2-13
「アイオス、この船の構造わかるか?」
『……申し訳ありませんマスター。どうやら妨害電波が出ているようで、私のレーダーが阻害されています。近距離の接敵には対応できますが、広範囲の索敵及び船の構造解析は無理です』
「そうか。じゃあ、辺りを警戒しつつ、あの艦橋らしき所を目標に進もう」
サヴェロが見上げた先には艦橋のような場所がある。先程船体を登って来た様に壁伝いに登っていく事も出来なくはないが、さすがに相手も黙ってそれを見過すわけがない。
サヴェロは視線を戻すと、中に侵入できそうな場所を探す。しかし、入口の様な扉はどこにも見当たらない。
「うーん。どっかに入れそうな場所は無いかな」
「壁壊しちゃえば? 私やろうか?」
「……」
当然と言わんばかりの表情で、攻撃的な事を言うメリダにサヴェロは暫し声が出なかったが、
「い、いや、さすがにそれは……それにどんな仕掛けがあるかわかんないんだから慎重に行こう」
「そお? ……ん? ねえ皆、あそこから中に入れるんじゃないの?」
メリダが偶然視線を向けた先の甲板には大きな穴の開いていた。サヴェロ達はすぐにその穴へと向かう。
「おお、ここからなら中に入れそうだな……よし、先ずは俺が入るから安全が確認出来たら二人を呼ぶよ」
サヴェロは甲板に空いた穴から船内へと入っていった。微かに見えていた足場に着地するサヴェロ。すぐにアイオスを構え、辺りを警戒する。中は真っ暗化と思いきや、船内は灯りが点いており視界は良好であった。
『大丈夫ですマスター。近くに人の気配はありません』
アイオスからの安全確認を聴いたサヴェロは上で待っていた二人を呼ぶ。
「足元気を付けろよ」
「よっと……おっ、結構明るい。アレみたいだね。ホラ、この前探索した遺跡」
「ああ、多分、同じカーボニアの技術なんだろうな」
メリダに続き、ビアンカも船内に入る。船内は明るいだけでなく、船の中とは思えないくらい広い。今三人がいる通路らしき場所も三人が横並びになってもまだ左右に余裕がある。
「確か、艦橋はこっちだったな」
サヴェロが先頭になり、艦橋がある方向へと進んで行く。船内に侵入した三人は更に気を引き締める。前方はサヴェロが、後方はメリダとビアンカが互いに警戒してゆっくりと進んで行く。
どこから何が出てくるかわからない状況で、何が起きても即対応できるように身構えていた三人だったが、
『お待ちください』
と、アイオスが皆を制止する。と同時に、サヴェロはアイオスを構えた。
サヴェロが視線を向けるその先には、二人の人物が立っていた。そして、その二人は一歩ずつゆっくりとサヴェロ達に近付いて来る。
息を呑む三人だったが、近付いて来た二人の顔がはっきりと見えた瞬間、
「なっ……」
「えっ……」
絶句し、眼を見開いた。
サヴェロ達の目の前に現れた二人組。その顔は、その頭は、狼のソレであった。そう、サヴェロとメリダがリーピンの遺跡で遭遇した怪物。
しかし、今回は様子が違う。身体は人間。頭部は狼の怪物は軍服らしき服を着こんでいる。そして、前回の様にいきなり襲ってくる事は無く、三人の手前で立ち止まり、
「お待ちしておりましたメリダ様」
と話しかけてきた。
「しゃ……」
「喋った! え? 何アレ? 被り物? 本物?」
喋った事に当然サヴェロとメリダは驚くが、それ以上に初めてヴェスティアを見るビアンカは驚き、興奮する。
「え、いや、本物っていうか、なんていうか……じゃなくって! おいお前ら、言葉がわかるなら教えろ。どうしてメリダを狙っているんだ」
サヴェロはビアンカのせいで一瞬緩めた気をすぐに引き締め、現れた二体のヴェスティアに問いかける。すると、ヴェスティア達はギロリとサヴェロを睨みつけ、
「貴様に用は無い。命が惜しくばさっさと失せろ」
と、犬が威嚇をするように牙をむき出しにしてそう警告する。
殺気を放つ相手に、言葉は通じても意思疎通は無理だと判断したサヴェロはアイオスを構えて一歩前に出た。
「お前らみてえな訳わかんねえ連中にメリダを渡せるかよ。それにお前らのせいで俺らが乗ってた船は立ち往生してんだ。それをどうにかするまで帰るつもりはねえよ」
そう啖呵を切るサヴェロに対し、更に怒ると思われたヴェスティア達だったが、急に無表情になる。
「まさか、地上人如きが、我々カーボニア人に挑んでくるとは……無謀な連中よ」
「隊長からの許可は出ている。メリダ様以外の生死は問わないとな」
二体ヴェスティアは腰に帯びていた軍刀を抜き、構えた。それに素早く反応し、戦闘態勢に入るサヴェロとビアンカ。二人が咄嗟に戦闘態勢に入ったのは相手が武器を構えたからだけではない、
「サヴェロ」
「ああ、わかってる。アイツらウィスを使う」
ウィスを使えるサヴェロとビアンカにはすぐにわかった。目の前にいる二体が放つ圧倒的な量のウィス。
「サヴェロ!」
メリダが駆け寄ろうとするが、サヴェロは片手でそれを制止する。
「メリダ下がっててくれ」
「私も戦う」
「頼む。一緒に戦ってくれるのはありがたいが、それだったら後方支援をしてくれ」
メリダはまだ何かを言おうとするが、サヴェロから伝わってくる緊迫感を感じ取ったのかそれ以上は何も言わず、少し下がって銃を構えた。
「僕は前に出るよ。これでも少しは戦えるからね」
そう言って、ビアンカは拳を構えた。ビアンカは武器を持たない。己の拳こそが最大の武器であった。
「悪い、片方頼めるか?」
「いいよ。右は僕がやるから左はお願いね」
サヴェロは、すぐに相手の危険さを感じ取ったビアンカはかなり戦えるヤツだと判断し、片方の相手を任せる。
目の前の相手は、以前遺跡で戦ったヴェスティア達とは訳が違う。知能と理性を持ち、ウィスを操る。そして、そのウィスの総量だけなら、サヴェロやビアンカの倍以上あった。
瞬きも許されない緊迫感の中、先に動いたのはサヴェロが相手をしようとしていた方のヴェスティアだった。
十メートル近く離れていた距離を一足で詰める。猛獣の様な動きに加え、素早く正確な剣戟がサヴェロを襲う。
キィン! とヴェスティアの振り下ろされた軍刀とサヴェロの持つ剣がぶつかり合う。サヴェロは冷静に相手の一撃を受けると、すぐさま受け流し、返す刀で切りかかる。しかし、相手も恐ろしい程の反応速度でその一振りを紙一重で躱した。
サヴェロと喋る知能を持つヴェスティアの一瞬の攻防、それに加わる様に、もう片方のヴェスティアがサヴェロに襲い掛かる。だが、
「いかせないよ」
サヴェロの切りかかる為、軍刀を振り上げていたヴェスティアの懐に踏み込んだビアンカはそのガラ空きのボディに右ストレートを放つ。
「くっ!」
ビアンカの踏み込みに反応できなかったヴェスティアは両腕を振り上げてしまっている為、防御が出来ない。咄嗟の判断で左足を上げてビアンカの拳を受ける。
不安定な体勢なのもあったが、ビアンカの一撃が思った以上に重く、堪えきれずに踏城に吹き飛ばされた。
サヴェロ達とヴェスティア達は再び距離を取る。格下と見くびっていたサヴェロ達に思わぬ反撃を受けたヴェスティア達は目を見開き歯噛みする。
一方のサヴェロ達は、
「大丈夫か? ビアンカ」
「うん。最初はウィスの量に圧倒されたけど、これなら大丈夫」
「よし。今度は俺が突っ込むからもう片方を頼む。あと、メリダ! 間違っても俺達を撃つなよ!」
「撃たないよ!」
余裕を取り戻す。そして、サヴェロは空気中の水分をかき集め、六つの水の珠を造りだし己の周囲に展開した。
「へぇ~サヴェロの能力って水を操れるのか。僕とはある意味逆だね」
サヴェロの六露宝珠を見て、ビアンカは両手を前に突き出し、ウィスを集中させる。すると次の瞬間、突き出したビアンカの両手がボッと発火した。
「え! ちょっ、ビアンカ! 手が燃えてるよ!」
いきなり燃え出したビアンカの両手にメリダは驚くが、ビアンカはニッコリと余裕の笑みを浮かべる。
「大丈夫だよメリダ。これが、僕の能力だから」
そう言って再び拳を構えるビアンカ。その拳は白い炎に包まれているが、ビアンカは涼しい表情をしている。これが、ビアンカの能力「白炎」。
「それじゃあ行くぞビアンカ、メリダ」
ヴェスティア達はサヴェロとビアンカが能力を見せた事で一瞬動揺を見せた。サヴェロはその隙を見逃さず、躊躇なく相手の懐に飛び込み、斬りかかる。
サヴェロは足の裏に水を流し、その流水の勢いで一気に加速する。そうする事で踏み出す際のモーションを最小限に抑え、高速での移動を可能にした。
デールと再戦する時に備えて、サヴェロが編み出した高速移動法であった。
「なっ!」
予想外のサヴェロの速さに反応が遅れ、咄嗟に軍刀で受けるが、これまた予想外のサヴェロの力にバランスを崩す。
両手を使いサヴェロの一振を防御するヴェスティア。しかし、そうすれば、両脇ががら空きになる。
サヴェロはすかさず水の珠を高速で飛ばし、がら空きになった脇腹に直撃させた。
「ガッ、ハッ」
大量のウィスを纏い防御力を上げていても高速で飛来する水の珠の威力を殺しきれない。鉄球をぶつけられているのと変わらないその攻撃は、容赦なくヴェスティアの肋骨を粉砕した。
「貴様ッ!」
味方をサヴェロに攻撃されたもう片方のヴェスティアは助太刀する為に動こうとするが、その進路をビアンカが妨害する。
「だから言ったよね? 僕が相手だって」
ビアンカは白い炎を纏った右拳をヴェスティアに向けて繰り出す。すると、ビアンカの右拳から白い火の玉が放たれた。
「くっ!」
ヴェスティアは咄嗟に身を捻り火の玉を躱す。
「良い反応だね。じゃあ、連続で行くよ」
そう言うと、ビアンカは左ジャブを連続で繰り出す。左拳を突き出す度に白い火の玉が放たれヴェスティアを襲う。
連続で放たれる火の玉をヴェスティアは軍刀で弾く。しかし、その数は多く次第に捌ききれなくなってきた。ジリ貧になりこのままではやられてしまうと判断したヴェスティアは覚悟を決め、ビアンカに突っ込んだ。
姿勢を低くし、飛んでくる白い火の玉を掠めながらも、間合いを潰したヴェスティアは軍刀で切りかかる。
「死ねえ!」
振り上げた軍刀をビアンカの脳天めがけて振り下ろすヴェスティア。一直線に迫り来る白刃をビアンカは、
「ハァ!」
自分の頭上で両手で刃を挟み、止めた。
「なっ!」
真剣白刃取り。全力の一太刀を止められ一瞬動揺するヴェスティアであったが、すぐに気持ちを切り替え、力で押し込もうとする。だが、
「グッ、ウウゥゥ~」
全力、全体重をかけているにも拘らず、その刃はピクリとも動かない。人間の腕力を遥かに上回るヴェスティアの力に、ビアンカは真っ向から圧倒していた。
「僕が誰から戦い方を――ウィスの使い方を教わったと思ってるんだ。インペリアルフォ―ス一の力を持つフェルトの腕力はこんなもんじゃないぞ!」
軍刀を止めている両手にウィスを集中させると、その白炎はより一層燃え上がり、その熱で軍刀を溶断してしまった。
「ば、バカな!」
ビアンカは軍刀を溶かすと、そのまま一瞬で相手の懐に飛び込む。
「近接戦なら僕に勝てると思った?」
腰を深く落とし、脚、腰、肩、腕を連動して一直線にヴェスティアの腹部に向けて燃え上がる拳を叩き込んだ。インパクトの瞬間、白い炎は炸裂し、ヴェスティアの身体は勢い良く吹き飛ばされると後方の壁に叩きつけられた。
ビアンカは壁にめり込み動かなくなったヴェスティアを確認すると、
「ふう、こんなもんかな?」
自分の右拳にフッと息を吹きかけ、余裕の笑みを見せた。
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