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レジェンドオブカーボニア  作者: 天水覚理
序章
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プロローグ

 四十平米程の部屋には、四台のパーソナルコンピュータと大きなスクリーンが設置され、若い男四人がそれぞれ一台ずつ端末を操作をしていた。


 そして、その部屋の後方には、銀色の仮面を被った一人の男が立っていた。仮面の男は無言で、四人の男達がコンピュータを操作している姿を見ている。


 パソコン画面の光だけが光源となっている薄暗い部屋に会話はなく、ただただカタカタというキーボードを叩く音だけが響いている。


しかし、パソコンを操作していた内の一人がその静寂を打ち破る。


「エリス様、対象を捕捉しました。スクリーンに映像を出します」


 一番右にいた男がそう言うと、前方にあった大きなスクリーンにある映像が映し出された。画面には、永遠に広がる漆黒の空間の真ん中に銀色をした鶏の卵の様なものが映し出されていた。そして、画面端には青白い巨大な球体も映っている。


「対象は現在、この星の衛星軌道上を高速で周回しています」


 右端に座っていた男は映像の説明を行うが、エリスと呼ばれた仮面の男はその報告をまるで聞いておらず、大きなスクリーンを食い入る様に見ていた。


「おお、このような所に居られましたか。まさか、宇宙にいるとは、通りでいくら地上を探しても見つからない訳だ」


 仮面の男エリスは画面を凝視する。仮面のせいで表情はわからないが、その声のトーンから歓喜に満ち溢れていることは誰にでも容易に想像出来た。


 エリスはゆったりとした足取りで、大きなスクリーンに近付いて行く。まるで恋い焦がれた相手に再会を果たしたかのように。エリスは大きなスクリーンの目の前に立つと震えた手で画面に触れようとした――その時だった。


「私に隠れて何をコソコソしている。また悪巧みか? エリスよ」


 いきなり、五人の後方から男性の声が聞こえてきた。エリスを含めた男達は一斉にその後ろを振り向く。そこには出入り口である扉に腕組みをして壁にもたれ掛かる中年男性の姿があった。その男性は髪をオールバックにし、口の周りに髭を蓄え、高級なスーツを身に纏っている。さらに、その男性の放つ独特な雰囲気は一般人にはない高貴さがあった。


 ほんの一瞬、もともと部屋に居た男達は硬直していたが、コンピュータを操作していた四人の男達は瞬時に立ち上がると、四人同時に扉の前にいた中年男性に対して敬礼を行った。


 そして、その四人に少し遅れてエリスは中年男性に深々と頭を下げる。


「これはこれは陛下。この様な薄汚い所にわざわざご足労頂き誠に申し訳ありません」


 エリスは頭を少しだけ上げると、そう言った。


「ふん、心にもないことを……いや、元々お前には『心』なんてものはないか。お前達、楽にしてよい。自分の作業に戻れ」


 中年男性が呆れた様子でそう言うと、四人の男達は敬礼を止め椅子に座って再びコンピュータを操作し始めた。


 一方のエリスはゆっくりと頭をあげ、口を開いた。


「しかしながら、悪巧みとは手厳しいですな。私の全ての行動は陛下の為、ひいてはこのリモローク帝国の為であります」


「祖国の為か、こんな銀色をした卵が何の役に立つというのだ? それとも、これは幸運をもたらすラッキーアイテムだとでも言うつもりか?」


 中年男性は大きなスクリーンに映る銀色をした鶏の卵の様な物体を見てそう言った。その言葉を聞いたエリスもスクリーンに顔を向け言葉を返す。


「ええ、これは陛下の野望を成就させる為に必要な物となります。そう、陛下が追い求めておられるカーボニアの謎を解くカギとして」


 中年男性はエリスが口にした「カーボニア」という単語を耳にした途端、その目付きが一層鋭くなった。


「今の言葉、本当だろうな?」


「勿論でございます。今の言葉に嘘偽りはございませぬ」


 エリスは中年男性の眼を直視しながらそう答えると、部屋には再び沈黙が訪れた。


 しかし、そんな重苦しい雰囲気を打ち破る様に、今度は左から二番目に座りコンピュータを操作していた男が声を上げた。


「エリス様、目標に動きが見られました。これは……衛星軌道を外れています。このまま行けば地上に落下します」


 この報告を聞いたエリスは視線をスクリーンに戻す。


「ふむ、こちらに気付かれましたか。直ちに落下予測地点を割り出しなさい。場所がわかり次第部隊を編成し、目標の捜索に当たらせなさい……よろしいですね? 陛下」


 エリスは部下に指示を出すと、顔だけを中年男性に向けそう訊いた。


「私が何と答えようがお前は勝手に事を進めるのだろう?」


 中年男性はそう言って振り返ると出入り口のドアノブに手をかけた。


「いいだろう。お前の言葉信じてやる。好きにするが良い。ただし、何の成果も得られぬ時はそれなりの覚悟はしておけよ?」


 そう言い残すと、中年男性はドアを開け、部屋から出て行ってしまった。その姿を見送ったエリスはまたスクリーンに視線を移す。


「ええ、覚悟はしていますとも。何せ、カーボニアは私の悲願でもあるのですから」


 スクリーンには星の重力に引っ張られ赤熱しながら落下していく銀色の卵の様な物体が映し出されていた。

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