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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
第一章
13/48

1-9

「えー! サヴェロのお母さんって元軍人だったの?」


 船の上で驚きの声を上げるメリダ。あまりの声の大きさにサヴェロは両手で耳を塞いでいた。


「メリダ、少しボリュームを落として」


「あっ、ごめん」


「でも、母さんがナウィート軍に入隊したのは二十年も昔の話だし、俺が産まれた時に辞めちゃったから、五年くらいしかいなかったみたいだよ」


「いや、でもすごいよ。女の人で軍隊に入るなんて」


 メリダは腕を組み、ウンウンと頷いて感心していた。


「そん時に出会ったんだよ。俺とジェリーとフィルはな」


 船を運転していたジロが二人の会話に入ってきた。


「フィル? フィルって誰?」


「フィルはサヴェロの親父だよ。元々遺跡の発掘をしていたが、二十年前の戦争で徴兵されて兵士になったんだ」


「へぇ、じゃあそこでサヴェロのお母さんと出会ったんだ。っていうか、ジロさんも兵士だったの?」


「まあな。さっきも話したが、ジェリーとフィルにはずいぶん助けられた。特にフィルは命の恩人だ。戦場で死にかけてた俺を助けてくれたからな」


「サヴェロのお父さんってすごい人なんだね」


 ジロの話を聴いて、メリダはサヴェロにそう尋ねた。


「ああ、父さんは俺の誇りだ。俺が遺跡の事に興味を持ったのも父さんの影響だからな」


「ん? でも、サヴェロの家にお父さんいなかったよね? どこかに出かけてたの?」


「うん、まあ、出かけてるっていうのはあながち間違いじゃないんだけど……その、父さん今行方不明なんだ」


「え? あ、ごめん」


「別に謝らなくてもいいよ。ふらっとどこかに行っちゃう人だとは母さん言ってたけど、十年前に本当にどこかに行っちゃってそれから帰ってないんだ。でも父さんの事だから、きっとどこかの遺跡を探索してると思う」


「でもさ、奥さんと子供を置いてどっか行っちゃうなんて勝手すぎない?」


「確かにな。だからもし、この先父さんに会うような事があったら、引っ張ってでも母さんの所へ帰すよ」


 サヴェロがそう言うと、ジロが「ああ、是非そうしてやれ」と言う。


「フィルにとってジェリーは天敵だからな。そうなりゃあこっぴどく叱られるだろうよ。十年も嫁と子供をほったらかしにしてる野郎だ。そのくらいの灸は据えてやれ」


 ハハハと大笑いするジロ。それにつられメリダもクスクスと笑いだす。最後にはサヴェロもつられて笑い、船上は賑やかな笑い声に包まれていた。



「そういえば、まだ訊いてなかったっけ」


 サヴェロは腰に帯びていたアイオスを引き抜くと、自分の目の前に置いた。


「俺達は今後どうするんだ? アテがないわけじゃないんだろ?」


『そうですね。今のうちに、これからの事をお話ししておきましょう』


 今後の旅の説明をアイオスから聴く為、サヴェロとメリダはアイオスの傍に近寄った。


『私達はこれから、カーボニア王国の中枢があった都市ブーハへ向かいたいと思います』


「ブーハ? そこには何かあるの?」


 聞いた事のない都市の名前に、サヴェロはアイオスに説明を求める。


『はい。そこにはかつてカーボニア王国が有していた科学技術の粋が結集しています。そして、我々を……正確にはメリダ様を追う者もブーハを目指しているはずです』


「どういう事? アイオスは何か知ってるの?」


『私にはメリダ様を追う者について心当たりがあります。その者が何故メリダ様を狙うのかもおおよそ見当がついています。恐らく、相手方の真の目的はメリダ様の力を利用し、カーボニア文明を復活させる事でしょう』


「カーボニア文明の復活って……」


あまりにもスケールの大きい話に、サヴェロは驚き、うまく言葉が出てこなかった。


『先程申し上げましたブーハにはそれが可能な技術があります。カーボニア文明の礎を築いた技術エターナルウィスシステムが』


「「エターナルウィスシステム?」」


 サヴェロとメリダが声を揃えてアイオスに訊いた。どうやらメリダもその言葉は初耳だったらしく、サヴェロ同様首を傾げている。


『エターナルウィスシステムとは、世界に存在するウィスを利用し、半永久的にエネルギーを生産し続ける科学技術の事です。この技術の確立により、カーボニア王国は大躍進を遂げ、超大国となりました』


「……凄い。今の時代の科学技術じゃ、ウィスを利用するどころか、観測さえ出来ないのに」


改めてカーボニア王国の科学力を思い知らされ、驚愕するサヴェロ。


「私もそんな技術がある事知らなかった。自分の国の事なのに」


『それは仕方がありません。エターナルウィスシステムは存在自体が完全極秘事項である為、軍部の一部関係者と限られた王族しか知り得ません。王族も成人するまでは知らされないので、メリダ様はご存知なくて当然です』


「ん? でもどうしてそんなトップシークレットをアイオスは知ってんの?」


『私は元々軍部の人間です。とある事情でそのような極秘事項に触れる機会がありました』


「え? いや、ちょっと待って、そもそもアイオスって人間だったの?」


「私もアイオスって機械か何かだと思ってた」


『はい。そうです。この姿になったのも事情があるのですが、この話は後々詳しくお話ししますので、今は我々の目的の方を』


アイオスは脱線しそうになった話を戻す。それに、サヴェロとメリダはどこか残念そうな表情になるが、サヴェロは差その先を促した。


「で、エターナルウィスシステムだっけ? それとメリダの力と何か関係があるの?」


『はい。今現在、エターナルウィスシステムは停止している状態にあります。それをまた動かすにはカーボニア王国の王族のウィスエネルギーが必要になります。つまり、メリダ様のウィスが無ければ起動する事が出来ません』


「なるほど、だから奴らはメリダを狙っているのか。それじゃあ、俺達が奴らより先にブーハに行って、エターナルウィスシステムを――」


『破壊します』


 アイオスはサヴェロが言い切る前に、そう言った。自分が言おうとしていた事とは違う内容にサヴェロは「え?」と疑問の声を上げる。


「いや、俺達で起動して利用するんじゃないの?」


『いいえ。エターナルウィスシステムは我々の手で完全に破壊します。カーボニア王国亡き今、あれは無用の長物です。いえ、まだ無用の長物であった方が良いでしょう。あの力を残しておけば必ず今のこの世界を滅亡させます』


 アイオスはいつも通り冷静な声で話すが、サヴェロにはどこか悲しそうな声にも聴こえた。そう話すアイオスにサヴェロは特に意見する事なく「わかった」と頷いた。


「帝国の奴らより先にブーハに辿り着いて、俺達でエターナルウィスシステムを壊そう」


『マスターのご協力誠に感謝します。正直、メリダ様と私だけではほぼ不可能な事だと思っていました。しかし、マスターがいてくだされば不可能ではありません』


「そんなに頼られてもなぁ……あっそうだ、大事なこと訊くの忘れてた。そのブーハって場所だけどどこにあるの? ここから結構遠い?」


『そうですね。とても遠いです。ですが、ここからよく見えますよ』


 アイオスがよくわからない事を言い出し、怪訝な表情をするサヴェロ。


「どういう事? ここからよく見えるのに遠い場所って」


『マスター上を見てください。今日はブーハのある場所がよく見えます』


 ますます困惑するサヴェロは言われた通り空を見上げた。そこには大きな満月が夜空に煌々と輝いていた。


「……噓でしょ? まさか、ブーハがある場所って……」


『はい。今我々の頭上で煌めいている月です』


 最早リアクションすら取る事が出来なくなっていたサヴェロは、ただただ大きな口を開けて夜空の月を見上げていた。一方、隣にいたメリダは空を見上げ「確かに遠いね~」と呑気な感想を述べている。


「いやいやいや……月って、どうやって行くのよ」


『マスターの仰る通り、我々には月まで行く為の手段がありません。ですので、月に行く方法を見つけるのが我々の当面の目標になるでしょう』


「月に行く方法かぁ……」


 サヴェロは夜空を仰ぎ、気の抜けた声で呟く。


『そこで、私は世界中にあるカーボニア文明の遺跡を探索する事を提案します』


「遺跡の探索? それってまさか……」


『はい。まだ見つかっていない遺跡、または発見されていても未探索の所には、我々が使っていた技術が残されているはずです』


「そっか、私やアイオスがいた時代なら月に行く技術があるかもってわけね」


 そう言うメリダにアイオスは『左様です』と答える。


「それしかないか……よし! これから俺達は世界中に存在する遺跡の探索をして、月へ向かう手段を探すとする!」


 サヴェロは急に立ち上がり、高らかにこれからの予定を宣言する。それを見ていたメリダはポカーンとしていたが、クスクスと笑い出した。


「アハハ。急にどうしたの? サヴェロ。何かリーダーみたいだよ」


「俺がリーダーじゃ嫌か?」


「ううん。私は賛成。アイオスは?」


『私も賛成です』


 アイオスの意見を聞いたメリダは「それじゃあサヴェロがリーダーに決定!」と嬉しそうに言った。


「それじゃあ私達の事頼んだよリーダー」


「なーんかのせられてる感じがするけど、まあいいか。よーし! 今後の計画も決まった事だし少し休もうか」


「そうだね。何かいろいろあって私も疲れちゃった」


 メリダは体の力を緩めると、船に備え付けられた椅子にもたれ掛かった。


「どうした? 作戦会議は終わったのか?」


 すると、そこへサヴェロ達の様子を見に、ジロが顔を覗かせる。


「だったら今のうちに眠っとけ。リーピンに着くのは明け方だからな。船内に寝床があるから自由に使ってくれ」


「わかった。ありがとうジロさん。でも俺は甲板で寝るからいいや。船内はメリダが使ってくれ」


 船室を譲ると言い出したサヴェロにメリダはムスッと頬を膨らます。


「リーダーその命令は聴けないであります。私を特別扱いしないで欲しいであります」


「……何だその喋り方は? いや、別に、特別扱いしてる訳じゃなくて……その、一緒の部屋で寝るのは、アレだし……」


「? 何ごにょごにょ言ってるの? とにかく、私はサヴェロと同じが良いの」


 メリダはサヴェロに面と向かってそう言い放った。恥ずかしげもなく言い切ったメリダに対して、サヴェロは余計に動揺していた。


「ハッハッハッ! こりゃあ威勢の言い嬢ちゃんだ! ここまで言われたら男として退けないよな? サヴェロ」


「勘弁してよジロさん」


 結局、メリダはサヴェロと同じ毛布にくるまり甲板の上で夜を明かす事となった。始め、サヴェロはなかなか寝付けなかったが、疲れからか、そのうち深い眠りへと落ちていった。

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