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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第二章
32/48

2-4

「お、おい戻ってきやがったぞ」


「マジかよ」


 サヴェロ、メリダ、ビアンカの三人は会話をする為、再び場末の酒場に戻って来た。無傷で戻って来た三人を目の当たりにした酒場のゴロツキ達は驚きざわめく。


「オジサン! コーラちょうだい!」


 カウンターに着くなり、メリダはコーラを注文する。


「コーラ好きだな。まあいいや、俺とこの子にもコーラくれ」


 サヴェロも自分の分とビアンカの分を注文する。注文を受けた店主は何も言わず、三人の前に三本の瓶入りコーラをドカッと置いた。


「ところで、どうしてサヴェロさん達は密航なんてしようとしているの?」


 コーラを手に取ったビアンカは、コーラに口を付ける前にサヴェロに質問する。


「サヴェロでいいよ。まあ、何だ……俺達お尋ね者なんだ」


「へえ、見かけにはよらないね。何をやったの?」


 その質問に、コーラを飲んでいたメリダが飲み切った瓶をテーブルにドカッと叩きつけ、


「私達何もしてないよ。帝国とかいう奴らが勝手に追い掛けてくるんだもん」


「貴方達、帝国に追われてるの?」


 メリダの話を聴いて、驚いた様子のビアンカはそう聞き返した。


「ああ、そうだ。これからミルーアに行くつもりでな。あそこは帝国兵がここよりずっと多い。だから奴らに気付かれずにミルーアに入国する手段を探している」


 ビアンカの質問にサヴェロが答えた。ビアンカはその答えを聴くと、ニコッと笑った。


「すごい偶然。追われている相手も、目的地も僕と一緒」


「えっ! ってことは、ビアンカも帝国に追われてるのか?」


「うん。今頃血眼になって僕を捜してるだろうね」


 追われている身とは思えない余裕の表情でそう答えるビアンカ。


「ビアンカは何で追われてるの? 何か悪い事でもした?」


 コーラを飲み干したメリダが不思議そうに訊く。メリダは、自分やサヴェロ達よりも年下に見える少女が軍に追われている理由が疑問だった。


「悪い事……そうだね、確かに悪い事をしている最中かな」


「えっ? 何したの?」


「うん、まあ、家出」


「は?」


 ビアンカの答えを聴いた二人は眼を丸くする。「家出」という、確かに悪い事なのだろうが、軍隊を動かす程の悪事かと問われればそんな事はない。


「家出って……ん?」


 サヴェロは隣に座るビアンカの着ている服を見てある事に気が付いた。


 ビアンカの着ているヒラヒラとした白地に淡い緑の模様の入った服。よく見てみると左胸の位置にワンポイントの金の刺繍が入っていた。それは帝国のシンボルである三本の鉄柱がそれぞれを支えあうマーク。


「君はもしかして、帝国の貴族の家の子なのか? その刺繍、帝国のシンボルマークは上流階級の者しかつけられないハズだ」


「よく知ってるね」


「ああ、俺の故郷には帝国軍がいたからな。帝国の文化には明るいんだ。そうだとすると、ビアンカはかなりお偉いさんの娘ってとこか。それなら軍を動かしてまでビアンカを捜索するのも納得できる」


 サヴェロの推理を聴くと、ビアンカはニコッと微笑む。


「僕を貴族とわかって平然と接する人に初めて会った。皆、僕がある人の子とわかると態度を変えるから」


「ある人? ビアンカの親はそんなに偉い人なの?」


「そうだね。帝国で一番偉いから」


 ビアンカはさらりととんでもない事を言うが、サヴェロとメリダはあまりにも突拍子過ぎてリアクションが出来なかった。


「え? 一番? それって――」


「そう、僕の父はリモローク帝国の現皇帝だよ」


「「えぇー!!」」


 衝撃の答えに二人は店中に響き渡る声で驚く。店内の客も「何だ? 何だ?」とサヴェロ達の方を見る。


「な、何で、その皇女様がこんな所にいるんだ?」


「うーん、そうだね……家にいるのが暇だったからかな」


 そうあっけらかんと答えるビアンカに、サヴェロはどこか呆れていた。


(なんつーか、お姫様ってのはみんな自由奔放なのか?)


 サヴェロはビアンカとは反対にいるメリダを見てそう思った。


「ん? 何?」


 じろじろ見てくるサヴェロにメリダは不思議そうにするが、「いや何でもない」とサヴェロは返した。


「それで、僕も訊きたいんだけど、どうしてサヴェロとメリダは帝国に追われてるの? 僕だけ理由を言って、貴方達は答えないのは不公平じゃない?」


 サヴェロを笑顔で見つめ、そう問い詰めるビアンカ。サヴェロは「うーん」と少し考えると、


「別に教えてもいいよな? アイオス」


 そうアイオスに訊いた。


「アイオス?」


 ビアンカはそのサヴェロの行動に疑問を浮かべる。それもそのはず、サヴェロとメリダ以外に近くに人はいない。サヴェロが誰に話し掛けているのか、わからないからだ。すると、


『そうですね。お話しても特に問題はないでしょう』


 と、ビアンカの耳に見知らぬ女性の声が届いた。これに驚いたビアンカは店内を見渡す。しかし、自分とメリダ以外に店内には女性の姿は見当たらない。


「ああ、驚かせちゃったか。今喋ったのはコイツだ」


 キョロキョロと、辺りを見回すビアンカを見て、サヴェロは布を巻いて隠していたアイオスをビアンカに見せた。


『はじめまして、ビアンカ様。私、アイオスと申します。以後お見知りおきを』


「え? 今、この剣が喋ったの?」


 ビアンカは目の前の剣から発せられた人の声に眼を見開いて驚く。


「普通は驚くよな。まあ、アイオスの事は深く考えないで、人間だと思って話をしてくれればいいよ」


『そうですね。そうしてください』


 サヴェロとアイオスはそう言うが、ビアンカはまだ混乱しているのか、何とも言えない表情になっていた。


「ああっと、話が逸れたな。俺達の旅の目的なんだけど――」


 サヴェロは話を本題に戻し、自分達の旅の目的を話そうとする。しかし、目的が目的故、話を整理するために少し間を置いた。


「ん~俺、説明するの苦手なんだよなぁ。俺の代わりにアイオスが説明してよ」


『承知しました。それではマスターに代わりまして私が説明させて頂きます』


 サヴェロはこの旅を始めるきっかけとなったアイオスにその代役を任せた。


『突然ですが、ビアンカ様はカーボニア文明をご存知ですか?』


「え? ああ、名前は知ってる。大昔に滅んだ高度な科学力を持っていた文明でしょ? それがどうかしたの?」


 いきなり出てきた「カーボニア」というワードに首を傾げるビアンカ。


『私達、正確には、私とこちらにおわしますメリダ様はそのカーボニア人です』


 アイオスの話を聴いていたビアンカの眼が点になる。そして、ビアンカはサヴェロの横で三本目のコーラを飲むメリダに視線を移した。ビアンカに見られている事に気が付いたメリダはニコッと笑ってビアンカに手を振る。


「いや、え? どういう事? カーボニアは大昔に滅んだんじゃ?」


『はい。カーボニアは二千年前に滅びました。しかし、メリダ様はカーボニアの科学力で長い間眠りにつき、この時代で目覚められたのです』


「二千年も眠っていたって事?」


アイオスの話を聴き、驚きを隠せないビアンカに「そうなるねー」と笑いながら言葉を返すメリダ。

ビアンカにとってにわかには信じられないアイオスの話だが、ビアンカは一旦落ち着いて気持ちを整理し、アイオスに話を促した。


「それで、貴方達がカーボニア人である事と旅をする理由はどう関係があるの?」


『そうですね、先ず旅をする理由よりも追われている理由をお話しします。ビアンカ様がご存じかどうかはわかりませんが、帝国にメリダ様を追う者がいます』


「帝国に?」


 ビアンカは少し考えこむ。何か引っかかる事がある様にも見えたが、アイオスは更に話を続けた。メリダを利用してカーボニア文明を復活させようとしている事。自分達はそれを阻止すべく、月へと向っている事を。


 アイオスの話を全部聴いたビアンカは口を開けて絶句する。現実離れした話に、ビアンカの理解が追い付かない。


「まあ、こんな話信じられないだろうけど、本当なんだよ。俺も最初に聞いた時はそんな感じだったからな」


 サヴェロがそうビアンカに話しかけると、ビアンカは俯いてしまった。サヴェロはどうしたのかとビアンカの顔を覗き込もうとした瞬間、


「すごい! 何それ⁉」


 と、勢いよく顔を上げた。そして、ビアンカは目を輝かせてサヴェロに迫る。


「こんなに面白そうな事は無い! お願い! 僕を貴方達の旅に同行させて!」


「え、ええ~」


 ビアンカの思いがけないお願いに、サヴェロの方が困惑する。


「いや、同行って……」


「僕は退屈な時間を過ごすのが嫌で家出してきたの。僕はもっと外の世界を見てみたい。自分の足で世界を歩きたいんだ」


 ビアンカは真っ直ぐな眼でサヴェロを見つめた。真剣で嘘偽りの無い眼だ。そんな眼を見てサヴェロは思い出す。かつて、そんな事を言っていた男の事を――


「……危険な旅だ。もし、ビアンカに何かあっても俺達は責任を取れないぞ」


「危険な事は百も承知。それに、僕に何かあっても君達に責任を擦り付けるような事はしないよ」


 自分が一国の姫だという事がわかっているのかと、サヴェロは呆れていた。本人が何と言おうと、もしもの事があれば、責任を追及されるのはサヴェロだ。しかし、ビアンカの熱意と勢いに押されたサヴェロは、


「わかったよ。勝手にしてくれ」


 と折れた。それを聴いて、ビアンカは満面の笑みを浮かべる。


「ああ、よろしく。サヴェロ、メリダ、アイオス」


「よろしくねビアンカ」


 早速メリダとビアンカは意気投合する。


危険な旅であるはずなのに、和気あいあいと談笑をし始めるメリダとビアンカをしり目に、サヴェロは「はぁ」とため息を漏らした。


 盛り上がっていたビアンカだったが、突然、思い出したように口を開く。


「ああそれと、みんな勘違いしてるけど、僕は男だよ」


「え?」


「え?」


『え?』


 さらっと、とんでもない事を言ってのけるビアンカに対して、サヴェロ、メリダはおろか、アイオスまでもが驚き、それ以上言葉が出なかった。


 一方、ニコニコと笑顔のビアンカは固まった二人と一本をしり目にコーラを飲む。


 女の子の様な顔立ち、女の子の様な仕草。これが男と言われ完全にフリーズしてしまったサヴェロ達が再び動き出すには暫く時間が必要だった。

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