3-1
再び動き出し、通常運転に戻った貨物船。サヴェロ達は食事を終えると自分達が寝泊まりしている倉庫に戻っていた。
さすがに、疲弊しきっているサヴェロ達は労働を免除され、特にダメージを負っていたサヴェロはメリダの手当てを受けていた。
「大丈夫?」
「ああ、擦り傷はあるけど骨は折れてないし、吐き気とかもない」
メリダはサヴェロの傷口を消毒液(高濃度アルコールの酒)で殺菌し、包帯代わりの清潔な布を巻く。
『マスターのお身体をスキャンしました。複数の打撲はありますが、骨や内臓、脳に異常はありません』
「それもこれも、アイオスが守ってくれたおかげだよ。ありがとう」
『……』
サヴェロが礼を言うも、アイオスは黙ってしまう。その後、誰も口を開かず、沈黙の中メリダはサヴェロの手当てを続けた。
「はい。終わったよ」
「ありがとうメリダ……さて」
サヴェロは手当てが終わると、脱いでいた上着を着る。そして、すぐ横に置いていたアイオスを手に取った。
「みんな集まったところで、お願いできるか? アイオス。その……昔の話を」
『承知しました。それでは改めてお話ししたいと思います。二千年前のカーボニアで何があったのかを』
そう、アイオスが言うと、サヴェロ達は息を呑んで口を閉ざし、波で船が揺れてギイギイという軋む音が響いていた。
『皆様ご存じの通り、カーボニア王国は二千年前の内乱で滅びました。そして、先程の戦艦にいた者達の話も概ね事実です』
それを聴いて、メリダは顔を俯ける。しかし、すぐに顔を上げ、
「じゃあ、クーデターを主導したのはアイオスが所属していた王室護衛隊だっていうのも本当なの?」
と質問するが、
「事実です」
とアイオスに即答されてしまう。
「……理由があるんだろ?」
そこまで黙って聴いていたサヴェロが口を開く。
「そうしなければならなかった理由。もしくは、アイオスはクーデターに関わっていなかったとか――それを話してくれるんだろ?」
『はい。私の知る限りですが、クーデターに至ったその経緯をお話しします。もう一度言いますが、クーデターを主導したのは私が所属していたカーボニア王立軍王室護衛隊。そして、首謀者は王室護衛隊隊長で私の上官であったエーカ=デュラン』
エーカ=デュランという名前を聴いた途端、メリダは眉間にしわを寄せた。聞き覚えがあるのか、思い出そうとするが思い出せない。
『少し長くなりますが、お話しします。当時の顛末を』
「なあ聞いたか? 今日、王室護衛隊に配属される新人の事」
「知ってるわよ。隊長の最年少記録を抜いて首席で士官学校を卒業したって女の子でしょ? 軍内部じゃその話で持ち切りよ」
「やっぱ知ってるか。何でも、隊長直々にスカウトに行ったって話だし、相当すげぇ子なんだろうな」
扉の奥から、男女の話し声が聞こえてきた。私は自身の能力のせいで耳が良い。なので、意図せず他人の会話がこうして耳に入ってきてしまう。
恐らく、私の話をしているのだろう。ここに来るまでにも多くの人の視線を感じた。部屋の中から聞こえてきた男女の会話の内容通り、私は軍で噂になっている。
私は少し間を置き、深呼吸をしてから扉を三回ノックした。
「はーいどうぞ」
中から女性の招く声が聞こえてきた。私は「失礼します」と一言断り部屋に入っていった。
「本日より王室護衛隊に配属されましたフラン=アイオスです」
私は部屋に入ると、敬礼をし、自己紹介をした。
部屋には二人。物腰の柔らかそうな女性と背が高く筋肉質な男性がいる。
「あら、貴女が新人さん? 思っていた子と大分違うわね」
「ああ、戦闘訓練もぶっちぎりでトップって聴いていたから、もっとゴリゴリな感じのが来るのかと思ってたけど――」
二人は入ってきた私をジロジロと観察する。その対応に、私は少し困惑した。そんなに私が期待外れだったのだろうか。
「かわいらしくていいわ。気に入った。さあさあ、こっちへいらっしゃい」
女性の方が私の手を引き、私は部屋の中央に連れて行かれた。そこで、改めて二人と対峙する。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。はじめまして、私はティア=ルーガ。よろしくね」
「俺はラーソ=アルスリーだ。よろしくな」
そう言って彼らは右手を差し出した。私はティアさん、ラーソさんの順で握手をする。
「若輩者ですがよろしくお願いします」
「若輩者っていうか……本当に若いわね。貴女いくつ?」
「十六です」
「マジか! ティアより十も若いじゃん」
「貴方ねぇ、勝手に人の年齢言わないでくれる?」
ティアさんはラーソさんに言い寄り説教をする。私から見て二人は仲が良いように見えた。
二人が言い合いをしている隙に、私は部屋を見回す。広い部屋ではあるが、他に人は見当たらない。
すると、私が部屋を見渡している事に気が付いたのか、ラーソさんが私に話しかけた。
「ああ、ここは人が少ないだろ? ウチは小所帯でな、今回入隊したキミを含めて七人しかいない。まあ、少数精鋭ってヤツだな」
「今、隊長は王様との大事な会議に出席なされてるわ。他の隊員は任務中。今ここにいるのは私達二人だけね」
ティアさんがニッコリと笑顔でそう言った時だった。
「おーい、俺は仲間外れかよ」
突然、部屋の奥から男性の声が聞こえてきた。
「あーら、いらしたの? 副隊長。気が付かなかったわ」
ティアさんがわざとらしくそう言うと、奥にあったソファーからむくりと上体を起こして、一人の男性が立ち上がった。
「ったく、それが副隊長に対する態度かよ」
ソファーから立ち上がった男性はブツブツと嘆きながら、こちらに歩いてきた。
短髪ではあるが、ボサボサの髪。よれよれでシワだらけの隊服を着こんだ三十代後半くらいの男性。
あくびをしながら気怠そうな表情で私の前にやってきた。
「おっ、嬢ちゃんが噂の新人か。なかなかかわいいじゃないの」
「ちょっと副隊長。セクハラですよ。それに新人の前なんですからシャキッとしてください」
「んだよ。新人の緊張をほぐそうとフレンドリーにいっただけじゃん。怒んなよ」
ティアさんは副隊長の男性にキツくあたり、その副隊長は面倒くさそうに聞き流している。
一見、うだつの上がらなそうなその男性だが、私の第一印象は違った。
先程ティアさんはこの人がいるのをわかっていて気付かなかったと、軽口を叩いていたが、私は本当に彼がいる事に気が付かなかった。
私は、自身の『波』の能力を無意識に使っていて、これはレーダーの役割も果たしている。
どこに人が隠れていても、範囲内ならば正確に人数を把握できる能力だが、今回は彼が声をあげるまで彼の存在に気が付かず、私は本当に驚いた。
彼特有の能力を使っているのか、それはわからない。しかし、只者でないことは確かだった。
彼は、私が険しい表情で見ている事に気が付いたのか、再び私の方を向く。
「あっ、怒った? 冗談だよ。冗談。だから、セクハラで訴えたりしないでくれよ? 今、コンプライアンスとか厳しいからさ」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺はアルト=イティーズ。王室護衛隊の副隊長だ。よろしくな」
そう言ってイティーズ……アルト副隊長は右手を差し出した。
「フラン=アイオスです。よろしくお願いします」
私は差し出された右手を握り返した。
これが、今後私の人生を変える大きな出会いだった。
「で、デュランのヤツはまだ戻ってないのか?」
「まぁた隊長を呼び捨てにして! 新人もいるんですから、しっかりしてください」
「あーごめんごめん。デュラン隊長殿はまだお戻りになられないのかな?」
アルト副隊長が、棒読み気味にそう言った瞬間だった。部屋の扉がガチャリと開き、一人の男性が入ってきた。
その瞬間、ラーソさんとティアさんは、その入ってきた男性にすかさず敬礼をし、私も少し遅れて敬礼をした。ただ一人、アルト副隊長だけは遅れてやる気のない形だけの敬礼をする。
「皆、すまない。会議が長引いて遅れてしまった」
入ってきた男性は笑顔で詫びる。
長身でガッチリとした体格。ウェーブのかかった長い髪を一纏めにした男性。誰が見ても一目でわかる只者ではない雰囲気。私は一度、この方に会っている。私を王室護衛隊に誘いに来た時に。
王室護衛隊隊長エイカ=デュラン。王室護衛隊は実質的にカーボニア王立軍のトップであり、その隊長ということは軍の実権を握っているということだ。
「やあ、久しぶりだね。アイオス君。キミをスカウトしに行った時以来か。すまないね。それっきり、会いに行けなくて」
「いえ、私を王室護衛隊への入隊に推薦して頂き光栄であります」
「ふふ、優秀な人材は我が隊に必要だからね。君をこの部隊に入れるために私の特権を少しばかり使わせてもらったよ」
笑顔でそんな事を言う隊長にすかさず、
「普段は規律規律うるさいのに、こういう時だけズルいんじゃねえの?」
と、アルト副隊長が口を挟む。
「はは、言い返す言葉がないな。だが、それくらいしてでも手に入れたいと思う程君は優秀だという事だよアイオス君」
そう言われ、この時の私は胸が高鳴った。表情には出さなかったが、内心飛び跳ねて喜びたいほど嬉しかった。
「はっ! 勿体なきお言葉。恐悦至極であります」
「そんなに畏まらなくていいよ。と言っても、アルトくらいフランクに接されても困るけどね」
そう言って、デュラン隊長はアルト副隊長に視線を向ける。アルト副隊長は見られているのに気付いていてワザとやっているのか、あらぬ方向を見ながら鼻をほじっていた。
「さて、早速だがアイオス君にもここでの仕事を覚えてもらいたい。それには先輩達の指導が必要だ――そこで、アルト。君にアイオス君の教育係になってもらう」
「はぁ⁉ 何で俺が新人の教育係に?」
突然聞かされた新人の教育係という話に、アルト副隊長は声を上げる。
「お前は面倒見がいいだろ? 人にモノを教えるのもうまい」
「そうですよ。真っ昼間から爆睡しているくらいお時間があるようですし」
「バッカ! 俺は徹夜で事務作業をしててだな――」
食い下がるアルト副隊長にデュラン隊長は笑顔で、
「隊長命令だ。やってくれるな? アルト副隊長」
と命令を下す。
そう命ぜられたアルト副隊長は渋い顔をしながら、私を一瞥すると、
「ハァ、わかったよ」
大きなため息を吐いて渋々命令を聞き入れた。そして、私の方を向くと、
「という事だ。たった今、お前の教育係になったアルト=イティーズだ。厳しく指導していくから覚悟しとけよ」
まるでやる気のない声と表情でそう言った。
「はっ! ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
こうして、私の王室護衛隊の日々が始まった。
お待たせしました。
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