友情と愛情でサンドイッチができますかしら~?
翌日の放課後――
花音は学食に足を運んだ。
カードゲームで盛り上がる一角やら、おしゃべりする女子グループなどで相変わらずの賑わいだ。
勉強には向かない環境なのに教科書とノートを広げて黙々と勉強している生徒もいる。
静かすぎる自習室より逆に集中できたりするのかもしれない。
どこに座るか迷っていると、丸いテーブルで見慣れた顔が手を振ってきた。
「こっち空いてるぞ!」
大福だった。彼の手元には小さな紙の袋が置かれている。
「他にも空席はいっぱいありましてよ?」
「まあそう言うなって」
「…………」
花音が話題を見つけられずにいると――
「そういや昨日の雷すごかったな」
「え、ええ。そうですわね」
「市内に落ちたって噂じゃねぇかよ」
「そうでしたの?」
「倉庫街の方らしいぜ。ボヤもあったってさ。幸い、死傷者は出なかったけどな。そうそう、その倉庫街にある『しらかわ』って定食屋が……」
話が長くなりそうだと花音は観念した。
「ちょっと飲み物を買ってきますわね」
「お、おう。ゆっくり選んでいいぞ」
謎の上からっぷりだ。先輩だから当然と言わんばかりだが、少女には大福の無遠慮っぷりが、ほっとした。
花音は自販機に向かった。ミルクティーかレモンティーか決めかねていると。
「……先、いい?」
琥珀がやってきてレモンティーを買う。なので花音はかぶらないようにミルクティーを選んだ。別に同じものでも良かったのだが、この決定もなんとなくだ。
大福に引っ張られるように二人して丸テーブルを囲む。
約束していたわけでもないのに食べ歩き同好会の三人が揃った。
青年が口を開く。
「でな、定食屋の話なんだが、どのおかずも米が一瞬でなくなる美味さでおすすめは……」
琥珀が大福を白眼視した。
「……それよりもお土産……渡すんだよね?」
「お、おう。ったく、怒るなって。琥珀後輩はたまに凄みのある目をしやがるぜ」
大福はぼやきながら紙袋をテーブルの真ん中に置く。
「博多通りもんだ。この前は渡し損ねたんでな。和洋折衷のミルクまんじゅうって感じになる。俺と琥珀は現地で食ってきたんで遠慮はいらんぞ。関東じゃ流通してない希少なブツだぜ」
「言い方が不穏すぎましてよ」
都内各地のアンテナショップを巡れば、北は北海道から南は沖縄までお土産が揃うのだが、どうやら博多通りもんは地元限定らしい。
と、花音は返しつつ琥珀の方をちらり見る。
「……地獄の弾丸ツアーだった」
「ご愁傷さまですわね」
本当に日帰りだったようである。ノリが交通系YouTuberだ。
主犯格――大福がにっこり笑顔で花音に紙袋を差し出した。
「執事の人にもよろしくな」
「あらあら、これはご丁寧にありがとうございます」
袋を受け取り小さく一礼する。いつもの食べ物うんちくではなく執事の話になるなんて意外ですわね……と思ったとたんに言葉が漏れた。
「って、執事の鋼を知っていますの?」
「今朝、ちょっと話しかけられたんだ。学園内でお嬢様をお守りください……だってよ」
「それは大変失礼いたしましたわ。あとで鋼にはきつく言っておきますわね。ああもうまったくあのポンコツ執事もどきは……」
少女の言葉を遮って大福が首を左右に振る。
「いや構わねぇって。むしろ望むところだ。俺と琥珀がお前を守ってやる。な?」
琥珀もじっと花音の顔を見つめた。
「……うん。僕らは花音さんに助けてもらったから」
大福が腕組みしつつ大きく頷いた。
「頼まれたからじゃねぇ。俺も琥珀もそうしたいんだ」
花音の眉尻が下がる。困り顔になってしまった。
「お二人にご迷惑をかけるわけにはまいりませんわ」
「……迷惑なんかじゃない」
琥珀も真剣な面持ちだ。普段のどこかふわっとした雰囲気が、今だけは締まっている。
大福が立ち上がった。
「いいか花音。お前がやりたいことがあるなら遠慮無く言ってくれ」
「……手伝うよ」
琥珀には『金持花音』が、どんな色で見えているのだろう。少女はわからなくなった。
ずっと自分自身を知らないと思い込んできた琥珀と、同じ悩みだ。
気持ちは自分で決めればいい。なんて、言った当人がこれである。
琥珀もいるのに嘘をついても仕方ない。
けど、少女は本心を明かすことができなかった。
「二人とも過保護すぎますわね。どっちがわたくしのパパでどっちがママかしら? うふふふおほほほ!」
チョケてしまった。と花音は思う。照れ隠しが逆効果だ。
なのに――
大福はため息交じりに「ま、押しつけんのもな。頼りたくなったら言ってくれよ」と理解を示す。
琥珀はといえば。
「……心配しすぎは……よくないよね」
不思議なことに花音の心中をスルーした。
大福がコキコキと首を鳴らす。
「ところでよ。北海道ってどう思う?」
「……やめて……死んじゃうから」
顔面蒼白になる琥珀に先輩は笑顔で返した。
「今から行くわけないだろ常識的に考えて」
花音がむむっと眉間に皺を寄せる。
「放課後に東京福岡間を飛行機で往復したのに説得力がありませんわよ」
サイコロの出た目で行き先を決めないだけ、昔の北海道ローカル旅番組(?)よりはマシかもしれない。
「それはそれ。これはこれだ」
ふんっと鼻を鳴らして大福は続けた。
「夏休みに入ったら食べ歩き同好会の合宿を希望する。これは会長からのたってのお願いだ」
「え、ええと……」
外泊許可が出るとは思えない。執事付きでは二人に悪い。
大福は顎に手をあて目を伏せる。
「そうか。北海道じゃないなら……台湾で屋台三昧だな」
「スケールアップしていましてよ!」
「……無理はよくないよ大福先輩」
「悪い悪い。つい、お前らとどっか行くのを考えると楽しくてな。無理かもしれないって思って、口に出さないのももったいないだろ? もしかしたらOKかもしれんし」
はっはっはっは! と青年は笑い飛ばす。
悩んでいた自分があほらしくなって、花音は「ふふっ」と吹き出してしまった。




