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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第一章
17/48

1-12

 サヴェロとメリダが足を踏み入れたのは先程、隠し階段があった何倍もの広さがある空間であった。高い天井と数十メートル四方の広大な空間には四角い箱のようなモノが山積みにされていた。今まで通って来た通路同様、視界がゼロでないものの薄暗く静かであった。


 サヴェロとメリダは辺りを軽く見渡した後、歩を進める。二人の間に先刻までの会話は無く、不気味なほど静まり返った広い空間を横切って行く。


 ほんの少し移動して、この空間の中程まで来た所で二人はピタリと足を止めた。――その先にナニカが居たからだ。


 「ウウウッ」という唸り声と共に四角い箱の影から漆黒の体毛に覆われた二足歩行をする狼の様な怪物が姿を現した。下半身は人間の足に濃い体毛を生やし、上半身はそのまま狼の身体になっている。身体はサヴェロの二回りほど大きく、腕の関節は人間に近いものの、その手には鋭利で大きな爪が備わっていた。


それも一匹や二匹ではない。サヴェロとメリダを取り囲む様に辺りにあった四角い箱の影から数体の狼の様な怪物が出現した。


「こ、これが化け物?」


 メリダはサヴェロの背中にしがみ付いた。一方サヴェロは現れた怪物達を一通り見渡すと、


「これならアイオス無しでもいけそうだ。それじゃあ作戦通りメリダの事は任せたよアイオス」


『了解しました。ご武運をマスター』


 サヴェロはメリダから離れ、数歩前に出る。すると、その動きに反応した怪物達がサヴェロににじり寄ってきた。


「やる気なんだろ? 俺が相手だ。かかってこい」


 サヴェロがそう言い放った時だった。言葉を理解しているのかわからないが、その挑発に反応するように、一体の狼の怪物がサヴェロに襲い掛かってきた。


 人間の運動能力を遥かに超えるその動きは常人の眼では追いきれない。例え銃器を所持していようとも対応は難しいだろう。しかし、サヴェロはその鋭い爪で襲い掛かる怪物の攻撃を身を捩るだけで躱すと、隙だらけになったその胴体に鋭い蹴りを叩きこんだ。


「ガアァ!」


 蹴られた怪物は数メートル吹っ飛ばされると、辺りに置かれていたコンテナの様な四角い箱に叩きつけられ動かなくなった。


 それを見た他の怪物達は、一旦サヴェロとの距離を取り様子見に徹した。


「おっ、何だこいつら。意外に冷静だな。少なからず知能があるのか」


 サヴェロも自ら攻撃を仕掛けることはせず、待ちの構えを取る。


 一瞬の出来事であった怪物とサヴェロの攻防を見ていたメリダであったが、何が起こったかわからずポカンと口を開けていた。


 サヴェロに攻撃を仕掛けるのは得策ではないと判断したのか、一体の怪物が後ろからメリダに襲い掛かった。


「え?」


 後ろからの違和感を察したメリダが振り向くと、爪を大きく振りかぶる怪物の姿があった。メリダは何もする事が出来ず、目をギュッと瞑る。そして、怪物は振りかぶった爪をメリダめがけて振り下ろした。――が、その鋭利な爪はメリダに届く事はなかった。


 何も起こらない事を不思議に思ったメリダは恐る恐る目を開ける。するとそこには自分の顔の数センチメートル手前で鋭い爪が止まっていた。メリダの周りには目に見えない壁のような物があり、怪物は全体重を乗せそれを貫こうとするが、メリダには届かない。


「おわっ! え? 何で?」


 目の前で起きている現象に戸惑うメリダにアイオスが、


『メリダ様。その怪物を手で押してみてください』と進言する。


 どういう意味かわからないが、メリダは見えない壁に意識が向かい、隙だらけになっている怪物の腹部を思い切り押した。その瞬間、怪物は大型トラックに撥ねられたようにものすごい勢いで後方に吹き飛ばされ数十メートル後ろにあった壁に激突した。


「うわわわ、何で? 私こんなに力持ちだったの?」


『違います。今メリダ様の周囲に展開している衝撃波の壁を攻撃に利用しただけです。しかし、私の中に内蔵してあるウィスだけでは守りが心配でしたのでメリダ様のウィスをお借りしましたが、まさかここまでの威力が出るとは思いませんでした』


 今の一連の流れを目の端で見ていたサヴェロは安堵した。メリダをアイオスが完璧に守ってくれるなら自分は攻撃に集中できる。そう判断したサヴェロは自分の周囲に六つの水の珠を出現させた。


「さあ、こっちから行くぞ」


 サヴェロは自分の周囲に水の珠を展開させたまま敵の群れへと突っ込んで行く。多対一で戦う場合、周囲を敵に囲まれないようにするのが定石だが、サヴェロはあえてそれをしなかった。


 敵陣に足を踏み込むサヴェロの脳裏には幼き頃、自分にウィスの使い方と戦い方を教えてくれた「先生」の言葉が甦っていた。


「いいか? サヴェロ。これから教えるのはウィスを使った戦闘の基本だ。これを完璧にマスターすればお前に敵はない」


 懐に飛び込んできたサヴェロを迎撃しようと、怪物は鋭い爪でサヴェロに攻撃する。が、それを事も無げにサヴェロは左腕で受け止める。刃物の様な爪を受け止めるサヴェロの腕には傷一つ付いていなかった。


「最初に教えるのは『鎧皮(アルマ)』。これは皮膚の下にウィスを流すことで皮膚を硬質化させる技だ。これが出来るようになれば刃物や銃器だって怖くねえ。守りは攻めよりも重要だ。まずはこれを身につけろ。そうしたら次を教えてやる」


 怪物は大きな爪を振り回し、何度もサヴェロに攻撃を試みるが、サヴェロはその全てをはじいていく。そして、攻撃がはじかれバランスを崩す怪物に隙が出来た。


「お前、本当に覚えるのが早いな。もう『鎧皮』が出来るようになったのか。んじゃあ、約束通り次の事を教えてやろう。次は筋肉にウィスを通す技で、これを『鬼理(ラルヴァ)』という。これを使えば通常の何倍もの膂力を得る事が出来る。もちろん速く走る事も出来るし、常人じゃ考えられないほどの跳躍も出来る。だが、これは無闇に使うなよ。まさしく鬼の様な力だ。本当に必要な時にだけ使え」


 サヴェロは『鬼理』で全身の筋肉にウィスを通すと、左足を踏み込み、腰を返して、渾身の右ストレートをよろけて隙が出来た怪物の胸部に叩きこんだ。


メキッ、バキッという骨が砕ける音と共に、怪物は後方へ吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。


「グガアァ!」


 先程は仲間がやられたことで、攻めるのを躊躇していた怪物達だったが、今度は怯む事なくサヴェロに襲い掛かる。


 サヴェロは側面と後方からの攻撃に反応し、それらをうまくいなしていく。常人にはとても反応できない攻撃を、それも複数相手にサヴェロは全く押し負ける事無く対応していた。



「何ィ⁉ もう『鬼理』まで覚えただと⁉ 三日で覚えられるような技じゃないんだけどなぁ。まぁ、出来ちまったモンはしょうがねぇ。これは教えるつもりはなかったんだが、一応やり方だけ教えといてやるか。最後にお前に教えるのは『瞬神(ネルウス)』。皮膚、筋肉ときたが、これは神経にウィスを通す技だ。神経にウィスを通す事で、反応速度を高める事が出来る。飛んでくる銃弾だってスローモーションに見えるし、それに反応して動くことも可能だ。だが、この技は先の二つに比べて習得が圧倒的に困難だ。まっ、気長に練習する事だな」


 『鎧皮』を一日で、『鬼理』を三日で、そして『瞬神』を一年かけて習得し、その後毎日これらの修練に励んできた。意識せずともこの三つの技が使えるようになったサヴェロには銃器を持った人間よりも強い怪物達でも歯が立たなかった。


 しかし、二体の怪物を同時に相手しているサヴェロの所にもう一体の怪物が襲い掛かる。


 いかに人並外れた反応速度を維持しているサヴェロとて、三体を同時に相手するのは物理的に不可能だった。


 そして、その爪がサヴェロに当たらんとした瞬間、何かが怪物の爪に高速でぶつかり、その軌道を変えた。


 それだけでは終わらず、二個、三個と高速で飛来する物体が怪物に直撃する。意識が切れかける寸前、怪物が見た高速で飛び交う物体の正体は直径二十センチメートル程の水の珠であった。


 この水の珠は一体の怪物を吹き飛ばしたあと、勢いをそのままにサヴェロが相手をする二体の怪物にも飛んで行く。


 水の珠といえど、高速でぶつかれば金属の塊をぶつけられているのと遜色ない。威力はサヴェロの直接攻撃に劣るものの、相手の体勢を崩すには十分であった。


「ガアッ!」


「グガッ!」


 側頭部と腹部にそれぞれ水の珠が被弾した怪物は思わず身体をよろめかせる。サヴェロはその瞬間を見逃さず、渾身の一撃を二体の怪物に連続でおみまいした。


 これが、一人でも複数と戦う事が出来るように、サヴェロ自身が編み出した戦闘スタイルであった。半自動(セミオート)で自分に襲い掛かる敵を迎撃し、足りない手数を補う。自身の周囲に六つの水の珠を展開する技『六露宝珠(りくろほうじゅ)』。


 サヴェロは水の珠を展開しつつ、残りの怪物に攻撃を仕掛ける。


 怪物は反撃しようと、サヴェロに爪を振るうが、サヴェロの周りを飛び交う水の珠が邪魔をし、サヴェロに攻撃が届かない。最早一対一になってしまえば、腕が八本でもない限りサヴェロに手数で勝る事は出来ない。後は水の珠が怪物に高速で直撃し、隙を作るといった必勝パターンに持ち込むと、『鎧皮』で固めた拳を『鬼理』で力を増幅させ、『瞬神』で加速させ、思い切り怪物の胸部に捻じ込んだ。強烈な一撃を受けた怪物は吹き飛ぶことはなく、その場に崩れ落ちた。


「これで終わりかな?」


 サヴェロは辺りを見渡す。襲ってきた怪物達は皆壁にめり込んでいるか、床に這いつくばるかして、ピクリとも動かなかった。


『怪物の生命活動の停止を確認しました。もうこの場に我々以外の生物はいません』


 アイオスの言葉を聴いたサヴェロは「ふぅ」と大きく息を吐き、全身の力を抜いた。


「これだけの化け物を一人でやっつけちゃったよ。帝国兵の時も思ったけどサヴェロってやっぱり強いんだね」


 アイオスを抱えたメリダがサヴェロに近寄ってきた。


「何言ってんだ。メリダだって一体倒したじゃんか」


「いや、あれは私が倒したっていうか、アイオスが倒したっていうか」


『それを仰るなら、メリダ様のマナをお借りしなければあれほどの出力は出せなかったので、メリダ様の功績と言っても過言ではありません』


 アイオスにそう言われ「そ、そうかなぁ」と少し嬉しそうにするメリダは持っていたアイオスをサヴェロに手渡した。


「そうそう、そういえば、こいつらって一体何なんだ? 明らかに野生生物じゃないよな?」


 サヴェロは自分が倒した怪物を見ながらアイオスに問いかける。


『……一つ心当たりがあります。以前、カーボニア軍内で生物兵器の研究が行われていたという話を耳にしました。その時は噂話程度にしか思っていませんでしたが、もしかしたらこの怪物達はその生き残りなのかもしれません』


「生物兵器? じゃあ、こいつらは二千年以上も生き続けてるのか? こんな遺跡の中で」


『私も確証はありませんので、はっきりとは申し上げられませんがその可能性は高いです』


 アイオスの話を聴いて、サヴェロは「ふぅん」と頷くとこの空間の出口に視線を向けた。


「まあなんにせよ、十分注意する事には変わりないか。まだ先は続いてる。気を緩めずに行こう」


 そう言って、サヴェロは先頭に立ち歩き出した。メリダは「うん」と返事をするとサヴェロの後をぴったりとくっついて移動する。


 二人は怪物と戦闘を行った空間を後にし、更に奥を目指して歩を進めた。

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