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「チッ、ここもダメか」
崩れる遺跡の中から脱出したデールは逃げたサヴェロ達を追う為、他に遺跡内へ入る事の出来る入り口を捜していた。
サヴェロに戦闘不能にされた部下達は車に残し、まだ動ける者と一緒に発掘場を探索する。
「しかし、あのウィスの使い手は想定外だったな。クソ、『手袋』を本国に置いてきちまったのは失敗だったか」
何やらブツブツと独りごちるデール。すると、デールは近くにいた部下に「おい」と声をかけ呼び寄せた。
「何でしょうかデール様」
「車に戻って、無線を使い本国と連絡を取れ。そして、誰かに『手袋』を持ってくるように伝えろ」
「了解しました」
部下はすぐさま言われた通り車に戻り、車に備え付けられている無線を操作しようとする。ところが、
「デール様!」
車に戻ったはずの部下が、車に備え付けられていた無線を持ってデールのもとへと戻ってきた。
「どうした?」
「はっ、それが、本国から入電です。デール様にと」
そう言われデールは部下が持ってきた無線を渋々受け取ると、耳に当てた。
「デールだ。こちらはまだ任務の最中だ。要件を短く言え」
『おお、これは失礼いたしました。お仕事中にかけてしまい申し訳ない』
無線の向こうから聞こえてきたのは、どこか飄々としたデールの嫌う声であった。
「エリスか……何の用だ? 今言ったが、こっちは任務中だ。早く済ませろ」
『ええ、わかっていますよ。ですので、単刀直入に言いますね。デールさん今貴方が携わっている任務を切り上げて一度本国にお戻りください』
「あっ? それはどういう事だ? 俺に任務を放棄しろと言ってるのか?」
『いえいえ、ですから、一旦その任務は置いておいて、本国に戻ってきていただきたいのですよ。任務の続きはその後でやっていただいたらいい』
「それだとターゲットに逃げられちまう。もうそこまで追いつめているところなんだ」
『なんと、もうターゲットに接近したのですか。さすがですね』
エリスの見え透いた誉め言葉に、デールはイラつくも、気持ちを抑えて黙って聴いていた。のだが――
『でも、捕らえられてはいないんですよね?』
「……何が言いたい」
エリスの煽る様な言葉を聴いた途端、思わず無線を握り潰しそうになるデール。
『今の貴方の状況、私でも大方予想が付きます。ターゲットに接触したはいいが、ターゲットの仲間に返り討ちにあったといったところでしょう? それでターゲットに逃げられてしまった。『手袋』も置いて行ってしまったようですし。私は油断しない方が良いと警告したはずですが?』
全てエリスの言う通りであり、デールは何も言い返す事が出来なかった。
『ですから、まあ、ここは体勢を立て直すという意味も兼ねて一度本国に戻って来てはいただけませんか?』
「……『手袋』は部下に持ってこさせる。ターゲットもすぐに捕獲する。戻るのはそれからでもいいだろう」
それでも自分の意見を変えないデールに、エリスは『う~ん』と困ったような声を出す。そして、少しの沈黙の後、
『この帰還命令が陛下直々のものであってもですか?』
と言った。すると、
「それを早く言えクソッたれ」
そう言い返すと、デールは無線を握り潰した。その行動と、鬼の様な形相のデールを見た部下はビクッと体を震わせる。
「おい、撤退だ。急いで本国に戻るぞ。準備をしろ」
「え? あっ、は、はい!」
デールはすぐさま車に戻ると、自分でハンドルを握り車を発進させた。
ゆったりとした川の流れに乗り、サヴェロ達は一時休息をとっていた。
「そういえば、さっきから気になってたんだけど、メリダの頭の上に浮いてるその球は何なんだ?」
サヴェロはメリダの頭上をフワフワと浮遊している『虚球』を指さし質問する。
「そうそう、これが私の新しい武器だよ。この中にたくさんの武器を収納出来て、それで戦う訳。便利でしょ?」
「へぇ、でもメリダって武器とか使えたんだな。ちょっと意外だ」
「あーそれは自分でも結構驚いてる。なんていうか、身体が自然に動いたっていうか……」
『それはメリダ様が幼少時に銃器の訓練を受けていたからでしょう』
「銃器の訓練? ああ、何かそんな事やったような?……うーんまだ記憶がぼやける」
『カーボニアでは王族も一通り銃器の訓練や護身術の訓練を受けられます。記憶を失っておられても身体がその事を覚えていたのでしょう』
「ふーん。そんなもんかなぁ」
メリダは手をクルクルと円を描くように動かす。すると、頭上をフワフワと浮いていた『虚球』がメリダの手の動きについてくる。
サヴェロ達を乗せた脱出艇は川の流れに乗り、いつしか民家のある流域まで流されていた。
「結構流されてきたな。このままだと俺達が上陸した街まで流されるんじゃないか?」
サヴェロは立ち上がり、辺りを見渡す。サヴェロの言う通り、視線の先にはサヴェロ達が最初に訪れた街が川の流れる先に小さく見えた。
「街に戻っても目立つ行為は控えよう。遺跡に来た帝国兵の仲間がいるかもしれない」
帝国兵と聴いた途端、メリダは遺跡内部での事を思い出したのか、震える身体を誤魔化すために浮いていた『虚球』をギュッと抱きしめる。
「あいつら……特に長髪を男はとんでもなく強かった。あいつの攻撃に身体は全然反応できなかった」
「身体は」という事は眼では追えていたという事かと、少し驚くアイオス。同じくデールと戦ったアイオスはデールの攻撃を波を利用して感知し受けきっていた。いくらアイオスでも眼だけでデールの動きを見切るのは不可能であった。
「帝国にはまだあんな連中がいるってことだよな」
『恐らく、あと数人はあのレベルの兵がいるはずです。それと、あの電気使いも全力ではないですね。まだ奥の手を隠しているはずです』
「やっぱりそうか……」
俯き、グッと拳を握り締めるサヴェロ。デールと対峙した時、何も出来なかった悔しさと、デールと同じような強さを持つものがまだ何人もいるという事への恐怖心を噛み殺そうとしていた。
『……マスター。以前にも申し上げましたが貴方は強いです。これからもまだまだ強くなります。それこそ先の電気使いを倒せるくらいに。ですから顔を上げてください。貴方にそんな表情は似合いません』
「アイオス……ああ、そうだな。ごめん二人とも。もう大丈夫だ」
アイオスの言葉を聴いてサヴェロは顔を上げ空を仰いだ。どこまでも広がる青い大空を見ながらサヴェロは決意する。
「俺強くなるよ。あんな奴らが何人来たって負けないくらい。それに……」
サヴェロは視線を落とし、座っているメリダを見る。
「俺には力強い仲間がいるんだから。怖いもんなんてない」
そう言われたメリダはサヴェロの顔を見上げ「うん」と頷き、抱きしめていた『虚球』を手放した。
サヴェロ、メリダ、アイオスを乗せた脱出艇はしばらく川に流されサヴェロ達が上陸した街へと向かっていった。
街の近くまで流されてきたサヴェロ一行は、できるだけ人目のつかない場所で脱出艇を降りた。
「ねぇこれから私達はミルーアって所に行くんでしょ? どうやって行くの?」
よろよろとした足取りで脱出艇から降りたメリダは先に降りていたサヴェロにこれからの事を尋ねる。
「そうだな。ミルーアは島国だから陸路じゃ行けないから、船で海を渡るか、飛行船で空から行くかだな。でも、このまま最初の街に戻るのは帝国兵達がいて危険だろうから、ここはまずリーピンを北上して別の港町から海路で行こうと思う」
『そうですね。少し時間をかけても安全な方が良いでしょう。私はマスターの意見に賛成です』
「んじゃ、私も賛成!」
サヴェロは「んじゃ」って何だよ。と、思いつつも、全員の賛成を得られたサヴェロは、今述べた通り、リーピンを北上して別の港町を探す事となった。
早速、一行は街には戻らず、北に向けて歩み始めた。
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