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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第二章
28/48

2-1

『そうです。水の珠を頭上に作り出し、そのまま制止させた状態で移動してみてください』


 サヴェロ、メリダ、アイオスは最初に訪れたリーピンの港町から北東に移動し、ミルーアに渡る事の出来る別の港町を目指していた。


 サヴェロ一行は、できるだけ人目につかないように、人通りの多い街道は避けて、人気の無い旧街道を進んでいた。交通の便が悪く、遠回りになってしまう為、最初の港町を出て三日が経っていた。


「うう、これ結構難しいな。水の珠が一つだけとはいえ、動かさないで留めておくのって」


 サヴェロはアイオスに師事し、移動しながらでもできるウィスの修行を行っていた。


『マスターはウィスの流れを操作する事を得意としていますが、一点に留めてタメを作るという事はまだまだ未熟といえます。ウィスを一点に集中させ、タメを作るという技術は、強力な攻撃を行う上で重要になってきます。そこで、別の行動をしながらも、ウィスを留めておく事が出来るようになって下さい』


 アイオスに言われた通り、ウィスを使って頭上に水の珠を作り、移動するサヴェロ。まだ意識していないと水の珠を留めておけないサヴェロは、背筋をピンと伸ばしまるでモデルの様な歩き方になっていた。


「あはは、良いじゃん。背筋が伸びて、その方が健康的じゃない?」


 そんなサヴェロを見て無邪気に笑い、茶々を入れるメリダ。


「くっ、言いたい放題言いやがって」


 首もまともに動かせないサヴェロは、視線だけをメリダに向けてピクピクと目じりを痙攣させていた。


『これを意識しないで、複数の水の珠を維持できるようになれば、マスターは更に強くなれます』


「それって、遺跡で遭遇した電気を使う人よりも?」


 何気ないメリダの問いに『無論です』とアイオスは即答する。少し、意外だったのかメリダは「へぇ」と声をもらした。


『マスターのウィス総量はかなり多い方です。ウィス総量だけならば例の電撃使いを上回っています。後、マスターに必要なものは、今行っているウィスを留める技術の向上と、実戦経験だけです』


 新たに己の師となってくれたアイオスの言葉を信じ、サヴェロは「よし」と気合を入れると、今取り組んでいる修行に集中した。


 今サヴェロ達が歩いている道の両端に広がるのは、見渡す限りの平原。人どころか、人工物すら視界に入らない。だんだん日も暮れ始め、辺りは暗くなる。これ以上歩き続けても危険と判断したアイオスは二人に休憩する事を提案した。


 当然、人や建物がないので野宿となる。サヴェロは少し先にあった大きな木を見つけると、そこの下で野宿をする事にした。


「あー今日は疲れたぁ」


 大木に背を預け、脱力するメリダ。そんなメリダを苦笑いして見ていたサヴェロは焚き火の準備を行っていた。


「お疲れさま。豪華なベッドは無いけど、ゆっくり休んでくれ」


 サヴェロは集めた枯れ枝にアイオスの切っ先をつける。そして、アイオスは刀身を超振動させると、その摩擦熱で枯れ枝から煙が出始めた。さらに、サヴェロがそこに息を吹きかけると枯れ枝に火がついた。


 火がついた事を確認したメリダは虚球から水と食料を取り出し、食事の準備を始めた。


「しっかし、それ便利だよな。武器だけじゃなくて、その他の荷物も入れられるから大助かりだ。そんだけ物を入れても重くないのか?」


 サヴェロはメリダの周りをふわふわと浮遊する虚球を見つめながら尋ねる。


「うん。いくら物を入れても私は重さを感じないよ。使ってる私が言うのもなんだけど、どのくらい物が入るのかよくわかんないし。アチチ、はいどうぞ」


 メリダは焚き火で沸かしたお湯で温めたレトルトの食料を取り出し、そう答える。


 サヴェロとメリダは手を合わせ「いただきます」と言うと、質素な携帯食料を食べ始めた。


「おいしい~お腹が減ってるから余計においしく感じるよ」


 メリダは満面の笑みで食料を頬張る。


「ホントごめんな。まともな物食わせてあげられなくて」


「そんな事ないよ。これすっごくおいしいじゃん。まあ、サヴェロのお母さんが作った料理に比べたら全然だけどね」


「そう言ってもらえると、母さんも喜ぶだろうな」


 ここで、メリダは手を止める。


「やっぱりおいしいよ。こうやって誰かと一緒に食べるご飯って。まだぼんやりしてるけど、小さい頃の私は、いっつも一人でご飯を食べてた。確かに、出てくる料理はどれも豪華だったけど、どんな味だったかよく覚えてない。でも、サヴェロと食べるこの携帯食はめちゃくちゃおいしい」


 メリダはニコッと笑いそう言った。その絵がを見て、サヴェロは少し照れたように顔を赤らめるとメリダから視線を外した。


「ま、まあ、最近の携帯食は味も考えて作ってあるみたいだしな」


「なーに照れてるの?」


「照れてなんかないっての。さ、早く食って明日の為に早く寝よう」


 サヴェロはそう言って携帯食を一気にかっ込む。メリダはそんなサヴェロを見て「ふふ」とほほ笑むと、自分のペースで携帯食を食べていった。



 食事を終え、それらを片付けた二人は就寝する為、ビニールシートと棒で簡易的な屋根を張り、地面に断熱シートを敷いてその上に寝転ぶ。今日も長い距離を歩いたせいか、メリダはものの数秒で眠りに落ちていった。


 サヴェロはぐっすり眠っているメリダに毛布を掛けると、自分は胡坐をかいて座る。そして、両の手を上に向けて開くと、その上に水の珠を作り出し、静止させた。


『マスターもお休みになられてはいかがですか?』


「ああ、でも、結構コツを掴んできたんだ。もう少しだけやったら寝るよ」


 サヴェロの掌の上に浮く水の珠はピクリとも動かない。それどころか、その表面も揺れる事無く、まるでガラス玉が浮いているかのようでもあった。


『素晴らしい成長速度ですね』


 サヴェロが作るほぼ真球の水の珠を見て、アイオスは言葉をもらした。


『大変失礼ですが、たった数時間でここまで上達するとは思っていませんでした』


「今はこうやって座りながらやってるからな。動きながらだとまだまだ安定しないよ」


『いえ、そんな事はありません。座りながらでも、マスターのウィスが一点に集中し、留まっているのがわかります。普通ここまで上達するには少なくとも数年はかかります』


「じゃあ、アイオスの教え方が上手かったんだな」


 サヴェロがそう言うと、アイオスは黙ってしまった。サヴェロは何か気に障る事でも言ったかなと心配したが、


『マスターはどのようにウィスを身につけたのですか?』


 と、突然質問をしてきた。


「どうしたんだ? アイオスが質問してくるなんて珍しい」


『少し気になったものでして。確かに、マスターには素質があります。ですが、それだけではここまで早く上達は出来ません。マスターにしっかりとしたウィスの基礎があっての事。その基礎をマスターはどのようにして身につけたのか私はとても興味があります』


 質問どころか、ここまで饒舌に喋るアイオスに、少し面を食らったサヴェロだったが、そんなに知りたいのなら別に黙っている理由もないので、サヴェロはウィスを知るきっかけとなった「先生」との話を始めた。


「今から六年くらい前に、ある人に出会ったんだ。俺は先生って呼んでたけど。俺はその人からウィスの使い方を学んだ。ウィスの動かし方、使い方、そしてそれらを使った戦闘方法。その基本を教えてもらった」


『そうでしたか……それでマスターが先生と呼んでおられた方は一体どのような方なのですか?』


「ん? ああ、見た目は普通のオッサンだったよ。ちょっと小汚い感じの。全然強そうには見えなかったけどね。何でも一人で世界中を旅して回ってたんだって。ナウィートに立ち寄ったのもその途中だったらしい。ナウィートに滞在していたのも二週間ぐらいだったし」


『二週間? 今、二週間と仰られましたか?』


 サヴェロの話を聴いていたアイオス口調がほんの少し変わった。それを聴いたサヴェロは「そうだけど」と答える。


『まさか、マスターはたった二週間でウィスの操作方法を習得したのですか?』


「あー、そうなるね」


 あっけらかんとしたサヴェロの返答を聴いて、アイオスは再び黙り込んでしまった。そんなアイオスにサヴェロは「どうしたの?」と様子を窺う。


『やはり貴方は天才です。通常、たった二週間でウィスの操作法を習得するなどあり得ません』


 いつも冷静な口調のアイオスが、この時ばかりはやや高揚しているのにサヴェロでもわかった。


「まあ、習得って言ったって、基本の基本だし」


『その基本の基本をおさえるのがとても難しく、重要なのです。きっと、マスターにお教えしていた先生も、マスターの成長速度にかなり驚かれていたのではないでしょうか?』


「ああ……言われてみれば、俺が何かやる度にいちいち大騒ぎしていたような。あれはあの人がああいう性格なんだと思ってた」


 サヴェロがそう答えるとアイオスは『先生の心中をお察しします』と口調はいつも通りだったが、少し呆れたようにそう言った。


「厳しいところもあったけど、すごくいい人だったよ。ウィスの事だけじゃなく、世界中の事、歴史や現代科学の事なんかも教えてもらった。修行の合間に遊んでもらった事もあったし。短い間だったけど、楽しかった。また、会いたいな」


 サヴェロは二つの水の珠を浮かせながら、どこまでも続く平原の先を見据えそう言った。


『マスター……マスターが会いたいと思っておられるなら、必ずどこかでまたお会い出来ます。その時、成長したマスターの姿をお見せして差し上げましょう』


「アイオス……そうだな。次に会う時は、六年前以上に驚かせてやろう」


 そう言うと、サヴェロは二つの水の珠をくっつけ、一つの大きな水の珠を作り出した。そして、立ち上がり簡易屋根の外に出ると、それを空高く放り投げた。


 水の珠は空中で弾けると、平原にバシャバシャと降り注いだ。


「さぁて、もう寝ようか」


 サヴェロは振り返り、アイオスにそう言うと、アイオスは『はい。お休みなさいマスター』と返した。

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