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考え事をまとめる話し相手にもなりませんわね~!

 帰宅後、夕食を終えた花音はカシスのフレーバーティーで一息ついく。


 オープンキッチンのカウンターを挟んだ向こう側で、洗い物をする執事に告げた。


「我が家もロボット掃除機を導入してもいいかもしれませんわね」


 執事はキッチンで洗い物をする手を止める。


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔……かどうかは、万年サングラスなのでわからないのだが、鋼はぎょっとした口ぶりで返した。


「それはいけませんお嬢様。いったいどこでそのような悪しき文明を知ってしまわれたというのですか。この鋼、大変悲しく存じます」


「どうしてロボット掃除機が悪しき文明になるのかしら?」


「自動化はよろしくありません。食洗機を導入すれば、こうしてお嬢様にお仕えしている生の実感を得られなくなってしまいます」

「あなた掃除はしていないじゃない?」


「そこはそれ。人間には得手不得手があるのです。掃除に関しては別の人間に任せることで、その者と私はお嬢様に仕える素晴らしさを共有しております」


 掃除は本家メイドの領分だ。お互い侵犯しないルールでもあるのだろうか? と少女は心の中で首をかしげた。


「掃除はダメでも洗い物は得意と言いたいのかしら?」


「かのスマートフォンを発明したスティーブ・ジョブズ氏を始め、クリエイターの中には洗い物をする時に良いアイディアが見つかるという話を耳にしたことがあります」


 え? そうなの? なら、わたくしも執筆のために洗い物をしてみようかしら。と、一瞬心を動かされてしまうお嬢様。


 だが、そもそも――


「あなたは執事でクリエイターではありませんわよね」

「食に関してはクリエイトしておりますので」


 あーいえばこういう。鋼という男の人格を音声アプリにして、世界中のスマホに強制実装したら、たたき割られる端末が後を絶たないと花音は妄想する。


 少女が知る限り、退屈しのぎに相手をいらつかせることにかけては、執事の右に出るものはいない。


「ひとまずあなたは各家電メーカーに謝罪なさい。罪状は利便性否定罪で」


「いえいえお嬢様。アレは……ロボット掃除機なるものは本当によくないのです。青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす可能性が、万に一つもあったりなかったりするやもしれません」


「実質無いということね。何がそんなに問題なのかしら?」


 ペットロボットほど愛嬌はふりまかないが、けなげに掃除をする様はどこか愛らしいとさえ花音は思う。


「あの冷血なる輩は、人間や動物と違って動きを読めませんから」

「あなたはロボット掃除機と戦おうとでもいうのですか? バカも休み休み言いなさい」


「ともかく、私はあの不埒なる白い箱には反対なのです」

「箱?」


 花音が想定していたロボット掃除機は一般家庭用の円盤形である。


「どうかなさいましたかお嬢様?」

「普通、ロボット掃除機といえば丸い形ではありませんこと?」


 動画投稿サイトで不規則に動く掃除機の上に、猫が乗ってスーっと移動する姿が愛らしいと花音は思う。


 箱形もあるかもしれないが、世間一般に言えばやっぱり円型だろう。


「お嬢様。常識にとらわれてはなりません。いついかなる時も、財閥令嬢には柔軟な思考力が必要とされるのです」


「別に令嬢でなくても大事なことですわね。で、どうしてロボット掃除機を箱と言ったのかしら?」

「はて、私はそのようなことを言ったでしょうか?」


 ビジュアルノベルの読み返し機能があれば、そっくりそのまま発言を見せてやれるのに。


「とぼけるなんて、何か隠していますわよね?」

「きっとお嬢様の勘違いでしょう。そそっかしいことこの上なし。鋼は心配しております」

「わたくしのせいにしないでくれませんことッ!?」


 鋼は自身の頭を軽く握ったグーでぽかりとやると、舌を出した。


「てへぺろにございます」

「厳つい大男がやってもギャップ萌えしませんわよ……ハァ……もういいわ」


 鋼は恭しく礼をした。


 今度こそ本当にクビにしてやろうかしら。と、脳裏によぎりはするものの、お嬢様的にはこのいい加減な執事を辞めさせられない理由がある。


 おそらく鋼の後任には、本家の超有能メイドが充てられるのだ。財閥令嬢といっても花音も人の子。


 すぐそばにきずの無い天然のエメラルドのような人間がいて、かいがいしく世話なんて焼いてこようものなら――


 己の至らなさに毎日が針のむしろになりかねない。


 もしかして鋼は花音のために道化を演じているのではなかろうか。


 わたくしに神岡君のような共感覚能力があれば、鋼の本心に迫れるかもしれないのに……あっ、でもダメダメそんなことをして、本当に鋼が有能でわざとボケ続けているってわかったりしたら、やっぱりわたくしの心が死んでしまいますわ!


 何も信じられなくなる。


 神岡がコミュ障になった理由の一端が、花音にはわかった気がした。


 普通の人間が持たない特別な力――


 今まで少女が生きてきた中で、超能力(厳密に言えば違うのだが)の持ち主は知る限り神岡だけだ。


「ところで鋼」

「はい、お嬢様」


「超能力者や霊能力者って存在すると思うかしら?」


 変人執事のことである。お嬢様? お熱はございませんか? といった反応が返ってくるのも花音は覚悟していた。

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