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魚の王様

 

 地下に降りるとコンクリート打ちっぱなしの殺風景な廊下にドアが3つ。

 サクラから送られてきたフロアマップ通りの間取り。

 情報通り地下はそんなに広く無い様だ。

 事前の情報からするとまだ後一体はYCAT星人が隠れているし、他にミノタウルスの様な協力者がいる可能性も考慮しなければならない。

 もしミノタウルスのような攻撃的な異星人が残っていると厄介だ……。


 俺は銃を構えながら慎重に廊下を進んでいく。

 途中、上から爆弾が爆発するような凄まじい音と振動が伝わってくるが、戦いの音が聞こえるという事はゴリラが元気な証拠だろう。


 ミノタウルスに対して有効打が無い現状では、いかにあのフィジカルモンスターといえども長くは持たない。

 RPGが間に合えば良いが……。

 ゴリラが倒された場合、追ってきたミノタウルスとYCAT星人に挟まれ全滅する可能性もある。

 急がねば……。

 こんなとこでごっさんと御臨終なんて真っ平御免だ。


 人質が囚われている本命はフロアマップで見た奥の部屋。

 奇襲を防ぐため途中にある部屋のドアを開け、中を確認しながら進むがやはり人質もYCAT星人も確認できない。

 ドアの先には段ボールに入った地球産の食料が詰め込まれており、もう片方の部屋には寝具が整っていた。

 食料庫と寝床か……。

 王子を攫ってとっさに逃げ込んできたにしちゃ物資が揃いすぎてる……。

こっちの事情にも詳し過ぎる。

地球側に協力者がいたと考えた方が自然か……。


「サクラちゃん、MIB内部か協力者にお漏らししてる奴いるかも知れないから探っといてくんない?」


「了解です。短期間で用意が良すぎますね。こちらの情報がバレていると見て間違いなさそうです。」


「……一応聞くけどサクラちゃんじゃ無いよね?」


 スマートフォンからまさか〜と返答があるが本当かなぁ……。


 もし本当にMIB職員に裏切り者がいるとしたら組織どころか地球の危機だ早急に手を打たないと……。

 問題なのはどこまで敵が入り込んでいるのか……。

 こちらの装備、作戦まで漏れていたということは現場の一職員止まりとは考えにくい。

 上層部か、少なくとも機密情報にアクセス出来る要職である事は間違いない。

 権力争いか、金でも積まれたか……。

 本当、汚い大人の世界はこれだから嫌だね。

 割食うのはいつも現場だ……。

 人手不足で替えは効かないのに。


 最後の本命の扉。

 一気にドアを蹴破り中に入る。

 銃を構え周囲を警戒するが誰もいない……。

 部屋の中は古い厨房か研究室を思わせる造りになっている。

 壁沿いには金属製のラックが囲むように置いてあり、合間を縫うように水管と換気扇のダクトが張り巡らされている。

 部屋中央には水道のついた作業台。

 何かの実験に使ったのだろうか数種の薬品な並んだ木のラック、フラスコ、ビーカーといった器材が無造作に置かれている。

 部屋はそこまで広いわけでは無いが障害物が多い……。

 奇襲にはもってこいの構造だ。

 通路は人が一人倒れるかどうかといったところで、机の下や脇には段ボールが置かれているため横への移動が制限される。

 四方が金属のラックに囲まれ足場も悪い、可燃性のものは見られないが銃を使えば跳弾でどこにいくか分からない。

 俺は銃を短刀に持ち替え、構えたままゆっくり中に入って行く。

 見た限り敵も人質も確認できない。

 フロアの構造的にも間違い無くここが最後の部屋であり、敵も人質もここにいるはずだ。

 

 警戒を続けながら部屋中央に近づくと頭の上から「ゴトッ」と何かが動く音が聞こえた。

 即座に音のした方向を見上げると、天井に設置された業務用エアコンの蓋が外れ、中から三毛猫柄のYCAT星人が自慢の爪を剥き出しにして突進してくる。

 咄嗟に短刀を持った手を突き出し、鋭い爪に刃筋を沿わせながら軌道を逸らし回避するが、逸らし切れなかった爪が頬を擦り僅かに血が滲む。


「よくもやってくれたな……。まさかこんな辺境の星のエージェントがここまでやるとは思ってなかったぞ。」


 YCAT星人はそう言いながら爪についた俺の血をペロリと舐める。


「人質はどこだ?」


 右手に構えた短刀の切先を相手の左目に合わせて臨戦体制を整える。

 こいつは今まで上にいたYCAT星人とは格が違う……。

 奇襲の一発もこちらの喉元を狙い、確実に仕留めにきてやがる……。

 動きも攻撃の速度も段違い。

 間違い無く実践慣れしている。

 機動力の高い猫型異星人、障害物が多く銃が使えないこの部屋で戦うのは些か厄介過ぎる相手だ。

 あー、やっぱりごっさんなんかに迎えにきてもらうんじゃなかった。

 めんどくさがらず普通のタクシー呼んで本部に帰ってれば今ごろ勝手に俺の部屋に居着いて、人の布団を占領している猫型宇宙人を蹴飛ばして夢の中にいただろうに……。


「言うと思うか?どうせ今から死ぬんだ最後にもっと気の利いた言葉でも残した方が良いんじゃ無いのか?」


 こいつもこいつだよ魚欲しいなら働いて買えよ。

 利権欲しさに人質攫ってこんな辺境まで逃げ込んで、何がしたいんだ。

 考えてたら何か腹立ってきたな……。

 ぶっ飛ばして憂さ晴らしするか。


「分かった、ドラ猫始末したらゆっくり探すとするよ。」


 かかってこいよドラ猫と言うと三毛猫柄のドラ猫はフギャーと言う咆哮と共に牙を剥き出し飛びかかってきた。


△▲▽▼


 丸太のような腕から振り下ろされる斧により寿司屋のカウンターはいとも簡単に真っ二つにされる。

 ミノタウルス程の異星人の馬鹿力には流石に真正面から対抗するのは難しい。

 救いなのは力に物を言わせて斧を振り回してくるためタイミングが取りやすい。

 相手の攻撃に合わせてライフルで迎撃するが数秒動きを止める程度ですぐに追撃がやってくる。

 ジリ貧だな……。

 弾も残り5発……。

 決定打がないまま引き伸ばせば先に息が切れるのはこちらだろう。

 RPGの到着が先か、俺がミンチになるのが先か……。

 剛田の額に冷や汗が滲んでくる。


「やるじゃないか。やっぱりアンタ強いよ。でもいつまで持つかな?そろそろ弾も少ないんだろ?」


 こちらの戦力も正確に読まれている。

 脳筋のくせに頭も回る、攻撃こそ単調だがそれも遊びでやっているのだろう。

 今は闘い自体を楽しんでいるが、本気で殺しに来たらどこまで持つか……。


「先に行かせた奴も動きがないね。ネコちゃんに噛み殺されてるんじゃないかい?」


 ミノタウルスは斧を担ぎ直し余裕な笑みを浮かべ挑発してくる。

 

「そんな心配は無用。奴は不死身だ。どんな相手、どんな任務だろうと生きて帰ってくるMIB不死身の本田だ。あいつが死ぬことを心配するくらいなら地球の滅亡を心配した方がいい。」


 それに……あいつを殺すのは俺だ……。

 道中散々馬鹿にしたこと後悔させてやる……。


「へぇ〜、随分と買ってるじゃないか。それが本当なのかさっさとアンタを倒して確かめに行くかね。」


 容赦なく振り下ろされる斧、体を横に向けながら何とか避ける。

 しかし完全に振り下ろされる前に軌道を変えた斧は容赦なく俺の脇腹を殴りつける。

 たまらず悶え床に転がる俺に、笑みを浮かべながら渾身の一撃を見舞おうと、飛び上がりながら斧を振り上げるミノタウロス。

 身体を捻り転がりながら何とか避け、体制を立て直すがこれはかなりまずい。

 横腹を打たれたことで息も絶え絶え、持っていたライフルも飛んでいってしまった。


「今のを避けるなんて凄いじゃないか、楽しいねぇ。楽しいけど時期夜も明けるし終わりにするかねぇ。」


 先ほどの一撃で床のコンクリートを粉々にした穴を引き抜きニヤニヤと笑いながらトドメを指すため斧を担ぎ直すミノタウルス。


 万事休すか……。

そう思いかけた瞬間。


「剛田さん、回収班です。RPG到着しました!!伏せて下さい!!」


 窓の外にサクラが要請していた改造RPGを構えた改修班が到着する。

 俺は横腹を殴られ、未だ呼吸も整わない身体に鞭を打ち、ミノタウルスから距離を取るべく走り出す。

 ミノタウルスはさせるかと言わんばかりに斧を振り下ろし、砕いた床を回収班へと投げつける。

 まずい……!!!

 咄嗟に俺は拳銃で一直線に回収班へと向かう破片を狙撃し軌道ずらす。

 破片が回収班の顳顬(こめかみ)を掠め、パタパタと辺りに血の滴が吹き散る。

 当たっていれば間違いなく致命傷だっただろう一撃に俺も回収班も冷や汗が噴き出る。

 ミノタウルスはくそっ……と言いながら刺さった斧を引き抜きこちらに向き直るがもう遅い。

 RPGを構えた回収班は雌牛に向かってトリガーを引く。



「BBQの時間だ牛野郎。」



 轟音と共に放たれたRPGは見事ミノタウロスの胴体に命中。

 爆発により周りの床を粉砕し地下へと落ちていくミノタウロス。

 

「剛田さん大丈夫ですか!」


 ミノタウルスを痛快にぶっ飛ばした回収班がこちらに近づいてくる。

 

「あぁ……助かった。」


 やるじゃないかと回収班の肩を叩く。


「生きた心地しないっすよ。剛田さんが破片撃ってくれなかったら今頃自分の頭無くなってました。」


「お互い様だな、お前が来てくれなかったら俺も長くは持たなかった……。度胸もある、狙撃の腕もいい、お前マル異にこないか?」


「あ、結構っす!自分もしマル異に移動になったら辞めるって決めてるんで!」


 命幾つ有ってもたりないっすと断られてしまった……。

 人気ねえな……マル異。

 実際RPG到着がもう少し遅ければ間違いなく転がっていたのは俺の首だっただろうしな……。


「RPGの弾はあと何発ある?」


「自分が持って来たのは撃ったやつと、背中に背負ってる2発すね。残りは車に5発乗ってます。」


「今持ってる二発は俺にくれ、これから地下に行って本田と人質を回収して来る。そろそろ夜明けで人通りも増えてくるから幕を強化しといてくれ。」


 回収班の男は了解っすとRPGと背中に背負っていた弾を俺に渡しいそいそと回収班本部へと戻っていった。

 余程現場に居たくなかったのだろう……行動が素早い。


「さて……あいつも死んでなきゃ良いがな。」


 間一髪の攻防に勝利し安堵を覚えながら未だ帰らない相棒の元へ向かうべく地下への階段に足を引きずった。


△▲▽▼


「おいおい、どうしたエージェントさんよ?文字通りでも足も出ないってか?」


 ニヤけ面でこちらに振り向く姿に苛立ちを覚える。

 鋭い爪による攻撃をいなすと間髪入れずにこちらの頭を食いちぎろうとする牙による噛み付きの波状攻撃。

 回避もロクに取れない狭い室内では厄介な事この上ない……。

 手持ちの武器は拳銃一丁と短刀と催涙弾。

 何とも頼りない手持ちだ……。

 せめてショットシェルくらい準備しとくべきだった……。

 このまま短刀でいなすにも限界がある。

 なんとか廊下に誘導して銃を使える様にしたいところだ。

 ムカつく顔で繰り出される爪を紙一重で躱わすが次々に繰り出される攻撃に埒が開かない。

 避け損ねた爪が腕を掠め血が辺りに飛び散る。

 くそ……!

 あのニヤけ面をぶっ飛ばしてやりてえのに、このままじゃこっちが先に串刺しだ……。

 せめて小細工する時間を稼ぎたいところだ。


「おいドラ猫!爪研ぎ足りないんじゃ無いのか?ささくれが腕に当たっちまったよ。」


「すまねえすまねえ、次はちゃんと串刺しにしてやるからちょこまか動くなよ。」


 優勢なドラ猫は気分が良いのか鼻歌混じりに爪についた血を拭っている。

 

「お前達も大変だよな、こんな貧弱な種族に生まれて。」


「お前達みたいな奴らが来なけれゃ貧弱で問題ないんだがな。」


「そりゃ宇宙連邦に愚痴るんだな。」


 たしかに……。

 あいつらが仕事してれば俺がこんなドラ猫相手にする必要はなかったんだよなー……。


「まぁ、保護惑星だっけか?あんなもんは建前に過ぎないからな。連邦も本気でお前ら守ろうなんて気は無いのさ。」


「どういう事だ?」


「簡単な話だよ。俺達みたいに身体能力の高い惑星人は戦いの時に使うのは己の体よ。だが、お前達みたいな貧弱な種族は兵器を開発して戦う。行き過ぎた奴らは宇宙に出る前に星をも破壊しかねない兵器を作っちまいやがる。」


 こちらに優勢なのが余程気分いいのかベラベラと喋り始めるYCAT星人。

 

「連邦の奴らはな、そんな星を壊しかねない兵器を辺境の田舎惑星に使われちゃ迷惑なんだよ。だからお前達みたいな種族が科学力を持ち始めたら牽制のため保護惑星なんてもんに指定して体良く監視してんだ。核兵器だったか?アレを宇宙にぶっ放してみろよ嬉々として連邦が滅ぼしにくるぜ?」


 ニャッハッハと笑いながら連邦の秘密を暴露する。

 確かに身体能力は高いが頭の方は弱いのかも知れない。

 でもまあなるほど……そういう事か。

 そもそも守る気無かったんだなぁ……。

 通りで外から来る異星人の管理がガバガバなはずだ。

 納得……。

 知りたく無かったなぁ……。

 仕事減らねえはずだよ……。

 理不尽な宇宙の真実を聞かされ、仕事をやる気は消え失せたが、ベラベラと喋ってくれた事で時間が稼げた。


「それが本当だとして今の俺達にはどうしようもないな。貧弱な種族なりに頭使って利用できるものは利用して何とかするさ。」


 それが宇宙連邦だろうが兵器だろうがな。

 俺はポケットの中で安全ピンを外して用意しておいた催涙弾をYCAT星人の足元に投げつける。


「何だこれ!!てめぇ!こんな狭い部屋でこんなものゴホッ!」


 プシューっと音を立てて勢い良く煙が吹き出し、たまらず咳き込むYACT星人。

 涙と鼻水でグシャグシャになりながら必死に煙から抜け出そうと部屋のドアを開け廊下に出て行く?

 

「だがこの煙じゃグスッ……貴様も……な!?。」


 やっとの思いで廊下に出て目を擦りこちらを見るが、全く煙の影響を受けていない俺を見て驚いている様子だ。

 そりゃそうだ。お前が余計な事を話してくれてる時に部屋にある換気扇の下に移動して背中でスイッチ押したからな。

 貧弱な種族だから小細工使ってもしょうがないよね?

 部屋の中だと跳弾のせいで銃は使えなかったがターゲットが外に出てくれたら話は別だ。

 YCAT星人が部屋の外に出る瞬間、即座に短刀を銃に持ち替え相手の肩口を打ち抜いた。


「だから……テメェらみたいな種族は嫌なんだ……グスッ。弱え癖に訳の分らねぇ兵器持ちやがって。」


「弱いからこそ辿り着いた技術だ。次はもっと頭のいい種族に生まれるんだな。そうすりゃ俺みたいな奴にこんな目に遭わされずに済むだろ。」

 

 未だ止まらない鼻水と涙でマトモに目も開けられなくなった顔に銃弾を打ち込む。

 これでYCAT星人は全員始末したはずだ……。

 上のゴリラが死んでない事を祈るが、ドカドカ音がしてるって事はまだ生きてるみたいだな。

 だが安心もできない。

 さっさと人質見つけて脱出するか。

 俺は部屋にある段ボールやら机の引き出し、ロッカーの中など手当たり次第に開け人質を探すが、キングファイルに閉じられた書類や白衣、よく分からない機械の部品ばかりで肝心の人質が見当たらない。

 

「サクラちゃん、人質居ないんだけど?」


「魚に手足が生えたような見た目なので居たらすぐに分かると思うんですが……他に見てないところは無いんですか?」


「いやぁ……。あらかた見たし。そんなのがいたらすぐに分かると思うんだけど。」


 確認漏れがないか辺りを見渡していると棚の上に発泡スチロールの箱が目に入った。

 まさかね……と中を確認すると、いたよ……。

 大鋸屑(おがくず)の上にオムツした手足の生えた鯛……。

 魚の王族って鯛なんだ……。

 てかこれ大丈夫なの?ピチピチ跳ねてるんだけど?


「サクラちゃん、見つけたんだけどこれ水とかに入れた方が良いのかな?ピチピチしてるんだけど?」

 

 肺呼吸なの?エラ呼吸なの?どっちよコレ……。


「水に入れてみたらどうですか?死んだら肺呼吸ですよ。」

 

 とんでもねえこと言うなこのAI……。

 仕方ないのでちょっと頭を水につけてみたらブクブクと空気を漏らして苦しみ始めたので慌てて引き抜く。

 どうやら肺呼吸らしい。

 濡れた頭を机の上にあったキムワイプで拭き、殺魚未遂の証拠を隠滅する。

 一応王族らしいので尻尾掴んで持ち運ぶのもどうかと思い、その辺にあったロープで背中に括り付ける。

 背中からフワリと生臭い香りがするのが気になるがさっさと脱出してしまおう。

 廊下に出ると今までで一番大きな音と揺れが上の階から響いてくる。

 どうやらまだゴリラは戦っているらしい。

 援軍に駆けつけるため足早に廊下を進むとドカンッという爆発音と共に天井が崩壊し、コンクリートの塊が降ってくる。


「まだ俺が下にいるのに室内でRPGぶっ放しやがったなあの馬鹿!!」


 落ちてくる破片を避けながら全力で地上を目指していると後方から一際大きな落下音。

 振り返るとRPGの直撃を喰らったのであろう、大きな乳房を3つに減らし、焼けた顔面から歯茎を剥き出しにしているミノタウロスがこちらを睨んでいた。

 改造RPG喰らって生きてるのヤバすぎるだろ!!

 地上への梯子まで後数歩というところまで来たと言うのに、人質背負ってあんな化物と戦うのは無謀だ。

 万事休すかと諦めかけた時、ハシゴの上からロケットランチャーを担いだゴリラが降ってくる。

 

「伏せろ!!」


 ごっさんの叫び声を聞いた俺はヘットダイブをかまし回避の体勢に入る。

 俺の頭が下がった事を確認し、ごっさんがRPGをぶっ放すと爆音と熱気を辺りに撒き散らしながらミノタウルスの身体が爆散した。


「生きてたか。」


「そっちもな。」


 ハイタッチを交わしながらお互いの無事を確認する。

 地上からの音で察してはいたが、かなりの激闘だった様でごっさんの体は無数の傷がついており、血でスーツの中のシャツが赤く染まっていた。

 流石ゴリラ型地球人、丈夫だ。

 俺なら死んでるね。


「人質も回収した。疲れたから早く本部に帰ろう。」


 裏切り者も炙り出さなきゃな。


「今回情報流したのはサクラじゃないのか?」


 真面目な顔して聞いてくるごっさん。

 やっぱ疑うよな。


「酷いですよ!二人して私を疑うなんて!!私ならもっと上手くやります。」

 

 プンスカ怒りながら最後に不穏な言葉を呟くサクラ。

 やっぱこいつが一番ヤバいやつじゃん……。

 半壊した寿司屋から脱出すると外はすっかり夜が明け、大量のサラリーマン達が駅へと歩いている。

 人質を回収班に預け、ごっさんと俺は治療を受けながら本部へ向かう車に乗り込む。

 

 長い1日だった……。

 俺、本部に帰ったら関係各所にクレーム入れて危険手当申請するんだ……。

 カマキリに始まり猫に牛と戦い魚を救うアットホームな職場に蹴りを入れる事を決意し、疲れた体を癒すため車内で瞼を閉じた……。


次回第一話完!

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