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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第一章
9/48

1-6.5

 今から六年前。俺が十歳だったころ、ある人と出会った。


 その日も俺は好きな遺跡の見学をしていた。街から大分離れた砂漠のど真ん中、バーグさんに連れられ、遺跡の発掘作業を見ていた。すると突然、


「死にたくなければ金目の物を出せ!」


 銃を持った野盗が数人、遺跡の発掘現場に押し寄せてきた。当時、まだ一つの国として独立したばかりのナウィートは治安が悪く、こうした野党がそこかしこで暴れまわっていた。


「チンタラすんな! テメェらが発掘した金になりそうなモンは全部出せ!」


 野盗はこれみよがしに銃を振り回し、その場にいた作業員達を脅した。銃で撃たれたくない作業員達は大人しく野盗の指示に従い、発掘した品を全て野盗に渡していった。


 野盗は銃を持って人を脅すが、命令に従えば基本的に命を奪うような事はしない。それを知っているからこそ、作業員達は無駄な抵抗はしなかった。そう、作業員達は――


「おい! 何すんだ! みんなが頑張って発掘した物を勝手に持っていくな!」


 その時の俺はそんな事など知らなかったし、何より作業員達が汗水流して発掘した出土品を横取りしようとする野盗が許せなかった。


「ばっ、馬鹿! サヴェロ、何言ってるんだ!」


 そんな俺の口をバーグさんが慌てて塞ぐが、既に野盗たちの耳には俺の罵倒が届いていた。


「ああ? 何だこのガキは? テメェ死にてぇのか?」


 野盗の一人が、持っていた銃を俺に向ける。


「ま、待ってくだせぇ。子供の言ったことじゃねぇですか」


「知った事かよ!」


 そう言うと、野盗は俺を庇うように覆い被さっていたバーグさんを蹴飛ばした。バーグさんは吹っ飛ばされ、俺と野盗との間に邪魔は無くなった。


「何て言った? クソガキ。オジサンによぉく聴こえるようにもういっぺん言ってみろ」


 野盗はへらへら笑いながら銃口を俺の顔に突き付ける。


 俺は別に怖くなかったわけじゃない。今にも小便をちびりそうだったし、気を抜けば泣きそうだった。それでも俺は野盗への怒りの方が勝り、恐怖で体を震わせながらも、


「何回だって言ってやる! お前らは人から横取りしかできない腰抜け共だ!」と叫んだ。


「ふー、なるほどなるど。こいつは躾のできてねぇクソガキだな」


 そう言った途端、その野盗は銃身で思い切り俺の顔面をぶん殴った。一瞬何をされたかわからなかったが、後から強烈な痛みがやってきた。口の中には血の味が広がり、ただただ痛みに悶える事しかできなかった。


「調子乗ってんじゃねぇぞクソガキ!」


 その野盗は大声を上げ、躊躇なく身悶えする俺を蹴り上げた。その後もその野盗は俺を足蹴にし、その怒りを発散した。


「あーあ、アイツの事を怒らせちまったか」


「アイツキレると手が付けられねぇからなぁ。バカなガキだぜ」


 他の野盗達は冷笑を浮かべ、蹴飛ばされている俺を眺めている。一方、作業員達は銃を持っている相手に何もする事が出来ずただ黙って見ている事しか出来ないでいた……一人を除いては。


「待ってくだせぇ!」


 バーグさんは俺と野盗の間に割って入ると、再び俺に覆い被さった。


「もう十分でしょう? これ以上やったら死んじまう!」


「ああ? オッサン何か勘違いしてねぇか? 俺は始めからそのガキを殺すつもりだ。その邪魔をしようってんならお前も死ね」


 野盗は銃を構える。バーグさんは眼を瞑ってギュッと俺を抱きしめた。俺ももう駄目かと諦めた……その時だった。


「おいおい、散々ガキを痛めつけたあげく、無抵抗の奴を撃つのか。とことんクソだなお前ら」


 突然の第三者の声に、その場にいた全員がその声のする方に振り向いた。皆の視線の先にいたのは、ボサボサの髪に無精ひげの顔、ぼろきれを身に纏った中年の男だった。


「今度は何だァ? まーた正義マンのご登場か?」


 銃を俺たちに向けていた盗賊はその先を、いきなり現れた小汚い格好の中年男性に向ける。だが、中年の男は銃口を向けられても恐れる素振りは見せず、少しずつこちらに近寄ってきた。


「確かに、そのガキの言う通りだな。お前らのような物の価値もわからんカス共にくれてやる物はない。失せろ」


「……オッサン、死にてぇのか?」


 その野盗の問いに、男はフッと嘲笑する。と、次の瞬間その行為が気に障ったのか、野盗は躊躇うことなく、男の頭に銃弾を撃ち込んだ。


 パンという乾いた破裂音が採掘現場に響き渡る。俺は目の前で人が撃たれた光景に戦慄する。だが、この後それ以上に驚くべきことが起きた。


「痛ってぇ! テメェ本当に撃ちやがったな!」


 頭を撃たれたハズの男は仰け反った体を無理矢理起こし、自分を撃った野盗に文句を言った。


 このあり得ない光景にその場にいた全員の開いた口が塞がらなかった。


「な、何なんだテメェは……化け物め!」


 男の頭を撃った野盗は銃を構え直すと、今度は単発ではなく、男の全身に銃を乱射した。だが、


「誰が化け物だって?」


「え?」


 困惑の声を上げたのは銃を乱射していた野盗だった。それもその筈、男は野盗から五メートル程離れた位置に立っていた。しかし、銃を撃った次の瞬間には何故か野盗の隣に移動し、銃が撃てないよう片手で引き金を押さえ付けていた。


「そんで、コイツはさっき頭を撃ってくれた礼だ。受け取れ」


 そう言って男は空いたもう片方の手で野盗の顔面を思い切りぶん殴った。野盗は数メートル吹っ飛ばされ仰向けに倒れると、ピクピクと痙攣していた。


「なっ、コイツ!」


 仲間がやられたことで、呆けていた他の野盗達は我に返ると、男に銃を向け、発砲しようとする。だが、それよりも男の瞬間移動のような動きの方が速く、銃を撃たれる前に間合いを詰めると次々に野盗をのしてしまった。


恐らく、この場にいた誰もが、何が起きているのか理解できなかった事だろう。実際、この後、作業員の人達の話やバーグさんの話を聴いても「気が付いたら終わっていた」と口を揃えて言っていた。


 しかし、俺の眼にはその男の動きがはっきりと見えていた。まるで時間が止まってしまった世界で、男だけが自由に動いているような感じだった。そして、もう一つ気になったのが、男が戦い出してから、その体の周りを淡く白い光が包んでいた。小汚い格好をしているはずの男だったが、この時のその姿は何だか美しくさえ思えた。


「ふぅ、こんなもんか……おい! そこのお前!」


 男は粗方野盗を倒すと最後の一人になった野盗に話しかけた。素手で銃を持った相手を圧倒した相手に残った野盗は完全に戦意を喪失し、その呼びかけに「は、はい」と素直に応じていた。


「動けるならこの伸びている連中を連れてここから消えろ。次に俺の目の前に現れるようなことがあったら本当に殺すぞ」


 そう凄まれると、残った野盗の一人は気絶して這いつくばっている仲間を引きずり、この場から去っていった。


「大丈夫か? あんた等」


 男は、野盗達が去ったことを確認すると、俺とバーグさんのもとにやってきた。


「あ、ありがとうごぜぇます。本当に助かりました」


 バーグさんは頭を深々と下げ、感謝の言葉を述べていた。


「そっちのボウズ。立てるか?」


 今度は俺の方にそう話しかけてきた。俺は「大丈夫」と言って立ち上がった……次の瞬間、


「イテッ!」


 男は俺の頭にゲンコツを落とした。


「ボウズ、お前がさっきとった行動がどれだけ軽率な事かわかっているのか?」


 男は腰を屈め、俺と同じ目線になってそう言う。


「確かに、お前の言い分もわかる。だが、周りにいる仲間の命を危険に晒してまで押し通す事か良く考えてから行動しろ」


 真剣な眼差しで、諭すようにそう言った。まさにその通りだ。何も言い返す事は出来ない。何もできないから悔しくて、ある言葉が思わず口から出た。


「……どうすればいいの?」


「何?」


「どうすれば、皆を危ない目に遭わせずに済むの?」


 俺は目の前にいる男の眼をまっすぐ見てそう問うた。すると男は


「強くなれ。それしかない」と即答した。


「それっておじさんみたいに、身体から変な光を出せれば強くなれるの?」


 俺がそう質問した時だった。バーグさんをはじめ、周りの皆は俺の話した言葉の意味がわからず怪訝な表情になるが、目の前にいた男は「変な光」というワードに反応し、その眼つきが鋭くなった。


「ボウズ、お前『ウィス』が見えているのか?」


「ウィス? よくわかんないけど、あんな光をたまに見かけたりするよ」


 俺がそう答えると、男は黙り込み少しの間思案した後、口を開いた。


「ボウズ、強くなりたいか?」


「え?」


「みんなを守れる力が欲しいか? と訊いている」


 真剣で、鋭い眼差しの男に俺は思わず気圧されてしまいそうになるが、グッと耐えるとその目を見返し、「強くなりたいです」と答えた。


「よしいいだろう。ただし、一つ条件がある」


「条件?」


「これから俺が教える事は無闇に使うな。必ず、大切な誰かを守る時、大切な物を守る時にだけ使うと約束しろ」


 男は、今までよりもより一層厳しい表情で誓約を求めた。しかし、俺は最初からそのつもりだったので、特に考える事無く「はい! 約束します!」と力強く同意した。


 男は俺の返事を聴くと、フッと笑って立ち上がった。


「俺はしばらくバハマに滞在するつもりだ。その間だけお前を鍛えてやる。ああ、それと俺の事をおじさんと呼ぶのはやめろ。俺の事は……そうだな、先生とでも呼べ。ボウズ」


「はい! 先生!」


「うむ、元気があってよろしい」


「先生一つだけいいですか」


「ん? 何だ?」


「俺の事もボウズじゃなくて、サヴェロって呼んでよ」


「……了解だ。よろしくなサヴェロ」


 これが俺の人生を大きく変えるであろう先生との出会いだった。

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