2-10
「ふあぁ~」
この日も一番に目覚めたのはサヴェロであった。上体を起こし、軽く伸びをすると、隣で寝ている二人に目をやる。
今度はサヴェロの被り物の代わりにビアンカの被り物を剥ぎ取っていたメリダは、被り物を取られたビアンカに抱き着かれていた。
「……本当に寝相悪ぃなあ」
『おはようございます。マスター』
二人を見て呆れているサヴェロにアイオスが挨拶する。
「おはようアイオス」
『……マスター、お目覚めのところ大変申し訳ないのですが』
「ん? 何?」
『メリダ様からビアンカ様を引き剥がしてください』
「え? ああ、うん」
いつものように、抑揚のない声で喋るアイオスだが、この時サヴェロはアイオスが怒っているようにも感じた。
「でも別によくない? 寝てるだけだし……」
『ダメです。如何にビアンカ様がお仲間であろうとも、男性との同衾を見過すわけにはいきませ』
「同衾って……」
まるで母親の様な言いぶりのアイオスに圧倒されたサヴェロは言われた通りにビアンカをメリダから引き剥がす。
「ほら、離れろビアンカ」
「ん~もうちょっとぉ~」
何とかビアンカを引き離したが、今度はそのままサヴェロに抱き着く。
「コイツ、誰でもいいのか?」
サヴェロは冷静にビアンカを引き離すと、横にしてメリダが奪っていた被り物をかけてあげた。
朝の支度をして、二人を起こさないように部屋を出るサヴェロ。
『マスター。今日もお気をつけて』
アイオスはサヴェロにだけ聞こえる様に声を掛けると、それに手を振って応え、調理室へと向かった。
サヴェロが調理室に向かう途中、艦橋の横を通り過ぎようとすると、中から話し声が聞こえてきた。
「船長。確かこの海域ですよね? 例の事件があったのは」
「……何だお前、あんな噂話信じてんのか?」
「いや、だって、当事者の話ですから、本当でしょう」
「ふん。大方、難破したパニックで幻でも見たんだろ」
それは船長と副船長の会話だった。何やらコソコソと話しているのが気になったサヴェロは艦橋に入り二人に話しかける。
「ねぇ、例の噂って何?」
「うっ、お前ぇいたのか……何でもねえよ。お前さんにゃあ関係無ぇ」
「関係無くはないだろ。俺だって今はこの船の一員なんだから」
「……」
船長はそれ以上何も言わず、サヴェロを無視して自分の仕事に取り掛かる。だが、そのやり取りを横で見ていて、見かねた副船長がサヴェロに語りかけた。
「幽霊船だよ」
「幽霊船?」
会話の内容をサヴェロに話した副船長を横目で見ると「勝手にしろ」と言って艦橋を出て行ってしまった。
「相変わらずお堅いジジイだなウチの船長は……まあ、いいや。そうこの海域は幽霊船が出るって噂なんだ」
「それ本当なの? さっき船長も見間違いじゃないかって言ってなかった」
「目撃者がいるんだよ。この海域を航行していた船がその幽霊船に襲われたらしい」
「襲われた? ってことは攻撃してきたのかよ」
「ああ、途轍もなくデカい船でな、船体のあちこちに穴が開いていたり亀裂が入っていたにもかかわらず、沈まずに航行していたみたいなんだ」
「それで幽霊船か」
最初はサヴェロも冗談半分で話を聴いていたが、だんだんとその話にのめり込んでいた。
「そうだ。そんで、何の警告もなくいきなり砲撃してきたんだ。しかも、ただの大砲じゃなく見た事もないような兵器だったらしい」
「見た事もないって、どんなの?」
「そりゃあわからねえよ。命からがら逃げてきた船員達はパニックになってて、要領を得なかったからな」
「ふーん」
そこまで話を聴くと、船長の言う通り何かの見間違いだったのでは? と、サヴェロは怪訝に思った。
「しかし、まあ、ウチの船は普段から海賊なんかの襲撃にも備えて航行してるから、襲われる前に対処できる。幽霊船だろうが何だろうがこの船は沈まねえよ。大船に乗ったつもりでいろ小僧」
「ああ、頼りにしてるよ」
サヴェロは皮肉っぽくそう言うと、艦橋を出て調理室に向かった。
「さすがに、見間違いだとは思うけど、実際に襲われてるんだとしたら、俺らも気を付けなきゃいけないか? でも、海の事は船長たちに任せとけばいいか。俺達がでしゃばる事もないだろう」
サヴェロはブツブツと独り言を呟きながら調理室に入っていった。
三日目の仕事も特に異常は無く、順調に進んでいった。
料理長はサヴェロの働きを評価して、少し休んでメリダとビアンカと共に船旅を満喫したらどうだと提案するが、
「俺は大丈夫だよ。何かしていた方が落ち着く」
と断り、続けて夕食の準備に取り掛かった。
さすがに、サヴェロ一人に働かせる訳にはいかないと、その日の自分たちの仕事を終わらせたメリダとビアンカも厨房に入り手伝おうとするが、ほとんど料理長とサヴェロの二人で仕事を終わらせてしまう為、やはり二人の出番はなかった。
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