帰省
夏って実家に帰りたくなりますよね
2ヶ月がたち、ジメジメとした季節になってきた。雨が降る日が多くなり、カエルたちが鳴き始める。傘を差す人も増えた。
福島駅の復興は1ヶ月も立たないうちに終わった。健太は脊髄を損傷したことで下半身不随となってしまった。しかし、懸命なリハビリのおかげである程度の歩行はできるようになった。以前みたいに動くことは出来ないが後方支援をするようになり、所属はブルーの第2部隊のままだという。
「にしてもジメジメしてて気持ち悪いなぁー…エアコンつけるかなぁ」
「龍也ーお前の部屋でエアコンつけていいか?」
威吹が俺の部屋にスポドリのペットボトルを持ちながら入ってきた。
「お前、自分の部屋の使えよ」
「生憎使い物にならなくてね」
「はー?てか最近、お前影野さんと飯行ったんだろ?」
「行ったけどなんで?」
「ずるぃーなぁーって思って飯行くなんて」
「福島駅の事件で終わったら飯に行こうって話だったんだよ」
威吹はスポドリを飲みながらスポーツ雑誌をペラペラとめくる。あの事件以降、俺たちの階級は1つずつ上がった。俺と威吹、健太、和紀、影野は一等兵に、伊藤さんは兵長、ハリーさんは曹長、海斗隊長は中尉に昇進した。犬島リーダーが言うには「こんな短期間で昇進はあまり見ない」とおっしゃっていた。
「おーい、お前らいるか?」
入ってきたのは海斗隊長とハリーさんだった。ハリーさんは涼しそうな中高生が見たらドキドキするような服装だった。海斗隊長は相変わらず隊服だが袖を上げていた。
「海斗隊長!ハリー曹長!なんでここに?!」
「お前らの部屋を見に来たんだ。龍也も威吹も部屋が綺麗だな。感心感心」
海斗隊長は床に座り、手に持っていた緑茶のカンを開けて飲み始める。ハリーさんも座っていた。
「もしかして、俺の部屋で涼みに来たんですか?」
「あ?あー、俺とハリーの居る宿舎棟のエアコンが効かなくなってな。お前らの部屋を見に行こうと思ってそのついでに…」
「涼みに来たってことですね」
「おう」
「言葉のないパワハラに感じますよ…」
「威吹ー、それは違うよぉー」
「それに…お前ら健太の様子は見に行ったのか?」
「はい。だいぶリハビリも進んでいて1、2ヶ月後には退院できそうです」
「そうか、なら良かった」
「そういえば、海斗ってレッドの配属蹴ったの?」
「え、レッドを蹴ったんですか?」
レッドは福島ボイドだけあるチームである。
レッドは中尉以上または討伐成績がトップに近い隊員が所属される。今現在は5部隊、総数は20人となっている。
「な、なんで蹴ったんですか?」
「あー…レッドに所属すると休みが一気に無くなんだよ。さすがに休みたい」
「な、なるほど」
「あと、嫌いな人間がいる」
「…?」
「まぁそうだろうねって思ったよ」
龍也と威吹は困惑していたがハリーさんはニヤニヤ笑っていた。
「まぁそんなとこだ…俺はまだこの部隊の隊長をするよ。お前らだけじゃ心もとないからな」
「うっ…言いますね」
「本当のことだろ?それより、8月の上旬に休みを取ったからお前らも休みにした」
「え?休んでいいんですか?」
「この組織のルール上は部隊の誰かが休んだら休み設定になってるからね。あ、でも緊急招集の時は別だよ」
8月になって直ぐに龍也は実家に戻った。威吹はそのまま寮にいると言っていた。龍也の実家は和風となっていている。家の前まで行くと今どきほうきで掃除をしている子供がいた。黒髪で後ろに一つで縛っている。
「克也!」
名前を呼ばれた克也は顔を上げて満面の笑みでこちらに近づく。
「兄ちゃん、おかえり!え、なんで今日帰ってきたの?!」
「ちょっと休みが貰えたから、帰ってきたんだよ。父さんはいる?」
「うん!書斎にいるよ。あとで向こうの話聞かせて!」
「おう!わかったよ」
弟の克也は好奇心旺盛で龍也と違って難しい言葉など知っている知的な子だ。龍也は玄関を開けて荷物を自分の部屋に置いた。そのまま父がいる書斎に入ろうとする。襖を開けると机に向かってひたすら鉛筆を動かしている
「帰ってたか、案外早かったな」
「今日帰ってくるのわかってたの?」
「薄々感じてた。どうだ?向こうの生活は?」
「まぁぼちぼちって感じだよ」
「それならよかった」
淡々と会話をしていく。龍也と父親の桃彦の間ではこれが通常だった。お互いに深堀はしない。ただ気になったことを言っていく。
「父さん、まだ鉛筆で小説書いてるの?」
「ん?ああ…こっちの方がしっくりくる」
「へー小説家は違うわ」
「小説家兼翻訳家だ。それと龍也。また母さんの携帯に電話をかけただろ?着信音がなってた」
「え、あーうん。かけたよ」
「そろそろ…11年か…もうかけるのはやめとけ…苦しくなるだけだぞ」
「ああ…考えておく」
龍也は襖を閉めて自分の部屋に戻る。龍也の母親の紗代は5歳の時に亡くなった。不慮の事故だと聞いている。桃彦は紗代の携帯を捨てれることは出来なかった。そのまま置いているのだ。龍也は紗代の携帯に入っている無料通話アプリでたまに電話をかけていた。いつか届くのでは無いのか。
久々に帰った夕飯は蕎麦だった。おかずにはかき揚げとえびの天ぷらだった。克也が何か紙を龍也に渡した。
「なにこれ?」
「中学の同級生からぽいよ。柴田?って書いてある」
「柴田…同じクラスにいたな」
「どんな子だったんだ?」
蕎麦をすする桃彦が尋ねる。
「確かに家が裕福な子だったと思う。中二のときにいじめられてたな…」
「中二のときに?」
「ああ…でもいじめてたヤツがいきなり学校来なくなったんだよな。そこからいじめが無くなったな」
「お前、いじめてたヤツ止めてたのか?」
「ん?ああ。あんまり言うのもあれだけど止めてたよ」
「そうか。で、手紙にはなんて書いてあるんだ?」
「んー?あー食事会の招待?中学三年生の時のクラスメイトに送っております。是非ご参加くださいか…あ、まあまあいい所のレストランだな」
「でも、兄さん忙しいんじゃ…」
「いや、丁度休みの週だ。少し行ってみるよ」
龍也はえびの天ぷらをかぶりつき、蕎麦をすする。
3日後、龍也は電車に乗り手紙に書かれていたロイヤルレストランに向かった。威吹、和紀、健太に連絡してみたが健太は怪我が理由で来なかった。レストランに着くと受付が案内をしてくれた。奥に行くと大きなホールとなっていて色々な料理が並んでいた。進んでいくと威吹と和紀、それと女性が2人いた。
「お、きたきた!龍也!」
「和紀大きいな声。お前も休みだったのか?」
「おう!タイミングよくな!」
「龍也、覚えてるか?2人のこと」
「ん?あ!陽菜さんと白葉か!」
「久しぶり!」
「覚えててくれてたんだ…!」
陽菜は1年前に図書室で逃げ遅れてしまった子だ。隣にいた白葉はボブで背が小さく、龍也と同じ園芸委員会で委員会の仕事の時はずーと話しながら作業をしてた。
「あの時は助けてくれてありがとうね!」
「いや、俺はなにも…」
「か、かっこよかったよ!あと、えーと、前テレビで活躍してたのも見たよ」
「おう!ありがとうな白葉!」
そういった会話をしている時、ウエイトレスが飲み物を渡してくれた。そして、丸メガネをかけて前髪がパッツンになった柴田がマイクを持ってみんなが見えるところに現れた。
「みなさん!今日は集まっていただきありがとうござます!今夜は楽しく思い出を語りましょう!それでは乾杯!」
乾杯とみんな言い、飲み物を飲む。龍也は飲んだ時喉で違和感を感じた。何か油なのか分からない。でも、流動的では無いなにか。
「…なんだこれ?」
その瞬間少し離れたところで人が倒れた。喉を抑えて、顔が真っ青になっていく。
「おい、どうした!?」
和紀が倒れた人に近づく。だが、和紀が近づこうとして通り過ぎた人も倒れ込む。香月は驚き、倒れた方を見る。また1人、また1人倒れていく。そして、龍也と陽菜も倒れてしまう。
「どうなってるんだ?」
「うっ…なんだこれ?!」
龍也は喉が痛み、そして苦しい。体がだんだん寒くなっていく。
「んー40人中25人か…」
柴田がカチカチと数取器を操作する。威吹が柴田の方を睨み口を開く
「おい、お前なにを混ぜた?」
「いや、ただちょっとだけ味付けをしたんです。体の麻痺を起こすための味付けを」
「てめぇ、何もんだ!?本当に柴田か?!」
和紀が叫ぶ。また、隣で人が倒れる。柴田は少し嬉しいそうに数取器をカチカチとする。
「正真正銘、柴田智成だよ…でもね、君たちが知ってる柴田ではない…僕は特別な力を手に入れたんだ!」
柴田の頭に角かふたつ生える。こいつは鬼だ。威吹と和紀はすぐに感じ取る。2人は一斉に地面を蹴り、柴田を取り押さえようとする。だが、威吹はウエイトレスの蹴りを受ける。和紀も同じように。
「ちっ!?」
「くそ!」
「正直、4人中1人は怪我で来れなくてもう1人は毒でやられてる…君ら2人だけならそんなに脅威じゃない」
ウエイトレス2人も頭から角をはやす。威吹と和紀は考える。ウエイトレス2人だけしか鬼がいないのか。他にも鬼がいるのでは無いのか。
「安心して、鬼は僕とそこの2人だけだよ。でもね、僕が作った毒はあと2時間半以内に解毒しないと本当に死んじゃうよ?それに、ここにいる人たちはみんな人質だよ!」
柴田は高笑いをして踊り出す。ウエイトレス2人はネクタイ外し戦闘態勢に入る。
この日、龍也はまだ知らなかった。自分の大事な何かがかけてしまうことを。
今後大事な章になっていきます




