決別
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1週間前、裏切り者とされている人間を知ることになった。正直、納得出来ていない。約3年半、そんな素振りを見していなかったのだから。龍也は黒木たちに向かって反論する。
「ま、待ってください…あいつとは3年半の付き合いです…鬼なわけ…」
「…オフィスビルでの戦いでドローンで軽く生体検査をしたんだ。明らかに鬼の体だった…」
「そんな…」
「あと、これは僕の考えだけど…僕の武器である斧にはある程度の重力を付与する力がある。人間相手だからそんなにかけてないけど普通は1~6Gの間なんだ…でも彼は余裕で6Gでも平気だった。疑うしかないんだ」
「赤城、これは憶測だ。今から血液を撮って検査を行おう。結果…1週間後ですかね?」
「そうだね…血液ならより一層信憑性は高くなる」
「あの…もし威吹が鬼だったら俺にやらして下さい」
そして、現在。龍也の視界には隠れていた黒木がいた。黒木は血液検査の結果を龍也に報告と同時に威吹の捕獲又は討伐を補助する。黒木の連絡用端末に連絡が入る。血液検査の結果、威吹の血液には赤血球、白血球、鬼にしか見られない成分の検出された。威吹は鬼だった。
「龍也…?」
「威吹…お前本当に俺たちを裏切ってたんだな?」
「なん…のこと?」
黒木はすかさず威吹に向かって麻酔弾を撃つ。麻酔弾は威吹にあたりその場に倒れ込む。
「黒木隊長…」
「よく頑張ったね…呉島!灰川さん!氷菓に手錠をかけるので手伝ってください!」
灰川と呉島が物陰から出てくる。その瞬間、威吹の体が地面へと沈んでいく。その場にいた4人が驚く。地面、いや影のようなところを沈んでいく。体が全て影の中に入っていく。
「これは…」
「灰川さん!呉島!戦闘態勢!龍也君もだ!まずいぞ…厄介な鬼が侵入してるとはな…」
「一体なんなんですか?!」
「これは影鬼の能力だ。負傷した鬼を影の中に移動させて回復に集中させているんだ。しっかりしろよ、あか…」
呉島が視界から消えた。どこかに行ってしまった。辺りを見渡す。車庫のシャッターの壁の近くに倒れ込む呉島を見つけた。
「呉島さん!」
「龍也くん!ワシから離れるな!黒木隊長!」
「分かってます!こちら、α班!影鬼の能力を確認!影移動のマーキングがあるの可能性有り!不可解な影を直ちに排除してください!攻撃を加えれば影は消えます!」
他の班に連絡をする。これはもう1人の裏切り者を炙り出すためだ。班を分けている。それにしてもだ…。
「今のは威吹がしたのか?」
「…それが妥当であろう。それにしてもだ…あやつは骨が折れていて、弾を撃たれている…そんなに回復が早いとは…」
「俺は早いよ」
威吹の声が聞こえる。その声は1つの不自然な影からだった。その影から手を出し、頭を出し、そして全身を出していく。そこには完全に回復したであろう威吹が立っていた。
「威吹…」
「龍也…悪いが俺は鬼だ…生まれてからずっと…鬼なんだよ」
「異常なまでに回復が早いですね、氷菓…」
黒木が斧を出して距離を詰め寄る。灰川も刀を抜き、距離を詰めていく。
「俺は回復力が異常に高いんですよ…なんで少しでも時間をくれれば全回復までもっていける…この組織に入ったおかげで筋肉や血液の動きも少しずつコツも掴めた、そのおかげでより一層回復力を高めることが出来た…感謝だよ」
「威吹、お前…」
「悪いけど俺は龍也以外は興味が無いんだ。他の3人はもう1人の裏切り者の対処をした方がいいよ。今頃、血祭りになってるかもしれないから…」
「…?!」
「あーわかんないっすか?俺は鬼ヶ島の4本柱の1つ…水鬼の直属の部下です。今からくるのはもう1人の裏切り者だけじゃなく、その4本柱の1人と別の鬼の部下が来ます…今の警備体制だと直ぐにやられちゃいますよ」
「…灰川さん、呉島を連れてβ班に行ってください…ここは僕がやります」
黒木は汗を垂らしながら灰川にお願いをする。灰川は静かに頷き、呉島を連れて車庫を後にする。威吹は黒木を睨みつけている。
「龍也だけって言ったろ…まぁいいや。あんたは邪魔な家系だからな。殺しておいて損は無いか…」
「龍也くん…ナイフを持て…あいつはもう君の知ってる友ではない。鬼としてみるんだ…」
「…っ!?」
龍也はこの数ヶ月のうちに感じたこともない感覚に襲われた。目の前にいる親友だと思っていた人が鬼であった。そして、鬼が今から自分を殺しにくるのだと。逃げ出したかった。だが、足がすくんで動けない。
「龍也、かかって来いよ」
威吹の低い声が龍也の恐怖心を掻き立てる。訓練の時のかかって来いとは違う。命のやり取りをする声だった。
「お前が来ないなら…」
威吹が静かに近づいてくる。黒木は斧を振りかぶる。威吹は斧を避け、黒木にいれようとする。黒木は片腕で蹴りをガードする。だが、蹴りは腕を折るほどの勢いがある。痛みが骨を伝わって脳内に響く。
「いっ!?」
「レッドっていう戦力はこんなもんかよ…」
黒木は後ろに少し飛び逃げる。今、黒木には威吹が自分を殺す過程を見せつけたように感じた。体の遺伝的な防衛本能だった。威吹は龍也の前で止まる。
「…龍也。悪いが商店街、福島駅のテロ、毒鬼も羊鬼の件も全て俺が手を回してた」
龍也はその言葉に動揺しかけた。今何を言ったんだ?
「…は?」
「…俺は組織への不満を増大させ、お前の信頼する人間を潰すことで組織の衰退、赤城龍也の除隊を促したんだよ…まさか除隊まではいけなかったけど」
「…え、じゃあお前は和紀を殺して、健太を戦えない体にしたのも…」
「…ああ、作戦のうちだ」
龍也は全身の力が抜けていく。自分が信頼してた奴が全ての元凶だった。こんなに世の中は不条理なのか。
「龍也…悪いが死んでもらうぞ」
威吹がその言葉を言ったとき、拳が頬にめり込んでいた。威吹は横によろめく。龍也の拳は血まみれになっていた。強く握り締め、威吹を睨みつける。
「お前は…許しちゃいけないんだ。お前のせいで…威吹!!!悪いが俺はお前を今!ここで!殺す!!」
「そうだよ…それでいいんだよ!龍也は!それでこそ!あいつらの末裔だ!!」
威吹は鬼化を行い、龍也に向かって走る。龍也もナイフを持ち直し威吹がくるのを立ち向かう。
β班は海斗、伊藤、近藤、木村、吉岡と他の隊員でもう1人の裏切り者である影野を捜索していた。その捜索と同時に黒木から報告があった影を消していく。
「この影…至る所にあるな…」
「なにか出入口でしょうか?」
目の前のグリーンとブルーの棟を繋ぐ渡り廊下に影野を見つけた。木村が大きな声で叫ぶ。
「影野!止まれ!お前を鬼の疑いとして捕縛する!」
影野は後ろを振り返る。そして、指を指す。その指を指している方向には不自然な影があった。海斗は急いでハンドガンを撃った。弾は影に命中した…いや、弾かれた。それは影とは違う。硬い何か。現れる、10年前の戦いで人間を蹂躙した怪物が。そして、厄災という二文字が似合う、もう1人の怪物も影から現れ出る。




