりません!! わたくしはセアラ様に伺っているのです!!」


 その鬼気迫る雰囲気に圧倒されたトルキスが、思わず口を閉ざす。

 対してセアラの方は、どう返答したらよいか分からない様子でオロオロし始めた。


「セアラ様、今無理にお返事をされなくてもいいのですよ? ですが……今後あなた自身は、どのような身の振り方をされたいのか、その部分だけでもお聞かせ頂けないでしょうか」


 自分達の気迫に怯えてしまっている様子のセアラを安心させようと、マリーベルは穏やかな口調で優しく問い直す。すると、両手を組んで俯き気味だったセアラが、恐る恐る顔を上げた。


「わ、わたくしは……何故トルキス様のような優秀な方が、わたくしのような不出来な人間と婚約させられなければならないのか、ずっと疑問で仕方がありませんでした……。その為、トルキス様が望まれないのであれば、すぐに婚約解消に応じるつもりです……。ですが、トルキス様はとても真面目で責任感があるお方なので、王家の意向に応えたいと感じていらっしゃるのであれば、わたくしもそのお考えに賛同致します。その際、意にそぐわない相手であるわたくしとの婚姻をトルキス様は強要される事になってしまい、大変申し訳ないのですが……。その場合、可能な限り足手まといにならぬよう誠心誠意トルキス様のご要望に応えられるよう尽力する所存でございます」


 最初はしどろもどろな様子で俯き気味で語り始めたセアラだったが、後半は自分の意志をしっかりと告げるように、顔をあげて真っ直ぐな視線をマリーベルに向けながら、その思いを告げた。

 その返答内容を聞かされたマリーベルが、やや困ったような笑みを浮かべる。


「皆様はわたくしと違い、このような仕打ちを受けても殿方のご意向を尊重なさる姿勢なのですね……。かしこまりました。では今後ご婚約者様より婚約解消の打診が出てしまった場合は、我がブバルディア家に是非お声がけくださいませ」


 マリーベルの申し出を聞いたオレリア達三人は、互いに顔を見合わせた後、何とも言えない微妙な表情を浮かべながら、マリーベルと共に苦笑する。

 だがマリーベルだけは、すぐにその表情を険しいものに変えた。

 そして、今度はオレリア達の婚約者である男性陣へと向き直り、刺すような視線を放つ。


「今お聞きになった通り、皆様のご婚約者様は今後婚約を継続させるかどうかの判断は、すべて男性側である皆様のご判断に委ねるとの事です。ですが、もうすでに婚約解消をご検討されている方がいらっしゃれば、予めこの場で確認をさせて頂きたいのですが、そのようなお考えの方はいらっしゃいますか?」


 マリーベルの申し出に何故か四人とも固く口を閉ざしてしまう。

 その反応にマリーベルは、未だにフェシリーナを腕に巻き付けているエセルフリスに視線を絞る。


「エセルフリス殿下は、いかがでしょうか? 今の状況を見て取りますと、わたくしの提案は殿下にとって、非常に魅力的な提案になるのではございませんか?」


 急に名指しで婚約継続の意思確認をされたエセルフリスが、王族とは思えない程の動揺を晒すようにビクリと肩を震わせ、言葉を詰まらせる。


「僕は……」


 マリーベルという蛇に睨まれてしまった状態のエセルフリスは、またしても目を泳がせるという王族らしからぬ醜態を簡単に周囲に披露してしまう。

 だが、そのエセルフリスの反応はオレリアにかなりの違和感を与えた。


 この三年間で考え方に大きな変化があったとは言え、いくら何でもここまであからさまに己の動揺をさらけ出してしまうような反応を、あれだけ厳しい王族教育を受けてきたエセルフリスが簡単にしてしまうものだろうかと……。


 少なくともこの断罪劇が開始された直後は、まだエセルフリスは王族の仮面をしっかりと被っていた。だが、マリーベルが参戦した途端、エセルフリスだけでなく、口が立つ事に定評があるやり手のトルキスまでもが、言い負かされてしまっている状況である。


 そんなマリーベル優勢の状態の中、オレリアが特に気になっている存在が、先程から一切言葉を口にせず、ぐったりとした様子でヴィクターに支えられているマリーベルの婚約者であるフリッツの存在だ。現在、虚ろ気味ではあるが瞳は開かれているのだが……何故か今にも泣き出しそうな表情をしている。


 そんな状況から、今この場の実権を握っているかのような存在のマリーベルには、何か不思議な力でもあるのではないかとオレリアは想像してしまったのだが……。

 その想像は、またしても別の暴走を始めた一人の少女よって、打ち消される。


「お、お待ちください!! 何も……今すぐに婚約継続に関する答えを無理に聞き出さなくてもいいと思うのですが!!」


 声を張り上げて会話に乱入して来たのは、意外な事に先程から茫然とした様子で、このやり取りを傍観していた断罪劇の主役でもあるフェシリーナだった。

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