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犬系男子と猫系男子が激突必至でしてよ~!

 放課後――


 花音は学食の中央付近に置かれた丸テーブルについて待つ。


 今日は神岡と部室棟の調査だ。


 ちょうど同じタイミングで二人の男子生徒がやってきた。


 長身の茶髪ピアスの青年と、ぼさっとしたエアリーヘアーに、ぼんやりした目の少年だ。


「よぉ花音! 暇か?」

「……金持……さん」


 二人同時に少女に話しかけ、青年と少年――小中大福と神岡琥珀は互いに顔を見合わせた。


「なんだてめぇは? うちの花音になんの用だ?」

「……誰? この人……赤?」

「誰が赤点だコラァ! ギリ回避してんぞ」


 少女は頭を抱える。


「ちょ、ちょっとお待ちになって。ええと……」


 どちらから紹介しようか花音は一瞬迷った。いやいや待て待て。小中の「うちの」って誤解がすぎましてよ。と、訂正する間もなく。


「あぁん? さてはてめぇだな!? 花音につきまとってるストーカーは。やけに視線を感じると思ったらついに正体を現しやがって!」

「……否定……初対面の相手に……それはないんじゃない?」


 花音は神岡をおとなしい人物と思っていたが、巨体の小中を前に臆するどころか鋭い視線で返した。


「何が否定だこの中二病野郎。これ以上、うちの花音につきまとうってんなら俺が許さねぇぞ!」

「……そっちこそなに? 金持さんのこと……モノみたいに言わないでほしいな……」


 燃える小中と冷淡な神岡。炎と氷がぶつかり合うような印象だ。


「喧嘩売ってんのか? 買ってやるよ表に出やがれ」

「……金持さんを困らせるようなら……僕は差し違えてでも君を止める」


 一触即発の空気に耐えきれず、少女が二人の間に割って入った。


「わああああああ! お待ちになってくだしまし! っていうか話を訊けえええ!」

「な、なんだよ花音。いきなり大きな声あげて」

「……金持さん? 青?」


 目を丸くする男子二人。まずは血気にはやる小中の顔を、少女はビシッと指さした。


「大福先輩。わたくしはたしかに『食べ歩き同好会』の一員ですけれど、言い方に語弊を招く要素がありましてよ!」

「あっ……いや、そういう意味じゃないんだ! 仲間って意味だぞ! マジで」


「……黄色? 焦ってる」

「う、うるせぇさっきからなんなんだてめぇはよぉ!」


「……神岡琥珀……」

「名前を訊いてんじゃあねんだよ。花音とどういう関係かって話だろうがッ!?」

「……深い……関係……一言では……言い表せない……秘密の共有者?」


 はいかいいえ。ではない解答を神岡はなんとかひねり出した。


 花音は再び頭を抱える。神岡の能力という秘密を共有している。間違いはないが、言い方に問題ありだ。


 小中の顔からサーッと血の気が引いた。


「お、おおおお、おい! ふ、ふふ、深いってその……あれか? 花音お前……」

「何を想像なさっているのか存じ上げませんけれど、断じて違いましてよ。神岡君は依頼主ですわ」


「な、なんだ驚かせやがって。じゃあ秘密ってのは探偵の守秘義務みたいなもんか。わりぃな……ええと……」

「……神岡琥珀……そっちは?」


「小中大福。二年だ。花音とはこの前、ちょっとあってな」

「……ちょっと……うん……オレンジ」

「オレンジの話なんかしてねぇよ。花音が食ったのはベリーソースのパンケーキだからな」


 かみ合わない二人の潤滑剤になるべく、花音は腰に手を当て命じた。


「ともかく、わたくしが一から説明いたしますから双方ともに着席なさってくださいまし」


 少女はちらりと神岡を見る。


 彼の秘密を隠して話す必要があった。


 そもそも、開かずの扉を探している理由は神岡が平行世界の自分に会うため。という、とんでもない理由である。


 加えて、なんでもう一人の自分に会いたいのか。まだ、花音は突き止めるに至っていない。


 花音に言われてしぶしぶ着席する小中。同じく神岡も卓に着く。


 たまたま選んだのが丸いテーブルで良かったと少女は思った。


 ボックス席だったら、どっちの側に座っていいのかわからなかったし、小中と神岡を並んで座らせて対面の席につくのも、なんだか妙に思えたからだ。


 ひとまず、花音は小中との出来事から語った。


 あらかた説明を終えて少女が確認する。


「ということで、小中先輩は学食のミートドリアの秘密が知りたくて、毎日食べていた姿が学園の噂になってしまいましたの。わたくしが解決のお手伝いをしてさしあげましてよ。おほほほほ。事情はおわかりになりまして?」

「……うん」


 言葉短く神岡は頷いた。


 続いて小中の事を説明しようとした時――


「なあ花音。なんか……俺ら誰かに見られてないか?」


 小中が周囲をざっと見渡した。


「また幽霊ですか大福先輩? 心配性ですわね」

「だから幽霊なんていねぇって!」


 青年が視線の主を捜し当てるより早く、神岡がぽつりと呟いた。


「……江藤部長」


 人混みの中にカチューシャをしたショートボブの女子生徒の姿があった。


 こちらが気づいたことを向こうも察したらしく、江藤は何事もなかったように顔を背ける。


 声を掛けてくるなと態度で権勢された格好だ。


「おい、あの女がどうしたんだ? 花音に好き放題言ってたやつだよな。安心しろ。また何か言ってきても俺が追い返してやっから」


「手荒なまねだけはなさらないでくださいまし」

「わーってるよ」


 体の大きな小中だが、人に暴力を振るうタイプには思えない。それでも花音は心配になってしまった。


 正直、花音は辛辣な美術部長が苦手だ。こちらから話しかけにいくには勇気がいる。


「それにしましても、人が多くて賑わっていますのによく気づきましたわね?」

「昔っから視線に敏感みたいでな。言ったろ? 幽霊なんていないって」


 一瞬、共感覚と言いそうになって花音は踏みとどまった。神岡ほどではないが、小中の野性的な直感も特殊能力一歩手前くらいはありそうである。


「にしてもあの女、なんでこっち見てんだよ」

「……僕を監視している……かもしれない」


 広い学食のほぼ反対側というところにいて、花音もカチューシャをしていたから江藤だとわかったところがあった。


 神岡も能力を使うには、遠すぎて相手の感情の色が見えないらしい。かもしれないと付け加えたところに、少女は弱気を感じた。


「監視ったってなにを見張ってんだろうな。んで、琥珀」

「……距離感詰めるの……早くない?」


「そういうてめぇだって先輩相手にタメ口じゃねぇか。あいこで手打ちだろ。ま、俺としては敬語使われるより楽でいいし、実質勝ってるな」

「……オレンジ……」


「お前オレンジが好きなのか?」

「……否定……ええと……レモンティーの方が……」


 小声で最後まで聞き取れなかったのか、青年は胸を張った。


「そうだ! 今度、絞りたて生ジュースの美味い店を紹介してやるよ」


 飲食への興味の話になると途端に上機嫌いなる。小中の本心にして親切心100%だ。


「……あっ……うん」


 神岡は借りてきた猫のようにしゅんとおとなしくなる。


 きっと大福先輩から白やら金のオーラが出ていましたのね。と、思うお嬢様なのだった。

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