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それでも誰かが暗躍しているのは確定ですわよ~!

 ただ、四つ葉のクローバーに関しては復讐ではなく幸運であり、三つ葉のクローバーの約束という花言葉が破られ反転して復讐になった……という解釈もできた。


 他の花と組み合わせなければ白爪草から復讐という単語を見つけるのは難しかったと、少女は思う。


 黒森は腕組みをした。


「なるほど。復讐……か」

「何か思い当たる事柄はありませんこと?」


「さてな。しかしこれ以上、何を調べるというのかね。すでに目的は達成された。君はすべての噂を解き明かし、根源が無いと証明したのだ」


「けれどQRコードの真相にはまだたどり着いておりませんわ」

「きっと誰かのいたずらだろう。無害な花の画像だ。放っておけば良い」


「生徒会長様は気になりませんの?」

「ああ。暇ではないのでね」


「復讐でしてよ? 事件に発展するかもしれませんわ」

「ならば訊こう。いったい誰が誰に復讐しようというのかね?」


 言われてしまうと、花音にはさっぱりわからない。


 花の画像を貼ることで、復讐は果たされるのだろうか。


「わたくしは存じ上げませんわね」

「では終わりだな。君の任を解……」


「けれど、二年生の黒森生徒会長でしたらご存じかもしれませんわ」

「…………」


 青年は黙り込んだ。かまわず花音は続ける。


「話は変わりますけれど、文化系部室が足りないという話ですわよね」


「唐突だな。確かに部室棟は現在埋まっている。まさか『食べ歩き同好会』を部に昇格させたいとでも言わないだろうな。君のために部室棟を増設は……まあ、君の家の力をもってすれば可能かもしれないが」


 少女はぶんぶんと縦ロール髪を左右に振った。


「おかしいですわ! 建物を増やすだなんて!」

「さすがに世間知らずなお嬢様と言っても節度はわきまえているようだ」


「そうではありませんの! 必要が無いという話でしてよ!」

「なぜかね?」


 厳密に言えば空き部屋ではないのだが、花音には心当たりがあった。


「どうして部室棟一階の一番奥にある部屋が物置になっていますの? 部に昇格を希望する同好会は多数あると伺っておりますわ」


 大福からの又聞きだけでなく、調査期間中に何人かの生徒からもそれとなく花音は耳にしていた。


 花音は生徒会長にグッと顔を近づけた。


「納得のいく説明を求めますわ」

「吐息がかかるほど接近するのはやめたまえ。世間ではガチ恋距離というのだろう?」

「いいえやめてなるものですか。わたくしの質問にお答えくださいまし黒森生徒会長」


 青年は椅子を後方に引いて距離を取る。


「一度、ああいった使い方をしてしまうと動かしにくくてな。各文化部で部室に置ききれなくなった備品の保管庫としているのだ」


「しているということは、以前は別の用途で……いいえ、正式に部室として使われていましたのよね?」


「…………」

「沈黙は肯定と解釈しましてよ」


「いったい君はなんの話をしているのかね? 倉庫になった元部室の事など、どうでも良いではないか?」


 花音はのぞき込むのをやめると腕組みをしてたわわをぐっと下から押し上げた。


 胸を張る。


「この学園はフィクションばりに生徒会の権限が強いですわ。強制執行で片付けてしまえばよろしいのではありませんこと?」

「するだけの理由がない。リソースの無駄だ」


「では、わたくしから『食べ歩き同好会』を部に昇格させ、部室の提供を要望いたしますわ。これで理由としては十分ではなくて?」


 青年は小さく息を吐く。


「部として認めるには五人必要だ。却下だな」

「ぐっ……ぐぬぬですわ。これで勝ったとは思わないことですわ!」

「悪役令嬢かね君は」


 少女は眉間に皺を寄せつつも頷いた。


「ともあれ、あの備品庫が部室だったのがわかった以上、話は終われませんわね」

「現状、特に問題はないと思うが?」


「学園のウェブページにて、文化系部活の一覧がありますわよね」

「急に話が飛ぶのは悪い癖だな金持花音君」


 花音はスマホに表示して黒森に突きつけた。



英語部

演劇部

(   )

合唱部

華道部



 以前、大福とも確認したものだ。


 演劇部と合唱部の間に、奇妙な隙間がある。


 少女の心に引っかかったままの奇妙なスペースだった。


 黒森が首をかしげる。


「何か問題でもあるのかね?」

「レイアウトに隙間がありましてよ」


「ふむ。確かに一行分空いているな。美しくない。あとで修正しておこう」

「ウェブページの管理は生徒会がしていますの?」


「管理にはコンピューター部も関わっているが、この程度であれば私でもできるだろう。今週中には対処すると約束しよう」


 青年が「問題は解決だな」と少女に確認をとる。


 が、花音は首をぶんぶんと左右に振った。


「レイアウトのミスを指摘しに来たのではありませんわよ!」

「ではなんなのだね?」


「この隙間には部活名があったはずですわ」

「ふむ」


 多弁な眼鏡は相づちを打つばかりだ。


 少女はいらだたしく思う。


「普段でしたら生徒会長の安楽椅子探偵ぶりが発揮されるところですのに、このポンコツ眼鏡!」

「君らしからぬ口の悪さだ」


「おほほほほ。滅相も無い。事実を申し上げたまでですもの。部活の紹介は五十音順。『え』の演劇部と『か』の合唱部の間に入る名称の部活ですわ」


「なるほど。そろそろ結論を述べてもらおうか」


 合唱部なら『が』では? といった揚げ足も取らない。


 ますます花音は不機嫌になった。


「演劇部は『えん』ですわよね。となると同じ『えん』で始まるか『お』や『か』が頭文字になる部活になりますわ」


「おにぎり部か……いや、おでん部かもしれんな」

「真顔でボケられても対処に困りましてよ。この隙間には……園芸部があったのではありませんこと?」


「演芸部か。漫才などを研究する部活だな。大変興味深い」

「演芸じゃなくて園芸ですわ! どうして小ボケを挟み倒しましたの?」


「人生にはユーモアという潤滑剤が必要だからな」

「時と場合によりましてよ。今は真面目な話をしていますの」


 少女には、だんだんと生徒会長が執事の鋼と同類のように思えてきた。


「園芸部は部員の定員を切ったため廃部となった」


 用務員の田中からもかすかにそういった話を聞いた覚えが少女にもあった。


 花音は黒森の顔を指さす。


「備品庫にされた部室! 学園内にちりばめられた花のQRコード! 共通する花言葉の『復讐』! 無関係とは思えませんわよ! 元演芸部員が関わっているに違いありませんわね!」


 鼻息荒くキメポーズにどや顔なお嬢様。


 生徒会長は眼鏡のフレームを中指でスチャッと押し上げた。


「それは無い」

「ど、どどどどどうして断言できまして?」


「最後の園芸部員は今年の春に卒業した」

「そこまで知っていて、黙っているなんてひどいですわ。察しの良い生徒会長でしたら、関連性に気づいてもおかしくありませんわよね」


「私は君ほど探偵として有能ではないのでね。買いかぶりだ」


 有能なのは花音ではなく琥珀なので、これにはお嬢様もぐうの音も出ない。


「その方と園芸部について、知っていることを教えてくださいまし」

「ふむ……そうだな」


 黒森は語る。


 部室については二年前に立ち退きの話が出ており、その頃から園芸部は一人しかおらず廃部が決定していた。黒森は前の生徒会から引き継いで残務処理を行ったという。


 園芸部がなくなってからも、その生徒は一人で活動を続け学園内の花々を育てていた。だが、卒業とともに今年から造園業者に任せることになったらしい。


 花音が初めて学食を訪れた時、窓の外で庭園の花を総取っ替えしていたのも、最後の園芸部員の卒業と関係があったのかもしれない。


 少女は眼鏡の話を聞き終えてからスッと挙手する。


「その方に話を訊けませんかしら?」

「では英国まで飛んでもらおう。十一時間のフライトに時差八時間。本場の紅茶を味わうといい」

「は、はいぃ?」


「その生徒は現在、英国にてガーデニング留学中と聞いている。詳しいところまではわからないがな。足跡をたどるなら進路指導部に問い合わせるといいだろう」


 花音は眉間をつまむと目を閉じ天井を仰いだ。


 卒業後、海外留学した人間が一度剥がされた学食のQRコードを貼り直せるだろうか。


 青年が咳払いを挟む。まるで花音の心を見透かしたかのように――


「だから言えなかったのだよ。黙っていたのではなく、黙らざるを得なかった」


 状況から浮かび上がった容疑者は遙か遠く9600㎞向こうにあった。


 それでも――


 QRコードを貼り直した人物は存在する。


 卒業した園芸部員の意志を継ぐ者がいるのかもしれない。と、花音は小さく拳を握りしめた。

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