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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第二章
46/48

2-16

「まずいぞ。隊長は本気だ。もっと離れなければ」


 ある程度距離を取って観ていたレックの部下達はざわめきだし、レックから更に離れた。


「メリダ様! もっと離れてください! 危険です!」


 レックの部下の一人が、メリダに注意を促す。


「なんかヤバそう。メリダ、あの人達の言う通りもっと離れよう」


「う、うん」


 メリダとビアンカも距離を取ってサヴェロを見守る。先程までレックを圧倒し、優位に立っていたサヴェロに安心しきっていた二人だったが、レックから放たれるウィスの圧力と桁違いの殺気が、二人を不安にしていた。


 力を解放したレックと対峙するサヴェロは、その圧に押されまいと両足で踏ん張りながらも、その表情は変えず、レックの動向を注視していた。


「ご安心をメリダ様。メリダ様を巻き込む程私は未熟ではございません」


 メリダにそう告げたレックは大剣を構える。


「ほう、眉一つ動かさぬか。大した胆力だ。だが、いつまでその表情を保っていられるか」


 大剣を構えたレックの腕が急激に膨張する。攻撃が来ると瞬時に理解しサヴェロが身構えた、次の瞬間、レックは大剣を振り上げたままサヴェロに突撃した。


(さっきよりも速い! が、躱せない速さじゃない!)


 眼を見開き、レックの動きを見切るサヴェロ。だが、先程の攻撃と違い、強力なこの攻撃をまた受け流せるか判断に迷ったサヴェロは回避を選択する。


 大剣が振り下ろされる寸前で、サヴェロは横にスライドするように躱す。また攻撃後の隙を狙う為、アイオスを横に構えた。

 レックの振り下ろした一振が床にめり込む。


(今ッ!)


 サヴェロが隙だらけのレックに仕掛けようとした、その時だった。


「甘いッ!」


『避けて! マスター!』


 レックが大剣で砕いた床が刃物に変形し、サヴェロに襲い掛かる。


「くッ!」


 予想外の攻撃に回避が間に合わず、レックを攻撃しようとしていた手を防御に回す。

 致命傷になり得るものはアイオスで弾き落としたものの、全ては捌ききれず、被弾してしまう。


「ぐっ、うぅ!」


 鎧皮で防御はしているが、ダメージをゼロにできる訳ではない。

 被弾した場所からは血が流れていた。


「サヴェロ!」


 レックの攻撃を受けたサヴェロを見て、メリダは思わず叫ぶ。


『マスター。お身体の方は?』


「大丈夫だ。致命傷は避けた。いつも通り動く分には問題ない。それよりも、アイツの能力だ」


 アイオスと会話をしつつも、サヴェロは決してレックから目を離さず、動向を見ていた。

 一方、レックは振り下ろした大剣をゆっくりと床から引き抜く。


「やるな。今のは仕留めたつもりだったが、眼は良いようだな」


「……床の材質である金属を変形させ操った。アンタのウィスは金属に干渉し、しかも操れるのか」


「明察」


 レックは大剣を床に突き刺す。すると、大剣を突き刺した床の金属がうねうねと動き出し、複数本の剣を形作った。


「私のウィスは金属を操れる。形も自由自在、ある程度ならその動きも操作可能」


「自信満々だな。自分の能力をそんなにベラベラ喋っていいのかよ」


「問題無い。私の能力を知ったところで貴様に勝ち目は無い」


 そう言って、レックは突き刺した大剣を引き抜くと、そのまま掲げて上段の構えを取る。サヴェロとの距離は十数メートル離れている。飛び込んでくるならば反応は可能と判断したサヴェロであったが、レックから放たれる異常な殺気と、レックの能力を思い出したサヴェロは瞬時に回避行動に移った。


「ムンッ!」


 そうはさせまいと言わんばかりに、レックは上段に構えた大剣を、サヴェロとの距離があるにも拘らず全力で振り下ろす。すると、レックの大剣は伸長してサヴェロに向かって振り下ろされた。

 一拍、サヴェロの回避行動が早く、レックの伸びた大剣が届く前にサヴェロは横に避ける。そして、振り下ろされた大剣はサヴェロのいた場所を粉々に破壊した。


(そうだ、アイツは金属を操れるんだ。それは勿論、奴の大剣も例外じゃない)


 全力で横に飛んだサヴェロをレックが追撃する。


「まだだ!」


 今度はサヴェロの逃げた方向に大剣を振り抜く。戦艦の床を抉りながらの追撃に、サヴェロはアイオスで受ける。しかし、


(くっ、パワーじゃ勝てねえ)


 大剣を余裕で振り回すレックの膂力には、鬼理で力を増幅させたサヴェロでも敵わない。そして、脚の踏ん張りがきかなくなったサヴェロはレックのパワーに押され、吹き飛ばされてしまった。


「うわぁ!」


 ドォオンという音と共に壁に叩きつけられるサヴェロ。その衝撃で舞い上がった埃でサヴェロの姿は見えない。


「ッーー」


 衝撃的な光景を目の当たりにしたメリダは、最早悲鳴すら出て来なかった。


「ふん、他愛もない。本気を出せばこんなものか」


 伸長していた大剣を元に戻すと、感情の無い声でそう呟くレック。


 勝負は着いた。その場の誰もがそう思った――ただ一人を除いて。


「サヴェロ!」


 メリダはサヴェロの名を叫ぶと、無意識にサヴェロのもとに駆け出した。

 まだ勝負は着いていない。サヴェロは生きている。そう思いながらメリダは無我夢中でサヴェロが叩きつけられ埃が舞い上がる場所に行こうとする。だが、


「勝負は着きました。メリダ様」


 メリダの前にレックが立ちはだかる。

 レックは無表情だが、穏やかな声でメリダにそう告げた。


 サヴェロはまだ生きているかもしれないという希望。もしかしたらという絶望。それを勝手にレックに決めつけられた事による怒り。メリダの中であらゆる感情が混ざり合い、爆発する。


「そこをどい――」


「そこをどけよ」


 メリダが自身の思いを口にしようとしたその時、舞い上がる埃の中から勝負を諦めない男の声が聞こえた。


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