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――リモローク帝国軍本部中央会議室
リモローク帝国の重要な議案をまとめる為に造られたこの場所は、豪奢な内装に彩られつつも、議席数が十人分とあまり広いとは言えない会議室であった。
部屋の中央には円状のテーブルが置かれ、そこには既に三人の男が着席していた。
一人は髪をオールバックにし、口の周りに髭を蓄え、高級なスーツに身を包んだ中年の男性。リモローク帝国の皇帝であった。
皇帝の右に座るのはリモローク帝国軍の軍服を着込んだ身長二メートル程の大男で、その肉体も服の上から筋肉が隆起しているのがわかる。大男は腕を組んで眼を瞑っていた。
そして、皇帝の左側に座るのは、ヒトと呼んでいいのかわからない風貌をした者だった。何故ならば、そのモノの顔は銀色の光沢を放つ髑髏の様な形をし、両眼は蛍光ランプの様に赤く光っている。一応、軍服を着込んではいるが、その体型もヒトと呼ぶには骨格がおかしかった。
「ククク、毎度ノ事ナガラ、インペリアルフォースノ連中ハ集マリガ悪イナ。コウシテ時間通リニ来ルノハ私ト、スコット君ダケダヨ」
銀色に輝く髑髏の様な顔をした男が電子音の様な声でそう言った。その対面に座っていたスコットと呼ばれた筋骨隆々の男はゆっくりと目を開ける。
「デールはともかく、フェルトが遅れるのは珍しいな。何かあったか」
スコットがそう言った時だった。会議室の扉がバンっと勢いよく開かれ、一人の女性が中に入って来た。この女性も軍服を身に纏い、水色の髪を肩のあたりで切りそろえている。
女性はカツカツとテーブルの近くまで歩いてくる。そして、足を止めたと同時にバッと深く頭を下げた。
「陛下! 大変申し訳ありませんでした!」
女性が大声で謝罪すると、席に座る三人はキョトンとした表情で女性を見た。
「入って来るなりどうしたんだ? フェルト」
中央に座る皇帝がそう尋ねると、フェルトと呼ばれた女性は顔を上げ口を開いた。
「申し訳ありません……その、また、皇子に逃げられてしまいました」
神妙な顔でそう述べるフェルトだが、座っている三人は別段驚く事なく話を聴いていた。
「何かと思えばそんな事か。いつもの事だ。気にするな」
「し、しかし……」
「良いと言っている。それよりも早く席に着け」
まだ何か言いたそうなフェルトであったが、渋々スコットの横に座った。
「イツモイツモゴ苦労ダネ。アノ皇子様ノオモリハ」
赤く光る双眸を向かいに座るフェルトに向け「ククク」とどこか嘲笑うように言う。それが癪に障ったのか、フェルトはキッと睨み返す。
「皇子を侮辱するような言い方は許さんぞライト」
ライトと呼ばれた銀色の髑髏の様な顔をした男は肩をすくめるような仕草をしてごまかす。
すると、会議室の扉にコンコンとノックをし、デールが入って来た。
「失礼陛下。遅れてしまいました」
デールは会議室に入るなり皇帝に向かってスッと一礼をする。
「よい。任務中に悪かった。しかし、これはお前達に直接会って話しておきたい事だったんでな。こうして集まってもらった」
皇帝の言葉を聴くと、デールはフェルトの隣に着席した。
「任務ノ途中カ……ククク、ソノ任務、遂行デキルトイイナ」
「黙れ鉄屑野郎。今ここでスクラップにされたいか?」
長い前髪から覗かせるデールの視線は、殺気と共に挑発をしてきたライトへと向けられる。
「やめろ二人とも。陛下の御前だぞ」
スコットに注意され、デールは殺気を抑えると「チッ」と舌打ちをして視線を逸らした。
「相変わらず仲が悪いなお前らは」
目の前でのやり取りを見ていた皇帝はどこか面白そうに「ふふ」と微笑する。
「さて、いつものやり取りが終わったところで、早速始めようか。エリス頼んだぞ」
皇帝がそう言うと、どこからともなくスーッと皇帝の横に銀の仮面を被った男エリスが姿を現した。その瞬間、インペリアルフォース四人の視線がエリスへと向けられる。
四人が四人とも、エリスに向けてあからさまな敵意を向けている。それを知ってか知らずか、エリスは涼し気な態度で話し始めた。
「皆様、お忙しい中集まっていただき、誠にありがとうございます。陛下もインペリアルフォースの皆様もお忙しい身でありますので、挨拶はこのくらいにしまして、本題に入りたいと思います」
エリスは右手に持っていたスイッチを押した。すると、部屋の照明が落とされ、円形のテーブルの中心に立体の世界地図が映し出された。
「皆様もご存知の通り、我がリモローク帝国では、世界各国の宇宙開発競争を制する為、宇宙開発を推進しています。これはライトさんを筆頭とした帝国軍技術開発局の皆様に尽力していただいているところですが、第一目標としている月面への有人飛行を行うには、如何せん技術が不足していると言わざるを得ません」
そのエリスの物の言い方に、ライトの眼光がより一層赤く光る。
「そこで皆様、こちらの世界地図をご覧ください。」
全員が中央に映し出された世界地図に視線を移す。すると、とある海域に赤い点が表示された。その赤い点のすぐ近くには一つの島国があった。
「私の独自の調査で、この赤い点がある場所にカーボニア文明の宇宙開発に関する技術が眠っている事が判明しました。そこで、我々カーボニア軍は総力を結集してこの技術の発掘にあたり、得られた技術を参考に宇宙開発を進めたいと考えています。」
エリスから一通り説明を受けたインペリアルフォースの四人は少しの間沈黙する。そして、スッとフェルトが挙手をした。
「何ですか? フェルトさん」
「そこにそれらの技術がある事はわかりました。それで、我々は具体的にどのような事をしたら良いのかしら? ただ発掘をするだけなら他の兵士に任せれば済むと思うのだけれど」
「はい。詳しい任務の内容は後々お伝えすますが、皆様の主なお仕事は発掘作業の警護になると思われます」
エリスの回答を聴いたデールは「警護?」と、その任務内容を訝しんだ。
「俺達が警護を行わなければならない程の障害があるってのか?」
デールはうんざりとした口調で質問した。その問いに対し、
「はい。今回この発掘調査を行う場所は地図をご覧の通り、ミルーアの領海になっております。この件につきましては、事前にミルーア政府に通達を出しており、今や帝国の属国になり果てたミルーアは我々帝国が何をしようと口出しできません。問題なのは、未だミルーアに数多くいる反帝国組織の存在です。現に事前調査中も反帝国組織の妨害に遭いました。そこで皆様にはそれら反帝国組織の排除を行ってもらいたい」
その理由を聴いたライトは「フン」と鼻を鳴らした。
「ソレコソ他ノ兵ニヤラセレバイイダロウ」
「役割分担ですよ。多くの兵を発掘作業に回し、作業を迅速に行います。皆様は発掘作業より戦闘の方がお得意でしょう?」
「人を戦闘狂のように言ってくれるな」とスコットが横から口を挟み、
「それでも、反帝国組織相手なら一般兵で事足りると思うが?」
と続ける。それに対しエリスは、
「ええ、そうなのですが、恐らく敵は反帝国組織だけではありません。この遺跡の中にも我々の行動を阻む者達がいる可能性があります」
そう答える。それに、スコット、ライト、フェルトの三人は意味がわからず、眉をひそめるが、ただ一人、デールだけがエリスの返答に反応した。
「おい、テメェ、あの怪物達の事、何か知ってやがったのか?」
「おや? デールさんはご存知の様ですね?」
「ああ、今遂行中の任務で、ターゲットが逃げ込んだ遺跡の中で、見た事のねぇ怪物とやりあった。ありゃあ一体何なんだ?」
デールとエリスの間で交わされる会話が理解できず、困惑するインペリアルフォースの三人。それを横目で確認したエリスは改めてインペリアルフォース全員に向き直った。
「ちょうどいい機会ですのでその事についてお話しておきましょう。デールさんが遺跡内部で遭遇したと言われた怪物、それはカーボニアの科学が生み出した生物兵器『ヴェスティア』の一種でしょう」
「生物兵器だと?」
「ええ、そうです。まあ、皆様がご存じないのも仕方がありません。ヴェスティアはカーボニア文明の中でも重要な技術を有する遺跡にしかいませんからね。そういった遺跡の発掘はまだまだ少ないです」
それを聴いて「なるほど」とスコットが頷く。
「その今回発見した遺跡には重要な技術が眠っているから、その怪物とやらもいるかもしれないという事か」
エリスは「その通り」と答える。
「例の怪物とやら、生物兵器との事だが、どれほどの戦闘能力があるんだ?」
スコットはフェルトを挟んで隣にいるデールにヴェスティアの情報を訊く。
「俺が遭遇したのは二足歩行をする狼みてぇな怪物だった。確かに一般兵では銃器を持っていても苦戦するだろうが、俺等なら何匹来ようが敵じゃない」
「デールさんが遭遇したのは、恐らくヴェスティアの中でも下級の個体でしょう。しかし、気をつけてください。中には、高い知能を持つモノや、ウィスを使用してくる個体などもいますからね」
エリスから驚愕の情報を聴いたインペリアルフォースの四人は全員顔をしかめ、言葉が出なかった。ウィスの操作という高等技術を人間ではなく、未知の怪物が使用してくるという脅威。ウィスの操作方法を熟知している者達だからこその反応であった。
「……確かに、そんな連中が潜んでるってんなら俺等が出なくちゃならねぇな。だが――」
デールは今回の指令に納得するものの、ある疑問点に言及する。
「お前、そのヴェスティアとやらにずいぶん詳しいじゃねぇか」
「……ええ、私はカーボニア文明についてばかり調べてますからね。どうしてもこういった事に詳しくなってしまうんですよ」
エリスはやや間を置きながらも、デールの問いに答える。その後、少しの沈黙があったが、「わかった」とデールが言葉を発した。
「今回の任務やらせてもらおう。そんで、今遂行中の任務よりこちらを優先させるって事で良いんだよな?」
「はい。そうしてください。何せ、これは陛下直々のご命令ですので」
エリスがそう言うと、その場の全員の視線は中央に座る皇帝へと向けられた。
「任務中の者は悪いな。だが、これはリモローク帝国をあげての一大プロジェクトだ。諸君等の力を是非とも貸してほしい。いいかな?」
皇帝の協力要請を聴いたインペリアルフォースは同時に席を立つと、皇帝に向かって敬礼し、
「「「「了解しました」」」」
と、返事をした。
その後、詳しい任務は追って伝える事となり、この会議は解散となった。
インペリアルフォースの四人が退室し、会議室には皇帝とエリスの二人だけが残った。
「本当に仕事が早いなお前は。今、俺が最も欲しい宇宙開発に関する技術が眠っている遺跡をよく探し出した」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
皇帝は机に肘をついて手にあごを載せると、目の前に映し出されている世界地図……正確にはミルーアを凝視した。
「ミルーア近海か……お前はこの事を見越し、先代を焚きつけて、二十年前の戦争を起こさせたのか?」
「はて、何の事でしょうか?」
「とぼけなくともよい。先代皇帝であった我が父が、帝国と別段険悪な仲ではなかったミルーアに戦争を起こさせなければならないよう、ミルーアに経済圧力や貿易制限をかける訳がない。お前がそそのかしたのだろう?」
「……そそのかしたというのは語弊があります。実際、当時のミルーアは我が帝国に追い付かんばかりの急成長を見せていました。あそこで叩いておかなければ今頃、帝国の脅威になり得ていたかも知れません。ですが、まあ、ミルーアの領地が目的でなかったというと嘘になりますね。ミルーアの周辺には多くのカーボニア文明の遺跡があります。ミルーアの著しい科学技術の発展はそれらカーボニア文明の技術を参考にしているからですしね」
エリスの答えを聴いて、皇帝は眼を瞑り、一度溜息を吐いてから目を開いた。
「できれば、ミルーアとは戦争はしたくなかった。お前の言う通り、ミルーアが帝国の脅威になり得たとしてもだ。ミルーアは俺の……いや、起こってしまった事をいつまでも嘆いていても仕方がないか」
皇帝はガタリと席を立つと、会議室の扉へと歩いて行く。そして、扉に手をかけたところで、
「今回の作戦、できるだけ早く進めておいてくれ」
そう言って、退室していった。それを聴いたエリスは会議室を出ていく皇帝に深々と頭を下げ「御意」と返答した。
ここで一旦、区切りとさせていただきます。
ここまで読んでくださった皆様、誠にありがとうございます。
もちろん、この後もまだまだお話は続きますので、
今後もよろしくお願い致します。




