1-15
二人が来た道を戻っていると、途中で開けた場所に出た。特に何がある訳でもないただの広場。この施設が稼働していた当時は、休憩所として使われていたのだろう。ベンチの様なものや、自販機とおぼしき機械が散乱していた。
先程、ここを通った際は特に調べる事はないとアイオスが言った為、スルーした場所だったが、
『お待ちください』
と、アイオスが二人を制止した。サヴェロとメリダはアイオスの言う通り、足を止めるとアイオスの方を見る。
「どうした? アイオス。今度は何か見つけたか?」
往路で見つからなかった何かを見つけたかのかと思い、サヴェロはアイオスにそう訊いてみたが、その答えはサヴェロが期待する様なものではなかった。
『いえ、この先の通路から誰かが来ます』
そうアイオスが言った途端、サヴェロは腰に帯びていたアイオスを引き抜き、構えた。
「また、あの化け物か?」
『……違います。どうやら人間の様です。数は五人。やや速い歩行速度でこちらに近付いてきます』
アイオスの報告を聴いて、サヴェロは何故ここに人間が? と疑問に思った瞬間、嫌な予感が頭を過った。
怪物の出る遺跡に地元住民達は近寄らない。ならこんな危険な所にやって来るような、仮に怪物達と遭遇してもそれに対応するだけの力を持っている連中は――サヴェロが「まさか」と口にした時、サヴェロ達が歩んできた通路から姿を現したのは、顔の半分を女性の様な長い黒髪で覆い隠し、黒いロングコート着込んだ長身痩躯の男と、その男を囲うようにする屈強な男達四人の姿だった。
「ん? こいつらが例のターゲットか?」
広場に入ってきた長身痩躯の男デールは地上に戻ろうとしていたサヴェロとメリダを視認すると、部下にそう尋ねた。
「間違いありません。正確にはターゲットになっているのは女の方だけですが」
自分達を発見し、話を始めた五人の男達を見て、サヴェロは理解した。こいつらは帝国兵だと。その瞬間、サヴェロはメリダの前に出て、入って来た男達――帝国兵に刃を向けた。
「メリダ、下がってろ。こいつら帝国兵だ」
そう言われたメリダはビクッと体を震わせると、サヴェロに言われた通り、一歩後ずさる
。
そんなサヴェロ達の行動を見ていたデールはめんどくさそうな感じで口を開いた。
「俺達の事を帝国兵だとわかっているなら話は早い。単刀直入に言う。その女をこちらに引き渡せ」
「そんなの断るに決まってんだろ。寝ぼけた事ぬかすな」
そんな風に即答するサヴェロを見てデールは頭を抱えて「ふぅ」と大きなため息を吐いた。
「あんまり俺をてこずらせるな。その女を大人しく引き渡せばお前に危害は加えない。だから早くしろ」
デールは重ねてサヴェロにそう告げるが、最早サヴェロはその言葉に耳を貸すことはなく、切っ先を向けて帝国兵達を睨みつけるだけであった。
もう埒が明かないと判断したデールは短く「やれ」と部下に命令を出した。命令を受けた部下四人は一歩前に出て戦闘態勢に入る。
サヴェロも前に出てきた四人を見て気を引き締めるが、一つ疑問に思う事があった。
(こいつら銃器を持っていない?)
サヴェロの前に立ちはだかる四人の男は銃器の類を所持していない。装備しているのは軍用の大型ナイフだけであった。この事からサヴェロは一つの結論に辿り着く。
(こいつらまさか……)
『マスターお気を付けください。彼らは皆、ウィスを使います』
アイオスはサヴェロに注意するよう促した。目の前の男達がウィスを使うという事にはサヴェロも気が付いていた。だが、こうしてウィスを使用する者と対峙するのは初めての経験だった。どう仕掛けてくるのか、どう対応したらいいのか、考えを巡らせるサヴェロであったが、
『マスター難しく考える必要はありません。先程怪物と戦ったように、マスターの力を出せれば負ける事はありません』
と、アイオスはごちゃごちゃと思案するサヴェロに、冷静に語りかけた。
「アイオス……」
『マスターは強いです。自分の力を信じてください。それに、私もいます』
そう言われ、サヴェロはウィスを使うであろう帝国兵四人を目の前にしながらも一旦眼を瞑り、大きく深呼吸をした。敵を前にして眼を瞑るという行為は死に等しい。だが、それでもサヴェロは負ける気が一切しなかった。そして、ゆっくり目を開けると、目の前にいる四人の男達を見据え、「行くぞ」と宣言した。
宣言通り、サヴェロは一直線に男達の所へ飛び込んだ。人外の速度で疾駆するサヴェロだが、四人の帝国兵はそれに反応する。
一人の帝国兵が飛び込んできたサヴェロを持っていた軍用ナイフで迎撃する。サヴェロはそれをアイオスで受けるが、その隙に、左右から他の帝国兵がナイフで切りかかった。
攻撃を受ける寸前、サヴェロは六つの水の珠を展開し、振り下ろされるナイフをそれで弾く。攻撃を弾かれ思わずよろける帝国兵だったが、サヴェロはあえて追撃はせずに、一旦飛び引いた。攻撃に移ってもよかったが、死角にいた最後の一人の動きが読みにくかった為、深追いを避けた。それともう一つ、この四人の帝国兵の上官であろうロングコートの男デールの動向を意識していたのもあった。
『マスター奥にいるロングコートの男は気にしなくていいでしょう。どうやら攻めてくるつもりは無いようです。仮に戦闘に参加してくるようならば私が警戒していますので、マスターは目の前の四人に気を配って下さい』
アイオスのアドバイスに「わかった」と頷くサヴェロ。だが、今度は帝国兵の方から攻撃を仕掛けてきた。この四人の動きもウィスで身体能力を強化しているのか、先程戦った怪物達よりも速かった。
襲い掛かる四人を迎撃しようと、水の珠が高速で放たれるが、これを帝国兵はナイフを振って弾き返し、サヴェロの懐に飛び込む。
それでも、サヴェロは怯む事なく、その動きに反応する。「瞬神」により反応速度を大幅に上昇させたサヴェロに、この程度の速さは問題ではなかった。
さすがに、この攻撃は「鎧皮」で防ぎきれないと判断したサヴェロはアイオスで受ける。そして、それだけに留まらず、アイオスの刃を超振動させ、軍用ナイフを切断した。
「なっ!」
サヴェロはアイオスを切り返すと、今度は刀身に衝撃波を纏わせ驚愕の声を上げる帝国兵の脇腹に叩きこんだ。メキメキと肋骨が折れる音と共に、後方に吹っ飛び後ろから来ていた仲間の帝国兵にぶつかった。
それだけでは終わらず、さらに一歩踏み込むと、アイオスを大きく振りかぶり横にいたもう一人の帝国兵に切りかかった。
帝国兵はナイフでサヴェロの攻撃を受けようとするが、今度の攻撃はファーストコンタクトの時とは違い、「鬼理」で力を増幅させた渾身の一振りであった。その一振りは簡単にナイフをへし折ると、帝国兵の左鎖骨を軽々と砕いた。
ウィスを使うとは聴いていたが、予想以上の戦闘力を見せつけられ、動揺した帝国兵は一度距離を取ろうと、後ろに飛ぶ。
「逃がすかァ!」
サヴェロは飛び引いた帝国兵に向かってアイオスを切り上げる。が当然届かない。届かない距離で剣を振って何をしているのかと疑問に思う帝国兵にアイオスの刀身から放たれた衝撃波が襲い掛かる。自分が後ろに飛んだ勢いも相まって、思い切り吹き飛ばされ壁に激突した。
一瞬のうちに部下三人が戦闘不能にされたデールであったが、眉一つ動かさず「ほう」とどこか感心するような声を出した。
「本当にやるなお前。まさかここまでとは思ってなかった」
デールは表情を変えず、やられて蹲る部下達を見下ろす。
「も、申し訳ありませんデール様。あのガキ相当な使い手です」
部下の一人が鎖骨を折られ動かなくなった左腕を抑えながら言うが、デールの耳には入っていない。
デールは一歩前に出ると、改めてサヴェロと対峙した。
「小僧、お前の強さはよくわかった。だからこそもう一度言うぞ。大人しく後ろの女を引き渡せ。そうすれば、お前のこの行為は不問にしてやる」
「何度だって言ってやる。お前達にメリダを渡すつもりはない」
キッと睨みつけるサヴェロに対して、デールはまたも大きなため息を吐くと、
「わかった。俺が相手だ」
と、宣言しながらサヴェロに視線を向けた。その瞬間、サヴェロの背筋に悪寒が走った。今まで感じた事のない圧力。その強烈な圧力にサヴェロの手は無意識のうちに震えていた。
今戦っていたウィスを使う帝国兵も弱かった訳ではない。サヴェロの本来の力とアイオスの力が加わり撃退できた。だが、今目の前にいるロングコート男はそんなレベルではなかった。刃を交えずともわかる。さっきの四人とは比べ物にならない力の差をサヴェロは感じ取っていた。それはサヴェロだけでなくアイオスも理解している。
『マスター目の前にいるロングコートの男は危険です。ここは一時撤退する事を推奨します』
そう警告するアイオスだが、サヴェロはアイオスを構えたまま動こうとしない。
「そんな事はわかってるよアイオス。わかってるからこそ退けないんだ。ここで、俺が退いたところで、目の前のアイツからは逃げられない」
サヴェロはデールを見据え、アイオスを握りなおす。
「だったら、やるしかないだろ」
『マスター……』
そう言い放つと、震える手を無理矢理抑えて、戦う覚悟を決めた。
「力量差を感じ取る力はあるくせに、退くことを知らないとは……ああ、そうだ、無駄になるだろうが一応名乗っておこう。俺はリモローク帝国軍インペリアルフォース所属ダッカ=デールという。忘れてもらっても結構だ。どうせお前は死ぬからな」
デールは長い髪の毛を一纏めにし、結ぶ。前髪で隠れていた貌を現したデールはその両眼でサヴェロを捉えた。
戦闘態勢に入ったという事はすぐにわかった。さっきまでとは桁違いの圧力を感じ取ったサヴェロは気圧されぬよう両足で踏ん張る。いつ攻撃が来てもすぐに反応できるよう全神経を目の前のデールに集中させた。
両者の距離は約八メートル。例え、拳銃を抜かれ発砲されても、サヴェロにとっては十分対応できる距離であった。
少しずつ間合いを詰めてくるのか、はたまた飛び道具で攻撃を仕掛けてくるのか、相手がどう来るか思考を巡らせるサヴェロであったが、その瞬間はすぐに訪れた。
パチッと、デールの右手から青白い火花が散った。そのほんの一瞬、サヴェロがその火花に意識を移した瞬間――
「なっ」
デールはサヴェロの目の前に移動していた。まるで瞬間移動したかのように突然現れたデールだったが、サヴェロはすぐさま反応しアイオスを振り、切りつけようとする。
だが、その前にデールはそっと左手をサヴェロの胸の前に置くと、その掌から眩いばかりの青白い閃光が放たれた。
遅れてパァンという爆音が部屋全体に響き渡ると同時に、サヴェロは後方に吹き飛ばされ仰向けに倒れた。
一秒にも満たない一瞬の出来事に、その場にいた全員が動く事さえ出来ず、サヴェロが倒れて数秒経ってから、「サヴェロ!」と、メリダが絶叫した。
デールは倒れて動かなくなったサヴェロをつまらなそうに見下ろすが、その時、突き出していた左腕に違和感を覚えた。
「ほう」
デールは左腕を引き戻し確認すると、袖が切り裂かれ左腕から血が滴り落ちていた。
「俺の「瞬雷」に反応できる奴が陛下とインペリアルフォースの連中以外にいるとはな」
デールは仰向けに倒れ、ピクリとも動かなくなったサヴェロを見つめそう呟いた。
「もしお前が帝国軍にいたなら、インペリアルフォースに入る事も出来ただろう」
デールは何事もなかったかのように倒れたサヴェロの横を通り過ぎ、ゆっくりとした歩調でメリダの所へと移動していった。
一方、メリダはサヴェロが倒れ、動かなくってしまった姿を見て、へたりこみ呆然としている。
一歩ずつ近付いてくるデール。だが、メリダは逃げるどころか立つことさえ出来ない。そんな状況で、ただ一人現状を冷静に分析する者がいた。
『マスターの全身のスキャニングを開始。心停止を確認。胸骨の損傷無し。胸部表皮に軽度の火傷を確認。その他異常無し。これより心肺蘇生を開始します』
アイオスの柄の部分から、そこを掴んでいるサヴェロの手を通して、サヴェロの心臓へ衝撃波が放たれる。すると、サヴェロの胸がドンッと跳ねると同時にサヴェロの心臓が動き出し、息を吹き返した。
『脈拍を確認。蘇生成功』
アイオスの心肺蘇生のお陰で止まっていたサヴェロの心臓は動き出し、一命をとりとめたが、意識までは回復しなかった。
幸い、サヴェロが息を吹き返した事はデールをはじめ、帝国兵には気付かれていないが、このままではメリダが連れ去られてしまう。この危機的状況にアイオスが取った行動は――
『申し訳ありませんマスター。少しの間、身体をお借りします』
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