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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第一章
22/48

1-17

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 床を破壊し、その穴に飛び込んだメリダとアイオス(サヴェロ)は何メートルも落下すると、水深数メートルはあろうかという水溜りにザバァンと着水した。


「ぷはぁっ! え? 水溜まり? どうしてこんな所に?」


 水に落ちたメリダはすぐに水面に顔を出すと辺りを見渡した。この落ちて来た場所もかなり広く、一帯が水浸しになっていた。ここも視界がゼロではなく、十数メートル先に足場が見えた。


「そうだ! アイオス! あっ、いやサヴェロ? ああ、もうどっちでもいいや! どこ? どこにいるの⁉」


 一緒に落ちて来たアイオスとサヴェロを捜す為、大声で名前を叫ぶ。メリダの声が反響する中『こちらですメリダ様』というアイオスの声がメリダの右から聞こえて来た。メリダの声のする方に目をやると、そこに仰向けで水面に浮かぶサヴェロの姿があった。


「サヴェロ!」


 サヴェロの姿を確認したメリダは泳いでサヴェロのもとに移動する。


「サヴェロ! しっかりして! サヴェロ!」


『申し訳ありませんメリダ様。訳あってこれ以上私がマスターの身体にいられない為、剣の方に戻りました』


 サヴェロに意識はなかったが、右手にしっかり握られた剣からアイオスの声が聞こえてきた。意識を失っているサヴェロをこのままにしておく訳にもいかないので、メリダはサヴェロの左腕を掴み、ゆっくりと足場に向けて泳ぎ出す。


 メリダはサヴェロを引っ張って十数メートルの距離を泳ぎ切ると、意識のないサヴェロを岸に引っ張り上げ、その場にペタンと座り込んだ。


「ふぅ~ちょっと疲れた」


『ありがとうございます。メリダ様』


 メリダは大きく深呼吸をして息を整えた。そして、落ち着いたところで、アイオスの方を向いて話しかける。


「こちらこそありがとうアイオス。私を……ううん、サヴェロの事を助けてくれて」


 笑顔で礼を言うメリダだが、アイオスは沈黙してしまい何も言葉を発さなかった。


「どうしたの? アイオス。どこか調子悪いの?」


『……申し訳ありませんメリダ様』


「何でアイオスが謝るの?」


『先程の戦闘、私はマスターを一度死なせてしまいました。あの時、無理にでもマスターを止めてこの逃走経路をお教えしていればこんな事にはなりませんでした。そればかりか、メリダ様も危険な目に遭わせてしまっています』


「何言ってんの? アイオスがいたからサヴェロは死ななかったし。私だってこうして連れ去られずに済んでる。全部アイオスのおかげだよ」


『ですが……』


「ですがもへったくれもないの! もうこれ以上自分を責めるのは禁止します。これは命令ね」


 アイオスに有無を言わさず自分の命令を聴かせる。アイオスは少し沈黙した後『了解しました』と言った。


「よろしい。それじゃあちょっと休憩。泳いだだけじゃなくって、さっきのやり取りも含めて疲れちゃった」


 メリダはコテンと仰向けに寝そべる。


「ところでさ、ここって何なの? 辺り一面水浸しだけど」


 メリダは寝転がりながらアイオスに訊ねる。


『ここは兵器を試し撃ちする為の地下空間です。ですが、長い時間放置されていた事もあり、壁や床の一部が劣化して地下水が流れ込んできてしまっているようです。ここに水がある事はわかっていましたので、落下しても無事に逃走出来ると判断しました』


「ああ、なるほどね。でもさ、もし追って来られたらどうするの? さっきの奴って電気を使うんでしょ? こんなに水があったら感電しちゃうじゃん」


『いえ、むしろ追って来てもらった方が好都合でした』


 そう答えるアイオスにメリダは「何で?」と首を傾げる。


『私の波の能力は空気よりも密度の高い水中でこそ真価を発揮します。仮に先程の敵が追って来ても、相手に能力を使われる前に倒せたでしょう』


 そんな事まで考えてたんだなぁと感心するメリダ。と、そこでガバッと上体を起こす。


「そうそう、アイオスって他人の身体に乗り移れるんだね。しかも滅茶苦茶強いし。でも、さっきはこのままサヴェロの身体にいれないみたいな事言ってたけど、どういう意味?」


『それはあれ以上マスターの身体に居続ければ、それこそ、本当にマスターを死なせてしまうからです』


 メリダはアイオスの言っている事の意味がますますわからなくなり、難しい顔になる。


『身体の中のウィスが流れる所を経路(カーサス)というのですが、私のウィスの量はマスターよりも多いので、マスターのウィスの容量を超えるウィスを流し続けると、マスターの経路を傷付けてしまいます。最悪、亡くなる危険性もあるのでこれ以上マスターの身体をお借りする事が出来ませんでした』


「そっか、それじゃあもうサヴェロの身体を借りるのは止めた方がいいね」


 アイオスは『そうですね』と答える。


「あー、そうなるとサヴェロが目を覚ますまでここを動けないか」


 メリダは改めて、この広い地下空間を見渡す。今自分達がいる浸水していない部分の先には、うっすらと扉の様なものが見えていた。


『いえ、メリダ様。そう悠長にはいられないようです』


「何? どうしたの?」


 少しゆっくりしようと気を抜いていたメリダにアイオスが突然警告する。


『我々がここに落ちてきた時に大きな音をたててしまったせいで、例の化け物達がこの場所に集まってきています』


「え⁉ 本当に⁉ まずいじゃん。早くここから離れなきゃ」


 メリダは急いで立ち上がると、上着を脱いだ。そして、サヴェロの上半身を起こしたメリダは背を向けて屈み、サヴェロをおぶった。その時、サヴェロ身体が落ちないように脱いだ上着を自分とサヴェロの身体に巻き付ける。


『大丈夫ですか? メリダ様』


「これくらい大丈夫だよ。私ってこう見えてもけっこう体力あるんだから」


 メリダはアイオスを腰に差すと、出口であろう扉に向かって歩き出した。


 意識の無いサヴェロを背負って、ゆっくりとだが確実に一歩一歩進んで行くメリダ。体力に自信があるとはいえ、意識の無い人間を背負って歩くのは、やはり苦しいものがあった。


ハァハァと辛そうに息をするメリダに『少し休憩をしますか?』と尋ねるが、


「ううん。まだいけるから大丈夫。それよりも、アイオスは出口までのナビゲートをお願いね」


 と気丈に振る舞うメリダ。それに対し『……了解しました』とアイオスは答える。


 物資の搬入などを行っていたのか、この遺跡に入って来た時の通路より広い通路をメリダは進んで行く。


『このまま真っ直ぐ進んでください。そして、突き当りを右に曲がってください』


「オッケー」


 アイオスの道案内通りに進み、順調に出口へと向かっていた時だった。


『メリダ様。大変な事になりました。怪物達がこちらに向かってきています』


「え! 嘘でしょ⁉」


 メリダは自分が歩いてきた道を振り返った。灯りがあるとはいえ、薄暗い通路は見通しが悪く、遠くの方は確認できない。


『まだ視認できる距離にはいませんが、確実にこちらに向かってきています』


「も~しつこいなぁ」


 メリダは歩く速度を速めた。あの怪物達に追い付かれてしまったら自分だけでなくサヴェロまで死んでしまう。仮に、アイオスを使って守りに入っても、一時的には防げるだろうが、どれだけの数がいるかわからない。次々に来られたらメリダの体力が持たないだろう。


 メリダは息を切らしながらも必死に地上を目指し進む。すると、大きな扉の前に行きついた。頑丈そうな両開きの扉を前にするメリダ。


「何か開きそうにないっぽいけど、どうするの?」


『大丈夫です。先程、コンピュータで調べている時に、この施設のセキュリティの事も調べておきました。ですので、今から言うパスワードをその扉の横にあるタッチパネルに入力してください』


 アイオスのそう言われ、扉の横に目をやると、タッチパネルが備え付けられていた。メリダは一度サヴェロを降ろすと、タッチパネルに触れる。すると、1から9までの数字が浮かび上がる。メリダがアイオスに言われた通りの番号を入力した瞬間、ピーという甲高い音が鳴るとともに扉のロックが解除された。


「よし進もう」


 メリダは再び気を失っているサヴェロを背負い、先に進もうとした時だった。


『申し訳ありませんメリダ様。私を扉の前の床に突き刺してから、扉の向こう側へ向かってもらってもよろしいでしょうか』


「? 別にいいけど、どうしてそんな事するの?」


 アイオスの突然の申し出に、メリダは訳がわからず困惑する。


『はい。後ろから来る怪物達を足止めする為に、メリダ様には扉の向こう側でしていただきたい事があります』


「ああ、そういう事。わかった」


 メリダは言われた通り、腰に帯びていたアイオスを床に突き刺すと、開いた扉を通り向こう側へと移動する。そして、何をすればいいのかアイオスの指示を仰ごうと振り向いた時だった。


 急に、扉が閉まりアイオスと分断されてしまった。


「え⁉ 嘘! 扉閉まっちゃったよ! アイオス! これどうすればいいの⁉」


 自動的に閉まってしまった扉を叩き、向こう側に置いてきたアイオスに声をかけるメリダ。しかし、アイオスの返事は聞こえない。


「ねぇ! アイオス! 聞こえないの⁉ これどうやったら開けられるの⁉」


 メリダは必死に大声で叫びながら扉を叩く。すると、扉の向こう側からいつも通りの冷静で落ち着いた声が聞こえてきた。


『これで良いのです。メリダ様』


「は? えっ、何言ってんの……」


『この扉は閉まったのではありません。私が閉じたのです』


 いつもと変わらない声で、淀みなく、アイオスはそう話す。しかし、メリダはアイオスの言っている事が理解できず言葉が出てこない。いや、どうしてアイオスがこのような行動をとったのか大方予想は出来たが、それを理解したくはなかった。


「な、何訳わかんない事言ってんの! ふざけてないで早くこの扉を開けて!」


 より強く扉を叩き、大声を出すメリダだが、アイオスはそれにかまわず、冷静な声で話を続けた。


『この扉の開閉システムに電磁波を飛ばして干渉し、扉を閉鎖しました。もうこの扉は開きません』


「どうしてっ! どうしてこんな事をするの!」


『このままでは、後ろから迫り来る怪物達に追い付かれてしまいます。そこで、この扉を閉じ、逃げる時間を稼ぐ事にしました』


「だったら、アイオスもこっち側に来てから閉じればいいじゃない!」


『それでは駄目です。後ろから来る怪物達の力ならこの扉を破壊するのにあまり時間はかからないでしょう。そこで、私がもう一つの壁となり更に時間を稼ぎます。そうする事で、マスターを背負ったメリダ様でも逃げ切る事が可能です』


「でもっ、でも……」


 ダンダンと扉を叩くメリダ。その頬には一筋の涙が流れていた。


『さあ、早くお行きください。ここに残られては何の為の時間稼ぎかわからなくなってしまいます』


 メリダは扉を叩く事を止め、ギュッとこぶしを握り締めた。歯を食いしばるメリダの目からはボロボロと大量の涙が溢れ出していた。


『このまま進めば、地下水脈を利用した非常用脱出通路があります。そこまで行けば怪物達も追っては来れません。さあ、早く』


 メリダは下唇を噛んだ。血が滴り落ちる程強く噛むが、今のメリダにそんな痛みは感じなかった。メリダはアイオスの覚悟を、気持ちを汲み取ったのか、方向転換すると脱出口のある方へと歩き出した。


 少しずつ遠ざかっていくメリダ達を確認すると、アイオスは安堵した。『これで良かった』と。


『ここで私の命が尽き果てようとも、マスターがいてくださる。後は頼みましたよマスター』


 そして、アイオスは安堵した気持ちを引き締める


『メリダ様の命を狙う者は何人たりともここを通しません』


 暗闇低い唸り声と共に現れた人とも獣とも取れない怪物達を前に、アイオスは覚悟を決めた。

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