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情報は足で稼ぎますわよ~!

 花音は順当に調査を進めた。


 確認した進入禁止エリアは教務室と教職員用トイレ。事務室。学園長室。応接室。進路指導室。宿直室。


 これらは生徒だけでの利用は不可である。開かずの扉を探すとなると、教員や職員の協力がほしい。つまり、後回しだ。


 少し特殊なのが放送室。こちらは教師と放送部員が管理していた。部員を捕まえてさくっと話を訊いてみたが、開かない扉などないとのことだ。


 中も見せてもらったが、放送ブースと器材室という感じだった。


 ここから発せられた呼び出しが、自分の学園生活を変えてしまったのだと思うと、少女にはなんとも感慨深いものがあった。


 続けて、開かなかった扉について。


 一階、階段裏の用具庫。ボイラー室。各階防火扉。各階の女子トイレに設置された用具入れ。


 基本的には生徒が使わない扉である。トイレの掃除用具入れも施錠されていた。


 校舎内を調べていて花音は気づいたのだが、各階の廊下の端に四角い箱形の機械が配置してあった。何に使うものかはわからないが、小型冷蔵庫ほどの大きさである。


 扉とは無関係ながら、ちょっと気になった。


 話を戻そう。


 生徒が利用するものの、普段は施錠されている扉もある。


 家庭科準備室。地学生物科学物理の準備室、音楽準備室。美術準備室。書道準備室。PCルーム。視聴覚準備室。技術準備室。


 授業時に解放されるため、これらの扉が神岡の探す平行世界への出入り口という可能性は低いと思う。


 そもそも、扉やドッペルゲンガーがあるとかないとかは置いておいて。


 大事なことは神岡自身の納得だ。


 花音は四階の西端に到達してしまった。どこかで入れ違いになったのか、途中で神岡と合流はできなかった。


 廊下の窓から外を見る。


 雨は小降りになっていた。もののついでにと、花音は他にもいけそうな場所をチェックする。


 体育館とフィットネスルームに屋内プール。部活動中ということもあって、さっと中を覗いたくらいだ。詳しく調べるには広いし時間もかかりそうである。が、あたりはつけた。


 続けて本校舎内の学習室。自習をする生徒で賑わっていた。静かな自習室に賑わうとはおかしな話だが、利用者は多い。


 講堂もチェックする。確か黒森が講壇で不審なQRコードを見つけたのは、ステージ設置作業の時だったとか。


 他に講堂には機材室と放送室があるのだが、双方ともに鍵がかかっていた。こちらの管理も放送部がしているらしい。


 あとは校庭にある体育倉庫などだが、雨も降っているし後日延期でいいと花音は考えた。


 少女のスマホが着信のアラームを奏でる。



神岡『食堂』

花音『わかりましたわ。すぐに参ります』



 メッセージなら饒舌……ということもなく、無口に拍車のかかる神岡に少女はため息も出なかった。




 時刻は午後四時半。


 先ほどと同じ席で神岡は待っていた。テーブルには紙パックのミルクティが二つある。


「……ミルクティー飲んで」

「あら、気を利かせてくださいますのね。ありがとうございます。いただきますわ」


 ストローを刺してチュッと喉を潤すと、花音は調査報告をする。


 本校舎を中心に、生徒がアクセスできそうな場所に関して確認した。


 結論――


 平行世界につながっている扉は発見できなかった。


 屋外にある体育倉庫や、運動部室に文化部の入った三階建ての部室棟は未調査である。


 生徒だけで利用できない部屋や、ボイラー室のような場所も調べられなかった。


 一方、神岡も花音ほど詳細ではないものの、概ね同じような報告を返す。


 彼はタブレットに学園の見取り図を取り込んで、各部屋にメモをしていた。


 花音の報告を聞きながら少年は書き足していく。


「あら、便利ですのね」

「……すぐに忘れちゃうから」

「メモを取るのは忘れるためですから問題ありませんことよ。脳みそを空っぽにしておく方が、空想も妄想も詰め込めると歌にもありますし」


「……あの」

「なにかしら?」

「……気になるものがあって」


「あら? ご自分で見つけてしまいましたの? 平行世界への扉を?」

「……否定。扉とは関係ないと思う。けど……」


 少年はタブレットの見取り図を拡大して、三階の男子トイレを指さした。主に三年生の教室があるフロアだ。


「ここになにか気になるものがありましたの?」

「……肯定。白と黒のブロック模様」

「ちょっとわかりませんわね」


 少年はタブレットのアプリを切り替えた。


「……これ」


 お絵かきアプリに素描されている。トイレということで写真を撮らなかったのかもしれないが、男子トイレのラフ画だというのは花音にもわかった。


「もしかして、こちらの絵を描いていてトイレに長くいましたの?」

「……肯定」


 その間に花音とすれ違ったので、合流できなかった。お嬢様的には、喉につかえた小骨が取れた気分である。


 が、謎は余計に増えたかもしれない。


「トイレの中に白と黒のブロック模様がありますのね?」

「……肯定。一番奥の個室」


 神岡は次の絵を表示する。個室の中から描いた一枚だ。ちょうど便座に座って、やや上を向いたようなアングルだった。


 ドアの内側に小さな四角いマークがある。


「この印って、もしかしまして……写真は撮りませんでしたの?」

「……肯定」


「どういったものか、描いて再現できまして?」

「……可能」


 神岡の手がタブレットを操作する。


 立ち上げたのはドット絵メーカーなるアプリだった。


 花音の目の前でみるまに白地に黒の四角形が配置されていった。


 そこに描かれていたのは毎度おなじみQRコードである。


 適当にやったにしてはそれっぽい。


 ちなみに女子トイレに同じようなコードが貼られているのを、花音はこれまで見たことがない。


「ほ、ほほ、他の個室にも同じようにありますの? 男子トイレには!?」

「……否定。本校舎の男子トイレは全部見たけど、この一枚だけ」


 一枚という単語に花音はピンときた。


「もしかしてシールが貼られていまして」

「……肯定」


「シールはそのままですの?」

「……肯定。勝手に剥がすのはよくないかもしれないから」


 学食の券売機にシールを貼ったであろう、何者かの犯行だ。犯行は言い過ぎでもいたずらをしている人間がいるのは間違いない。


 確かめに行こうにも、男子トイレに突撃はお嬢様的に無理ゲーである。


 少年にカメラで撮影してもらい、リンクを確認するのが無難そうだ。


 とはいえ――


「神岡君がドット打ちしたQRコードですけれど、まさか読み取れたりはしませんわよね」


 言いながらスマホのカメラを起動して、神岡のタブレットに表示されたQRコードを表示させると、URLのリンクバーが表示された。


「ずいぶんと正確に描かれましたのね。まさか読み取れてしまうだなんて」


 花音の頭が真っ白になる。


 もしかして、神岡は見て憶えたというのだろうか。それを正確に再現した?


 驚きつつも花音はURLをタップする。


 海外サーバーにつながり、出てきたのは黒い花の画像だった。


「うううう! なんということかしら!」


 白爪草。アザミに続く、謎の花の第三弾である。知識に乏しい花音には詳細がわからなかったが、形からすると百合である。


「……クロユリ」

「あ、あらわたくしもそうだと思っていたところでしてよ! おほほほほ!」


 男子トイレの個室に咲いた花一輪。正体がクロユリとわかっただけで、誰が何のためにというところは、さっぱりわからない。


 男子トイレという立地上、直接確認はできないので黒森に報告してあとの処分は任せようと少女は思った。


 それにしても――


 学園の清掃は業者が行っているのだが、トイレ掃除の時に落書きではないものの、不審なQRコードのシールなど見つけたら清掃の方に処分されてしまうのでは?


 と、花音は考える。


「けれど、掃除をするとなるとトイレの便座などに注意がいきますわよね」

「……急にどうしたの?」


「小さなシールですし案外気づかれないものなのかも……っと、こちらのお話ですわ。それよりも神岡君はどうして絵で描きましたの?」

「……わからない」


「質問を変えますわね。トイレということでプライバシー保護のため写真を撮らなかったのかしら?」

「……否定」


「ではどうして絵で?」

「……わからない」


 ウミガメのスープ状態に入ってしまったようだ。


「神岡君は絵を描くのが好きなのかしら?」

「……否定」


「あら、意外ですわね。嫌いなのに美術部だなんて」

「……推薦枠だったから」


 学園は広く優秀な人材に門戸を開くということで、スポーツ推薦枠があるとは花音もなんとなく知っていた。


 先日、小中大福が運動部に迫られた時の事が思い出される。


 小中は推薦枠で入学した生徒がどこにいるかもわからないのに、自分が入部してその生徒の居場所を奪うことを嫌っているようだった。


「って、矛盾していましてよ? 中間考査でわたくしよりも成績が良かった、唯一の人間ですのに一般入試ではありませんこと?」

「……肯定」


 花音はミルクティーのパックをチュチュチュッと吸ってから、少年をじっと見据える。


 開かずの扉よりも、彼の――神岡琥珀の謎を解くのが先決かもしれない。


「勝負ですわよ神岡琥珀ッ!」

「……なんでみんな僕をフルネームで呼ぶんだろう」


「し、知りませんわよそんなこと!! ともかく、あなたの秘密のすべてとはいいませんけれど、解明できそうなところはズバッと解き明かして差し上げましてよ!」

「……訊かないんじゃなかったの?」


「それで済むならそれもヨシですけれど、先に進むには知る必要がありますもの!」


 少年の顔をビシッと指さし花音は鼻息も荒く縦ロール髪を揺らすのだった。

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