2-15
相対するサヴェロとレック。両者はにらみ合いながらもその場を動かない。
沈黙する両者であったが、不意にレックが口を開いた。
「私が武器を持っていない今の内に仕掛けてこないのは騎士道のつもりか?」
「丸腰の相手に斬りかかるほど俺は弱くねえよ」
「どこまでも愚かな小僧よ。その驕りが命取りだ」
すると、レックの部下達が三人がかりで何かを運んできた。そして、ソレをレックに受け渡す。
「貴様は今、億に一つの勝ち筋すら逃したぞ。これを手にした私に負けは無い」
レックが部下から受け取った物は巨大な剣だった。刀身はサヴェロの身長とほぼ変わらない。厚みもあり、それは鉄塊と呼んで差し支えない代物であった。
「むんっ!」
掛け声と共に、レックは自身の体重を超える巨大な剣を片手で振り回す。
それはさながら、岩盤をくり貫く掘削機を連想させた。
ビュオという音と共に、大剣を振り回した時に発生する風がサヴェロを威圧するが、サヴェロは瞬き一つせずレックを見据える。
そして、一通り剣を振り回すと、ピタリと停止させ、切っ先をサヴェロに向けた。
「準備運動は終わったか?」
「口だけは達者だな。よかろう、後悔させる間もなく葬ってやる」
再び、両者の間に沈黙が訪れる。互いの距離は約10メートル。リーチでは圧倒的にレックが有利だが、小回りはサヴェロに分がある。
サヴェロがレックに勝つにはその懐に飛び込む必要があるが、レックから放たれる並外れたウィスがサヴェロに圧をかけていた。
(あの大剣はやっかいだが、それ以上に奴のウィスが驚異だ。おそらく俺の三倍以上はある。正面からぶつかれば押し負ける……だが)
サヴェロはアイオスを握り直し、
(ウィスの戦いは量だけじゃない。そうだろ、先生)
意識を、ウィスを、全神経に行き渡らせる。
張りつめた緊張感の中、その静寂を先に破ったのはレックであった。
大剣を振り上げると、音もなく一瞬でサヴェロとの間合いを詰めた。
メリダはもとより、戦闘に慣れたレックの部下達やビアンカの眼にもレックがサヴェロの前に瞬間移動したかのように写る。
レックは力強く踏み込むと、振り上げた大剣をサヴェロの脳天目掛けて振り下ろす。
対するサヴェロはその動きに反応し、アイオスを横にして掲げた。
(受けるか、我が一振を。その剣ごと両断してやろう)
両断せんと迫り来る大剣がアイオスに触れるその瞬間、サヴェロはアイオスを傾け、いなした。
軌道をずらされた一撃はサヴェロの頭ではなく、その横の床を粉砕する。
「なっ!」
攻撃をいなされ、レックが驚愕している隙に、サヴェロはアイオスを横に振り切り、レックの脇腹に斬りかかる。
これをレックは身を捻ってかわし、後ろに飛び退いた。
また、両者には距離ができる。
渾身の一撃を受け流され、歯噛みしながらサヴェロを睨み付けるレックと。
表情を一切変えず、レックを見据えるサヴェロ。
今の一合で、互いの実力を推し量る二人。
(まさか、今の一撃をいなされるとは。この小僧、反応速度だけではない。相当な技術を持っている)
(図体に似合わず速いな。それに見た目通り力じゃ敵わない。だったら――)
『速さと技で圧倒するしかありませんね』
「ああ、その通りだ」
サヴェロは六露宝珠を展開する。しかし、それは自分の周りにではない。六つの水の珠はサヴェロとレックを囲むように漂っている。
(これは、先程私の部下を倒した技だな。しかし、攻撃してくる気配はない)
周囲を漂う水の珠を警戒しつつも、レックはサヴェロから意識を背けない。
一方、サヴェロは肩の力を抜き、だらりと両手を下ろす。
「さっきは狭い廊下だったからな。これだけ広ければ、コレが使える」
サヴェロがそう言った瞬間だった。何の予備動作もなく、サヴェロは高速で動きだし、レックに斬りかかった。
「くっ!」
警戒していたはずのレックであったが、サヴェロのノーモーションから放たれる攻撃に反応がワンテンポ遅れる。
辛くも大剣を盾にする事でサヴェロの攻撃を防ぐ。
攻撃を弾かれたサヴェロは勢いをそのままに、あらぬ方向へと飛んでいく。しかし、そこには先程展開した水の珠があった。
サヴェロは空中で身体を反転させると、浮いている水の珠を足場にし、再度レックに襲い掛かる。
「なにッ!」
間を置かずの連続攻撃に、またもレックは驚かされる。
ほぼ死角からの攻撃に反応が遅れ、これもサヴェロの攻撃を弾くだけが精一杯になってしまう。
攻撃を弾かれたサヴェロは周りを浮遊する水の珠を再び足場にする。
これが、サヴェロの考え出した戦い方。敵と自分の周りに水の珠を展開し、それを足場にして動き回る事で三次元的な攻撃を可能とする。
(速い! 更に死角からの攻撃が多いせいか反応が遅れる)
攻撃を受けるレックは自身の周りを高速で動き回るサヴェロの対応を思案する。
(確かに速く受けにくい攻撃ではあるが、攻撃のほとんどは死角から飛んでくる。裏を返せば、死角に意識を集中すれば対応は可能)
サヴェロは更に速度を上げ、レックを撹乱する。そして、レックの背後に回り込むと――
(来るッ!)
レックはサヴェロが飛び込んでくるタイミングを予想し、身体を回転させながら大剣を振るった。
相手の攻撃に合わせて迎撃するカウンター。レックの大剣には確かな手応えがあった。
(とった!)
レックは己が迎撃したモノに視線を移したその瞬間、
「なッ!」
と声を上げた。
レックの視線の先にあったものは、真っ二つにされた水の珠であった。そして、更にその先には今まさに飛び込んでこようとするサヴェロの姿があった。
サヴェロはあえて死角からの攻撃を増やして意識を向けさせ、相手が迎撃してくるタイミングで、自分より先に水の珠を飛ばした。
もしこれが直撃すればダメージを与えられて良し。そして、今回のように迎撃してくれば、大きな隙ができる。
サヴェロはこれを狙っていた。大剣を振りきって隙だらけになった腹部に向かって飛び込んだ。
「ウオオォ!」
力を込めたサヴェロの一撃がレックの胴に直撃する。しかし――
「ぬうぅん!」
確かに、サヴェロはレックの胴を切ったが、その傷は浅く、甚大なダメージとはいかなかった。
「あの膨大な量のウィスに防がれたか。並の攻撃じゃ通じない」
致命傷は避けたものの、受けたダメージは軽いものではないレックは「フゥーフゥー」と息を荒くし、憎々しげにサヴェロを睨み付けていた。
(まさか、ここまでとは……だが、我等カーボニア人が地上人ごときに遅れをとるなどあってはならない)
また、互いににらみあう二人。それを外野から見守るメリダとビアンカは小さくガッツポーズをとり、対照的にレックの部下達は驚愕の表情を隠せなかった。
「小僧、どうやら私はお前を見くびっていたようだ」
サヴェロを睨み付け切っ先を向けるレックであったが、スッとその構えを解いた。
「本気でいかせてもらおう」
そう言った次の瞬間、ドンッと船体揺れる程の衝撃と共に、レックの身体から大量のウィスが吹き出した。
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