嘘の色は黒より赤かもしれませんわね~!
「琥珀君は自分のドッペルゲンガーを探しているみたいで……どうしてそうなったのか、心当たりはありませんか?」
至って真面目に訊く花音に、水晶はぷふふ~! っと吹き出した。
「やだあの子ったら。それ、小学校の話じゃない」
「はいぃ?」
素っ頓狂な声を上げる花音に美魔女は言う。
「あの子が小さいときに、周りの子たちと自分が違うって悩んでたの」
「わたくしには想像することしかできませんが、きっと大変だったのでしょうね」
「他人と違うことは変えようがないけど、受け入れるには理由がいるもの。だから時間稼ぎが必要だったのよ」
遠くを見るようなまなざしで水晶は続ける。
「ある日、あの子はこう言ったわ。『お母さん。自分の色はどうすれば視られるの?』って」
花音はハッと目を見開いた。
他者の感情を色として認識してしまう琥珀だが、それが可能となるのは写真や映像ではない、本人と対面した時だけだ。
距離が離れて表情が確認できなくなってもオーラは見えなくなる。
「でね、平行世界とか行ってもう一人の自分に会えばいいんじゃないかしら? って、教えてあげたのよ。そのうちどうにもならないって気づくまでの、時間稼ぎね」
「あああああああ……」
花音の口から変な声が漏れる。が、かまわず水晶は言う。
「そしたら琥珀ね『平行世界にはどうすればいけるの』って。だから、身近なところ。ほら、学校とか探してみるといいんじゃない?」
「あ、あなたが犯人でしたのねッ!!」
「まさか高校生にもなって、まだ母親の言うことを信じ続けてるなんて思わないじゃない。本当にピュアないい子なんだから。自慢の息子ね」
水晶は軽く拳を握って親指を立てる。いわゆるいいね。サムズアップだ。
毒親というほどではないものの、水晶も変人だった。
もう一人の自分に会いたい理由は、自分のオーラを視たいから。
どうしてそんなことを神岡琥珀が思うのか。
最後に解き明かさなければならないのは、動機のようだ。
美魔女が花音に訊く。
「あなた琥珀から視たら金色なのよね」
「え、ええ。そういえば金色は琥珀君にとって初めての色で、どういった感情なのかわからないと……ご存じありませんこと?」
「そうね。経験上だけど、私も一度だけ……ううん。一人だけ、そういう色のオーラを見つけたことがあったわ」
「他にサンプルがないから比較して、どういった感情なのかわからないということ……かしら?」
にっこり目を細めて美魔女は「そうね。これからも琥珀と仲良くしてあげてちょうだいね。花音さん」と、母親の顔で伝えた。
「え、ええ。良いお友達でいられればと思いましてよ!」
なにやら背負わされてしまったように花音は思う。
それからは琥珀との出会いについてや、学園内の開かずの扉を探した話など談笑をした。
「お嬢様……そろそろお時間となります」
「そうですわね。本日はとても有意義な時間を過ごすことができて、感謝いたしますわ」
「また遊びにいらっしゃいね」
席を立ち一礼すると少女は部屋を出ようとする。
と、執事がついてこない。
男はおもむろにサングラスを外した。
「失礼ですが泉様。わたくしのことを憶えていらっしゃるでしょうか?」
「あら……そう……あのときの坊やがずいぶんとおっきくなっちゃって。ご両親はお元気かしら」
「実は事故で二人とも……」
「ごめんなさいね。もう、わたしには視ることができないから。悪いこと、訊いちゃったわね」
鋼はゆっくり大きく首を左右に振る。
「とんでもございません。あの時は本当にありがとうございました」
恭しく頭を下げてから、顔を上げた執事はどこか、すっきりしたような表情をしていた。
下りの高速道路は渋滞しており、湾岸道に出るまでしばらくかかった。
後部座席から花音が訊く。
「あなたのご両親、亡くなられていたのね」
「いいえ。ともにピンピンしております」
「え!? 事故って言ったではありませんか?」
「事故には遭いましたが、奇跡的に無事だったのです」
そ う い う と こ だ ぞ。
水晶を騙して何がしたかったのかこの男は。少女の中で義憤が起こる。
「どうして水晶様にそのような嘘をついたのかしら?」
「本当に能力がなくなったのか、知っておきたかったものでして。どうやらご本人の仰る通りのようですね」
もし水晶が嘘の色を視られるなら、鋼の嘘も看破していたかもしれない。
「ずいぶんと疑り深いのですわね」
「お嬢様こそ人をあっさりと信用しすぎにございます。それに……たとえば相手の嘘がわかる力があったとしても、場合によってはその嘘に騙されたフリをし続けることも、人間にはあるかと存じます」
「理解できませんわね。騙されたフリだなんて」
「騙される側にもメリットがある場合や、騙されたフリをしつづけることで、ここぞというタイミングで裏切りカウンターをするパターンかと」
「メリットがあるから相手の嘘に乗っていますの?」
「あとはそう……この世界には優しい嘘もあるのです。相手を傷つけぬように巻かれた包帯のような偽りを、剥がして傷をあらわにすることもない……と」
「今夜は詩人ですのね」
「ええ、こう見えても趣味はポエムですから」
「嘘ね」
車は赤いテールランプの尾を引いて高速を降りていった。




