1-8
『まだ、周りに多くの追手がいます。大きく迂回してからこの防風林を抜けましょう』
「了解」
アイオスのナビゲーションに従い、ジェリーは車を運転する。暗い防風林の中を安全に、しかし迅速に抜けていった。
「ねぇ、さっきの人達は死んじゃったの?」
その道中、メリダが隣にいるサヴェロに話しかけた。
「いや、殺してはいないよ。ちょっと眠ってもらっただけ」
「でも思いっきりアイオスで切ってなかった?」
「そこは大丈夫。アイオスは自分の意志で切れなくする事が出来るから。それともう一つアイオスの能力を借りたからな」
「能力? そう言えば、さっきからウィスとか何とか言ってるけど何なの? それに、さっきサヴェロが助けに来た時、アイオスと事前に話してたみたいだけど、そんな話してたっけ?」
メリダが矢継ぎ早にサヴェロへ質問を投げかける。サヴェロは「あー」っと頭の中でその答えを整理し、口を開いた。
「そうだな、まずウィスの事について話すか。家でアイオスがちょろっと説明したと思うけど、ウィスっていうのはあらゆる自然現象に干渉する事の出来る力で、俺は六年前にある人からウィスの使い方を教えてもらったんだ」
「へぇ、じゃああんなに早く動けるのも、水を操ってたのもそのウィスって力なの?」
「そういう事だな。ウィスを使えば身体能力を飛躍的に高める事が出来る。それと、俺のが発するウィスは水に強く作用するらしい。だから水を扱うのは得意なんだ」
サヴェロの説明を聞いて「ふーん」と納得するメリダ。
「そんで、さっき言ったアイオスの能力っていうのは……説明お願いできる? アイオス」
話を振られたアイオスは『了解しました』と返事をし、自身の能力について説明を始めた。
『私はウィスを用いてあらゆる「波」を操作する事が出来ます』
「波? 波ってそこの海岸に打ち寄せてくる波の事?」
『それも波の一つですが、私の言う波とは波動の事です。例えば、音も波の一つとして操る事が出来ます。先程からこうして皆様と会話しているのも、音波を直接皆様の耳に伝えているので、仮に第三者がいてもその方には私の声は聞こえません。そして、サヴェロ様と別れてからも、私はこの波の力を使い連絡を取り合っていました』
「え? そうだったの?」
「そうだよ。じゃなかったらこんなに早く正確に皆の所に辿り着けないって。まあ、そん時にアイオスの能力の事や俺の能力の事を話し合って、どうやって帝国兵を倒すか決めてたわけ」
「なるほどねぇ。それじゃあさっき家の周りにいた帝国兵の数や追手がどこから来るのか把握してたのも、レーダーみたいに電波を飛ばして、その反射波で確認してたわけね」
運転をしていたジェリーが話に混ざる。それにアイオスは『その通りです』と答えた。
『そしてこの波の力は攻撃にも使用できます。剣に短い衝撃波を纏わせそれで叩く事で非常に強力な一撃となります』
「へぇ、ウィスって何でもできるんだね。私も修行すれば使えるようになるかな?」
『メリダ様には特異な力がありますから、それほど難しくはないと思いますが、ウィスの鍛錬は非常に厳しいものです。そこまでしても得たいものですか?』
「……うん。今回みたいに守られてばっかりじゃいけないし、自分の身くらいは自分で守らないと」
そうメリダが呟くと、車内に沈黙が訪れた。車は悪路を走っている為ガタガタと車全体が揺れる。と、そんな中、
「そんなに焦る必要もないでしょ?」とジェリーが沈黙を破った。
「追われている身だから先走っちゃう気持ちはわかるけど、いつも気張ってたら身が持たないよ? それに、その向上心があれば、メリダちゃんは大丈夫だからゆっくりいこう」
「……ありがとうございます。ジェリーさん」
「どういたしまして。さぁ、もう少しで目的地だから頑張ってね」
サヴェロ一行を乗せた車は帝国の監視から逃れる為道を大きく迂回し、とある海沿いの小さな小屋に到着した。
近くの小さな港には一隻の漁船? が停泊している。その他に人気はなく、ひっそりと静まり返っていた。
車を降りたジェリーは真っ先にその小屋へ行くとドアをノックする。
「こんばんは~ジロさんいる~?」
その呼びかけると、中からドスドスと思い足音が聞こえてき、ガチャリと小屋のドアが開かれた。
「誰だ~? こんな時間に。新聞なら取らねぇぞ……って、おお! ジェリーか? 久しぶりだな。相変わらず若いな」
「どうもありがとう。久しぶりねジロさん」
中から出てきたのは長身でガタイの良い、初老の男性だった。ジェリーとは旧知の仲らしく親し気に会話をしている。そのやり取りが気になったのか、見ていたメリダが、サヴェロの服を引っ張り、サヴェロに質問をする。
「ねぇ、あのおじさんってジェリーさんの知り合いなの?」
「ああ、そうか、まだ詳しく話してなかったな。あの人はジロさんって言って、母さんと父さんの知り合い。昔、母さんが働いてた職場の仲間なんだって」
「へぇ、そうなんだ」
一通り、ジェリーとの挨拶が終わると、ジロの視線がサヴェロに向けられた。
「ん? そっちはもしかしてサヴェロか? デカくなったなぁ」
「久しぶりジロさん。まぁ前に会ったのは五年位前だしね。俺だって少しはデカくなるよ」
「歳を取ると時間があっという間に過ぎちまうからな。子供の成長は本当に早ぇよ」
ワハハと久しぶりの友人の訪問に上機嫌なジロであったが、ふぅと軽く息を吐くと、緩んでいた表情を引き締めた。
「で? 今日は何の要件だ? まぁ、大体予想は着くがな」
ジロはサヴェロの隣に立っていたメリダをチラリと見てそうジェリーに問うた。
「単刀直入に言うわ。今日は貴方にサヴェロの横に立っている女の子を隣国のリーピンまで運んで欲しいの」
「何か訳ありみてぇだな」
「ええ、実はこの子帝国に追われてるのよ」
「何? 帝国? そういや、お前さん達が乗ってきた車……ありゃあ帝国のだろ? もしかして相当面倒な事になってねぇか?」
「いやぁ、ついさっき帝国兵とドンパチやってきたところなのよねぇ」
苦い表情で話すジロにジェリーはアハハと呑気な態度で答える。そんなジェリーにジロは額に手をやりハァ~と大きなため息をついた。
「全く、いっつもいっつも無茶ばっかしやがるな。帝国を相手にするなんて」
嘆くように呟くジロに、さすがのジェリーも真剣な表情になる。
「お願いジロさん。こんな事頼める人は他にいないの。今すぐは無理だけど、報酬は必ず払いから」
頭を下げ必死に頼み込むジェリーを見たジロはフッと表情を緩める。
「何言ってんだよ。こちとら断る理由なんざねえっての」
「それって……」と顔を上げるジェリー。
「お前達夫婦にはどれだけ助けられたと思ってんだ。こんなもんお安い御用だ」
そう言うと、ジロは表に出て、停泊している自分の船の所へと歩いて行く。
「急いでんだろ? 今船の準備をする。準備が出来次第出発するから、そっちも支度しておいてくれ」
「ありがとうジロさん!」
ジロの快い承諾により、すぐに隣国リーピンに向かう事となった。サヴェロ達は帝国の車の中にあった食料等の必要な物を船に乗せていく。帝国が迫っている事もあり、急いで準備をするサヴェロ。
その様子を、ジェリーは作業を手伝いながらどこか憂う様子で見ていた。
作業も終わり、いざ出発となった。ジロは先に船に乗り込んでおり、メリダはサヴェロとジェリーに別れの挨拶をしていた。
「何から何まで面倒を見ていただき本当にありがとうございました」
メリダは二人に深々とお辞儀をする。
「それなのに二人には危ない目に遭わせてばかりで……」
「もうそんな事言わないの。こうして無事でいられたんだから、これからも旅先で無茶はしないで頑張ってね」
そう言ってジェリーはメリダを抱き寄せた。
「旅が終わって落ち着いたらいつでも帰っておいで」
「うん。ありがとう……」
メリダもギュッとジェリーを抱き締め、顔を埋める。そして、名残を惜しむように離れると、今度はサヴェロの方を向いた。
「サヴェロも助けてくれてありがとう」
「ああ、どういたしまして。まあ、何だ……その、元気でな」
何か歯切れの悪い挨拶をするサヴェロに「ん?」と首を傾げるメリダだが、メリダも「元気でね」と返した。
『私からもお礼の言葉を申し上げます。お二人の協力がなければ無事ではいられなかったでしょう。感謝します』
最後まで堅苦しいなと苦笑いするサヴェロ。それにつられフフッと微笑むメリダ。久しぶりに和んだ空気になるが、そこに「おーい! そろそろ出るぞ!」と船の準備を終えたジロの声がかかった。
「はーい! 今行きまーす! それじゃあね、二人とも。行ってきます」
メリダは二人に手を振ると踵を返し船へと駆け出した。その後ろ姿に手を振って送り出すサヴェロとジェリーだったが、
「このままでいいの?」
と、突然ジェリーがサヴェロに話しかけた。思わず「え?」と母ジェリーの顔を見るサヴェロ。
「このまま女の子を一人で行かせちゃうつもり? 私はそんな風にアンタを育てたつもりはないんだけど」
ジェリーはサヴェロの方を向いてそう続けた。
「それって……」
「世界を見て回るのがアンタの夢なんでしょ? 女の子を守れて世界を巡って一石二鳥じゃない」
「でも、家の事は……」
「家の事は私に任せなさい。アンタが帰る場所は私が守るから、アンタはアンタのやりたい事をやりな。さあ、どうするの? 行くの? 行かないの?」
その二択を突き付けられたサヴェロはほんの一瞬だけ目を閉じ、そして、目を見開くと、
「ありがとう母さん。行ってきます」
そう言って、サヴェロはメリダの後を追った。
「よーし! 出発するぞ!」
メリダが乗船したことを確認したジロは船を動かし離岸する。と、そこに「ちょっと待ったー!」という叫び声と共に、岸からジャンプしたサヴェロが船に飛び乗ってきた。
「え! サヴェロ! どうして……」
「ここまできたら最後まで協力させてくれ。まあ、ぶっちゃけ世界中の遺跡を見たいってのはあるけどさ、俺に出来る事があればなんでもいってくれ」
「……ありがとうサヴェロ」
半泣きになりながらメリダはサヴェロに抱き付いた。あまりに突然の事で赤面し、体を硬直させるサヴェロ。
そして、サヴェロから体を離すと、涙を浮かべながら笑い、「よろしく!」と言った。
『しかし、本当によろしいのですか?』
メリダの腰に帯びているアイオスがサヴェロに尋ねる。
『この先、先程のような危険な出来事が何度も起きるでしょう。それでも――』
「行くよ」
アイオスが言いきる前に、サヴェロは被せるように答えた。真っ直ぐな眼、確固たる意志を持った瞳でサヴェロはアイオスを見つめた。
『……了解しました。それでは今後ともよろしくお願いします』
その覚悟を汲み取ったアイオスはそれ以上何も言わず、サヴェロを歓迎した。
「こちらこそよろしく」
『ここで一つ提案なのですが』
「ん? 何?」
『私の事はサヴェロ様がお使いになって下さい』
「俺がアイオスを?」
『はい。先程の戦闘で、貴方は私を扱うに相応しい方だと判断しました。貴方なら私の力を十全に発揮できるでしょう。それだけの力が貴方にはある』
「アイオスがいいなら、俺は構わないよ」
『了解です。それでは今後、貴方の事をマスターと、そうお呼びします』
「マ、マスター?」
『そうです。私を扱う方、故に主人』
アイオスからの新しい呼び名に、サヴェロは苦笑いを浮かべながらも、アイオスを手に取った。そして、アイオスをメリダと並べるように掲げるとサヴェロは苦笑から爽やかな笑顔に表情を変え「それじゃあ改めてよろしくな」とこれから旅をする仲間達に挨拶をした。
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