突然隣の寿司屋さん
「ごっさんそろそろ機嫌直せよ。」
「そうですよ、趣味は人それぞれですから。あっ、今度私のモデルに幼女追加しときますね。でも私に興奮するのはやめてください、流石に反応に困りますから。」
このAI煽り性能高すぎる……。
道中、車内で怒り狂ったごっさんをなだめながら何とか目的地の横浜に到着。
どうやらYCAT星人は高速バスセンターの裏手にある寿司屋を拠点にしているらしい。
異星人は飲食店を拠点にする文化でもあるのだろうか。
「やかましい!さっさと王子を保護して連邦に引き渡すぞ。YCAT星人は武闘派な異星人だ馬鹿なことに気を取られてると殉職するぞ。」
「わかりました、ロリ……ごっさん。」
「おい、今なんて言った?」
アブねー、セーフ、途中で止まったからセーフ。
「ダメですよ本田さん、剛田さんはそういうのじゃないです。ただ愛した女がロリだっただけ。」
「よし分かった、お前たちから殺して殉職者名簿に名前書いてやろう。」
この犯罪者予備軍セーフティレバーを解除しながら銃口をこっちに向けやがった。
「待った!犯罪者予備軍だからって今すぐ犯罪者になる必要はないと思う!!」
人殺しダメ絶対。
「そうですよ!とりあえず早く終わらせて帰ってあいちゃんの続き見ましょ?」
こいつ自分は死なないからって余計な煽り入れやがる!
「――任務が終わったら必ず殺す。2人ともだ覚えておけ。」
わなわなとこめかみ血管を浮き立たせながら本気の殺害予告を吐き捨て銃をホルスターに仕まうごっさん。
予備軍から本物へのクラスチェンジは避けられたようだ。
あぶねー。
「今回誘拐に関わったYCAT星人は5人、既に回収班には建物周辺に包囲網を敷いて貰っている。調理場に地下室への階段があるので人質はその奥だろう。」
建物は普通の大きさでも地下に広がってるなら探索もキツそうだ。
「サクラちゃん、フロアのマップデータを送ってくれ。」
「分かりました。2人のスマホにデータアップ完了です。」
送られてきたフロアマップにざっと目を通す。
良かった、地下はそんなに広く無さそうだ。フロアの奥に怪しい個室があるので本命はこの部屋かな?
「作戦と武器はどうする?今手持ちは拳銃一個しか持ってないぞ?」
カマキリ倒して弾も使ったし。
「武器は車の後ろに乗せてある。作戦はスタングレネードを投げ込んだ後2人で突入、俺が囮になるからお前は真っ直ぐ調理場に向かえ。一階を制圧後、俺も地下に行きお前が人質奪還している間に殲滅を行う。」
まーた脳筋ゴリ押し強襲任務……。
作戦本部はゴリラ並みの知能しかないのか?
「突撃すんのはいいけど入った瞬間人質殺されない?2人って人数足りなすぎでしょ、大丈夫なの?」
「YCAT星人は聴覚が鋭く音に弱い、スタングレネードでほぼ無力化できるはずだ。人員については俺は知らん。深刻な人手不足だ。さっさと終わらせて帰るぞ。」
終わったら本部にクレーム入れとくか、検討しますで終わるんだろうけど……。
「可愛い女の子配属してくんないかな。血みどろの職場に花くらい添えてくれてもいいのに。うちにいる女性陣は男顔負けの精鋭だし。」
むさ苦しいおっさんと姐さん方に囲まれカマキリと戯れるアットホームな職場は辛すぎる。
「私がいるじゃ無いですか。」
地球史上最悪の侵略者(AI)もいた。
「無駄口叩いてないでさっさと武器選べ。」
ごっさんが車のキーを弄るとボンネットが開き、中には拳銃、アサルトライフル、ショットガン、短めの日本刀と手榴弾数種類が出てくる。
俺は拳銃の弾を補給し、室内専用に日本刀を腰に刺し手榴弾(スタングレネードと催涙弾)をポケットに入れる。
ヤクザの出入りみたいな装いになったところでスマートフォンに着信があった。
「こちら回収班、包囲完了しました。既に幕も下ろしているのでいつでも突撃可能です。」
幕というのは作戦中に一般人にバレないように宇宙連邦の技術で作られた光学迷彩を周囲に張り、幕の中と外を完全に隔離することである。
幕を張ってないともし一般人にバレてしまった場合記憶を消したり隠蔽したりと、かなり大変なため今回の様な作戦時には必須となる。
宇宙技術すごい!
「こちらマル異本田、了解。準備ができたので5分後突入を開始する。撃ち漏らしや逃亡者が出た場合回収班の方で対応頼みます。」
スマートフォンから了解と返事があり通話が切れる。
「じゃあ行きますかごっさん。」
俺が声をかけると短く足引っ張るなよと返答があった。
かわいげのないゴリラだ。
△▲▽▼
夜明け前、静まり返った街に怪しい黒スーツの男2人がコソコソと寿司屋の窓から中を覗いていた。
普通なら即通報&職質なのだろうが回収班の幕のおかげで外からは全く見えていない。
「中に見えるのは4人、人質ともう1人は確認出来ない。地下にいる可能性が高い。」
サングラスの隙間から中を確認したごっさんが報告してくる。
「了解、打ち合わせ通り俺が窓割ってスタングレネード投げるからごっさんは正面から入って制圧してくれ。」
OKのハンドサインを確認し、俺は銃で窓をカチ割りすぐにスタングレネードを投げ込む。
眼の眩む閃光と凄まじい炸裂音の後、ごっさんが正面口を蹴り破り中に入る音がする。2、3発の銃声の後、俺も窓に残ったガラスを蹴りながら中に突入する。
YCAT星人は音に弱い、スタングレネードを喰らえば完全に機能停止し楽に制圧できる……って言ってなかったっけ?
バッチリサングラスにイヤホンした4人のYCAT星人と目合ってるんですけど?対策バッチリじゃん……。
向こうも突然乗り込んできた俺とゴリラに挟み撃ちされパニックになっている。
「MIBだ!全員手を頭の上に乗せて地面に這いつくばれ!抵抗する場合実力にて排除する!!」
俺が銃を構えながらいつもの文言を言うが落ち着きを取り戻したYCAT星人はその毛むくじゃらな顔に笑みを浮かべている。
「てめぇらがMIBか。そんな貧弱な銃で俺たちを……」
言い終わる前に隣にいたYCAT星人の肩に一発打ち込む。
その瞬間背後から隙を窺っていたごっさんが突撃しあっという間に2人を制圧した。
こっちの銃は連邦の技術使って改造済みじゃ舐めんなよ。
「ごっさん、話違いすぎるだろ。全く効いてないじゃんグレネード」
流石に酷すぎ、馬鹿なの?死ぬよ?俺が。
「帰ったらオペレーター〆るぞ。今は任務に集中しろ。」
ゴリラと俺に銃を向けられたYCAT星人は両手を上げながら降参のポーズを取りながら
「待て!分かった降参する!頼む!!」
と命乞いを始めた。
「人質と残りの仲間はどこだ、さっさと吐け」
ごっさんが脅すと厨房の方を指差し人質は地下にいること、残りの仲間は人質を見張っているとあっさり吐いた。
おい、とごっさんがアゴで俺に指示をする。
俺は指示通り厨房に入り床の収納部分をそっと開けると中から突然茶色い巨体が飛び出してきた。
驚いた俺はすぐに回避に入り後ろにバックステップするが、さっきまで俺がいた場所に大きな斧が振り下ろされ床を粉々に破壊した。
「先生!やっちゃってください!!」
YCAT星人が叫ぶと俺の目の前にまた斧が振り落とされる。
俺は必死で避けごっさんのとこまで退却すると立派なツノにごっさんにも負けない筋肉の牛型異星人が地下への入り口を塞ぐ様に仁王立ちしている。
「へっ、お前たちMIBが来ることは分かっていた。こっちも対策はしていたしこの用心棒の先生にきてもらってたんだよ!」
なーるほど、こっちの情報完全にバレてたわけね?
秘密組織とか言いながら水漏れ激しく無いですかねMIBさん?
「むっふっふ……。可愛い子じゃない。アタシと朝まで遊ばない?」
先生と呼ばれた牛は斧を片手で弄びながら鼻息荒くこちらを見ている。
「良かったなお前の好きな巨乳の雌だ。遊んできたらどうだ?」
ごっさんがそんな軽口を叩く。
確かに巨乳だ……。
地球ではちょっとお目にかかれない大きさの乳房がタンクトップの様な服から窮屈そうにはみ出している。
……しかも4つ……。
「おっぱいは2個でいい……。」
おっぱいは2個だから興奮できるのであって4つあると恐怖に変わるということを初めて知った……。
おっぱいこわい……。
「牛型異星人ミノタウルスです。銃弾すら弾き返す強靭な肉体が武器の厄介な相手です。回収班に改造RPGの要請を行いました。準備ができるまで持ち堪えてください。」
スマートフォンからサクラちゃんの声が聞こえてくる。
改造RPGは宇宙の科学力にて強化されたロケットランチャーで装甲車木っ端微塵にするやつなんだが、そんなの当てないと勝てないやつを生身で相手するの無理じゃ無い?
どう持ち堪えろと?
相変わらず無茶な要求をする侵略型AIだ。
「ここは俺が引き受ける、お前は隙を見て地下に行き残りを倒して人質取り戻してこい。」
ごっさんは背中に背負っていたライフルを構えミノタウロスに標準を合わせている。
確かに力ゴリ押しの相手なら俺よりごっさんの方が適任だろう。
「了解、死ぬなよ?」
お前もなと返事をきくないなや俺は地下への階段へと走り出す。
容赦なく振り下ろされる斧を避けると、爆発でも起こったかのようにフローリングの床が弾け下のコンクリートが剥き出しになる。
兵器並みの一撃を避けた俺に追撃しようと斧が振り上げられるが、そのタイミングに合わせてごっさんが構えていたライフルでミノタウロスの腕を撃つ。
ライフル弾は吸い込まれるようにミノタウルスの腕に当たり、カンッと乾いた音を立て硬い表皮に弾かれる。
ダメージこそあまり無さそうだが、ミノタウルスは振り上げた腕の動きを停止させた。
その隙に俺は一気に地下への階段へと進撃する。
YCAT星人が止めようと飛びかかってくるが横っ飛びで避けながら行き掛けの駄賃にと腰に刺していた短刀で腕を切り飛ばす。
たまらず悲鳴をあげるYCAT星人、俺はそのままの勢いでミノタウルスが出てきた衝撃でひしゃげた地下への入り口に滑り込み入口を閉めた。
「あら〜、一匹逃しちゃったわね。アンタいい腕してるわ。痺れちゃった。」
ミノタウルスは撃たれた腕をプラプラと振り、床で片腕を押さえ悶えているYCAT星人の頭を斧で潰した。
プチッという音共に頭部はトマトのように潰れ赤い滴が辺りに飛び散った。
「いいのか?雇い主だろ?」
「いいのよ、どうせコイツはもう役に立たないでしょ。アタシは強い奴と戦うためにここにいるの。アンタと逃げた一匹をなぶって遊べればコイツらなんて用済み。アタシと朝まで楽しみましょうよ?」
ミノタウルスは猛牛の様な顔面に狂気じみた笑みを浮かべながら血がついた斧を担ぎ上げる。
「悪いが俺はお前みたいなデカい胸の女は好みじゃ無い。」
連れないのね……と言う言葉を最後にゴリラvs猛牛の闘いが始まった。
次は次週金曜日です