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「ガァァアアァァ!」
雄たけびと共に、鋭い爪を剝き出しにし、地面に突き立てられたアイオスに襲い掛かる怪物達。しかし、その刀身に触れる直前に見えない壁に阻まれ、後方に吹き飛ばされる。
アイオスはメリダが立ち去った後、自身と扉の周辺に衝撃波の壁を作り出し、怪物達の進行を食い止めていた。
『全部で十五体ですか。意外と多いですね』
扉を塞ぎ止めているアイオスだが、最初の怪物達との戦闘、サヴェロの身体に乗り移ってのデールとの戦闘、それに加えて、遺跡に入ってから常に能力を行使し続け索敵や探索を行っていた事により、アイオスの中のウィスは底をつきかけていた。
もう限界は近い。この間にメリダ達は逃げおおせたのだろうか。その事だけが気がかりでならなかった。能力の全てを扉の防衛に集中させているせいで、超音波でのメリダの動向は探る事が出来ない。その為、一分でも一秒でも、この場を守り切る事がアイオスにとって最後の使命であった。
「グガァアァア!」
だが、怪物達は攻めを緩めない。多少吹き飛ばされた程度ではその戦意を削ぐ事は出来ず、何度もアイオスにその鋭利な爪を向けた。
攻撃を受ける度に、衝撃波の壁を張っては追い返すが、徐々にその威力と範囲が減衰していく。
(後一分持つかも怪しい。でも、最後の最後まで気を抜いてはならない)
アイオスが最後の力を振り絞ろうと気合を入れようとした……その時だった。
『後方から強力なウィス反応。これは――』
アイオスの能力を使うまでもなく、感じ取ったとてつもないウィスの波動。それはアイオスがよく知るウィスだった。だからこそ、アイオスは動揺した。そのウィスの波動がこちらに近付いて来ている事に。
しかし、その反応は扉の向こう側、十数メートル程の位置でピタリと止まる。が、次の瞬間――
「いっけぇー!」
少女の咆哮と共に、扉の向こう側から眩く白い閃光が奔り抜け、扉もろとも吹き飛ばした。そして、それだけに留まらず、その閃光はアイオスの上を通り過ぎると、群れていた怪物達数体を粉々に吹き飛ばした。
『なっ……』
アイオスは絶句した。埃が舞う、その吹き飛ばされた扉の向こう側にいたのは、自分が逃がしたはずのメリダの姿があった。よく見ると、メリダはライフルの様な長物を両手で抱えるように持っている。
そして、それだけではない。メリダの頭上には直径二十センチメートル程の白く淡い光を放つ球体が、フワフワと浮いていた。
『ど、どうして戻ってきたのですかメリダ様』
普段は冷静な声で話すアイオスだが、さすがにこの時だけは語気を強めて言った。
「どうして戻って来たかだって? そんなの決まってるでしょ……」
メリダは一旦そこで言葉を区切ると、スゥーっと大きく息を吸い込んだ。そして――
「アイオスを連れ戻しに来たのよ!」
ビリビリと遺跡全体に響き渡るくらいの大声でメリダは叫んだ。これには思わず、アイオスだけでなくその後ろにいた怪物達もギョッとする。
「私は頭にきてるんだよ」
そう言うと、メリダの持っていたライフルがパラパラと細かな光の粒子になって分解されていき、その光の粒子はメリダの頭上でフワフワと浮いている球体の中に吸い込まれていってしまった。
「アイオスが犠牲になってここに残った事にじゃない」
メリダの大声で一瞬怯んでいた怪物達だが、メリダを敵と認識すると、メリダめがけて走り出した。
『しまっ……』
一瞬の隙を突かれ、アイオスは二体の怪物達を通してしまう。衝撃波を放って怪物達を足止めしようとするが、既に足止めが出来る威力を出すほどのウィスは残っていなかった。
『お逃げください! メリダ様!』
アイオスが叫ぶより速く、怪物はメリダに飛び掛かった。メリダは動かず回避行動も取ろうとしない。だが――
「私が怒ってるのは……」
今度はいつの間にかメリダメリダの両手に二挺の拳銃が握られていた。
「私自身の弱さにだ!」
メリダはその拳銃を襲い掛かる怪物に向ける。拳銃はメリダの手にピッタリとフィットする程度の大きさであった。その見た目からは大した威力はないと感じ取ったのか、怪物達は躊躇なく突き進む。
メリダは襲い掛かる怪物達に照準を合わせ、引き金を引く。その瞬間、メリダの持つ拳銃から射出された弾が怪物の胴体を貫き、大きな風穴を空けた。
メリダの反撃を受けた怪物達は二、三歩よろよろと後退ると、その場に崩れ落ち、絶命した。
想像以上のメリダの攻撃に、その場がシンと静まり返る。
「私はもう逃げない」
アイオスも怪物達も唖然とする中、メリダが口を開く。己の決意を確固たるものにする為に、声を大にして宣言した。
「私も一緒に戦う! もう誰も犠牲になんかさせない!」
『メリダ様……』
メリダはグッと前のめりになると、そのまま怪物達に向かって駆け出した。
『虚球』――メリダが武器庫の中から選んだ球状の兵装である。これは各種様々な兵器をこの球体の中に分解して収納する事ができ、好きな時に素早く取り出す事も出来る。この球体の中は圧縮空間になっており、使用者のウィスの量に比例して広くなる。本来、この兵装は複数の兵士達がそれぞれウィスを出し合って共有し、多くの武器や弾薬を戦場に持ち込む事を想定して造られた。その為、一人のウィスの量では大した広さの空間は維持できないのだが、桁外れのウィスを有するメリダは一人でそれを維持していた。
「怖くない怖くない怖くない……」
小さな声で、自分にそう言い聞かせるメリダ。武器を持って戦闘を行うこと自体が初めての経験である為、メリダの手足はブルブルと小刻みに震えていた。それでも、サヴェロとアイオスを守るという強い意志で、震えを無理矢理抑え込んだ。
「私は強い!」
メリダは拳銃の有効射程距離に飛び込むと、銃口を怪物達に向け、発砲した。銃口から放たれた弾丸は怪物達の胴体を軽々と貫通し、次々と怪物達を倒していく。
このメリダの持つ二挺の拳銃もウィスを利用して戦う兵器であり、持ち主のウィスを弾丸に換えて射出する。故に、持ち主のウィスが大きければ大きい程威力が上がっていく。
膨大な量のウィスを持つメリダは残弾数を気にする事なく拳銃を撃ちまくる。だが、怪物達もこのままやられっぱなしではなかった。
仲間がやられた瞬間を見ていた怪物達はメリダの持つ武器は危険と判断し、それ相応の戦い方に変更した。
怪物達は的を絞らせないようジグザグに動き回る。それによって、メリダが狙いをつけて発砲してもことごとく避けられてしまう。
そして、怪物達はメリダの攻撃を躱しつつも、着実に間合いを詰める。己の武器である鋭利な爪が確実に当たるその距離まで。
「それなら――」
再びメリダの頭上に浮かぶ『虚球』から光の粒子が流れてくると、今度はメリダの足に光の粒子が集まり、蓮の葉を模した靴を形成する。すると、その靴を履いた途端、メリダは地面を滑るようにして高速で移動し始めた。
メリダが『虚球』から取り出したのは地面との摩擦をほぼゼロにし、滑るように高速移動する為の兵装『睡蓮』。この兵装を装備したメリダは地面を自由自在に動き回り、メリダを攪乱しようとしていた怪物達を逆に翻弄し始めた。
『睡蓮』はバランスを自動制御する事が出来る為、使用者がどんな無理な体勢になろうとも絶対に転倒する事はない。これを利用し、メリダは地面スレスレまで身体を倒し、あらぬ角度からトリッキーな攻撃を仕掛ける。
時には低い場所からの射撃、時には円を描くように回り込んでの射撃など、多種多様な攻撃に怪物達は次々に撃ち倒されていき、ついには最後の一体になる。しかし、最後に残った怪物は玉砕覚悟の特攻に打って出た。
真正面から突っ込んでくる怪物にありったけのウィスの弾丸を放つ。弾丸が腕や脇腹を抉るも、怪物は突進を止めず、牙を剥き出しにしてメリダに飛び掛かった。
噛みつかれれば当然助からない。だが、メリダはそれを躱そうとはしなかった。むしろ、自ら右腕を差し出すメリダ。怪物は反射的に差し出されたメリダの右腕に噛み付く。その強靭な顎ならば、メリダの細腕などいとも簡単に噛み千切るだろう。
しかし、噛み付いた怪物の牙はメリダの柔肌を貫く事が出来なかった。見えない膜のような物が邪魔をして、文字通り全く歯が立たない。メリダはその瞬間を見逃さず、
「これなら外さない」
メリダは噛み付いてきた怪物の頭に銃口を突き付け、躊躇をせず引き金を引いた。発射されたウィスの弾丸が怪物の頭を吹き飛ばし怪物はそのまま仰向けに倒れた。
メリダは最後に倒した怪物を一瞥すると、辺りを見回し、もう敵がいないことを確認する。
「よし、終り。さあ、アイオス行くよ」
メリダは二挺の拳銃を『虚球』にしまうと、地面に突き刺さっていたアイオスを引き抜いた。
『メリダ様……』
「覚悟は決めたよ」
アイオスが何かを言おうとしたが、被せるようにメリダがそれを遮り、言う。
「さっきも言ったけど、私も戦う。微力でも二人の力になりたいの」
そう言って、メリダはアイオスの方を向くと、
「だって、あなた達二人は私の大切な仲間だから」
ニッと笑いそう続けて言った。
『メリダ様……わかりました。貴女の覚悟確かに受け止めました。今後ともよろしくお願いします』
メリダは「うん」と頷くと、サヴェロを置いてきた脱出口に向けて歩み始めた。
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