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そんな扉が開かれたら大変なことになりましてよ~!

 学食はそれなりに賑わっていた。誰もが雨のピークが収まるのを待っているようだ。


 携帯ゲームで盛り上がる集団と、カードゲームをしながら「俺のターンッ! ドローッ!」とやかましい連中の他は、本を読んだり自習をしたり。


 生徒たちは思い思いに過ごしている。


 外の雨は続いていた。話が長くなるようなら、鋼を一度戻らせても良いかなと、花音はショートメールを送信する。



花音『迎えが必要になったら連絡しますから、一度帰宅してください』

鋼『お嬢様を待つことも心の喜びにございます』



 秒でレスが返ってくるあたり、執事も暇人である。


 まさか雨の中、外に突っ立てはいないだろうか。



花音『車内におりますわよね?』

鋼『当然のごとくびしょ濡れにございます』

花音『とっとと車の中に避難なさい。風邪をひかれては困りますから』

鋼『なんとお優しい。この鋼、感動に打ち震へっぶし!』



 メッセージでくしゃみをするくらいなら余裕だろう。と、花音は結論を下した。


 学食内の自販機で紙パックのミルクティーとレモンティーを買い、神岡を座らせたテーブルに戻る。


「どちらかお好きな方を選んでくださいまし」


 二択を迫る。


 ミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわミルクティが飲みたいですわ……。


「……じゃあミルクティ……レモンで」

「どうして変えましたの?」


「……僕がミルクティに手を伸ばしたら、君が青くなったから」

「わたくしが青くなる? 顔色がすぐれないということかしら?」

「……否定」


 顔色の問題ではないらしい。


 実際のところ、花音はミルクティが飲みたかった。


 飛躍しすぎと思いつつも、少女は神岡に訊く。


「もしかして神岡君は相手の心を読むことができまして?」

「……否定」


 呟きつつレモンティーのパックを手にとってストローを刺す。


「……いただきます」


 ちゅーっとレモンティーを飲んで一息つくと、少年はじっと花音を見つめた。


「……ええと……名前……」

「金持花音ですわ」


「……金持さん。僕を探しに来たの?」

「わたくしが探しているのは、学園のどこかにあったりなかったりしそうな開かずの扉でしてよ?」


「……どうして?」

「生徒会長様から頼まれましたの」


「……噂の投稿フォーム?」

「えっ……ええ、そうそう。生徒会のウェブページにありますわよね。そちらに投稿がありましたの。学園に開かずの扉があるって」


 神岡は自身の顔を指さした。


「……それ僕」

「はいぃ?」


 少女が首をかしげて語尾を上げる。


「……僕が投稿した」

「な、なななななんですってぇ!?」


 思わず声が大きくなり、お嬢様はハッと口元を手で覆う。


 大声で「ショットガンシャッフルはカードを傷めるぜ!」やら「粉砕! 玉砕! 大喝采ーッ!!」と、盛り上がっていたカードゲーマーたちもプレイを止めて花音に視線を集めた。


「恥ずかしいですわ。屈辱ですわね」

「……黄色。驚いてる?」

「驚きもしますわ。大福先輩の時といい、できすぎではありませんこと!?」


 生徒会長から花音が受け取った資料には、個々の投稿者名は記載されていなかった。てっきり無記名の投稿ばかりと思っていたのだが――


 花音は考える。

 黒森玲央がわざと投稿者名を伏せた可能性あり。


 プライバシー保護の観点から配慮した。なーんて言えなくもないかもしれないけれど、ぶっちゃけいかがなものかしら? と、捜査令状の灰色の脳がささやく。


 依頼主の名前があれば、直接聞きに行けるのだ。


 なに隠してくれていやがりますの! と、花音は内心切れ散らかした。


 ともあれ――


 期せずして投稿者本人と引き合わされた格好だ。


 花音は深呼吸しつつパックのミルクティーを飲む。甘い。普段たしなむ紅茶とは別物ながら、果糖ブドウ糖類が脳にスーッと効いて、これはありがたい。


 紅茶がキマる。お嬢様のエナドリだ。


 冷静さを取り戻すと少女は神岡に詳しい話を訊くことにした。


「神岡君はどこでその噂を耳にしましたの?」

「……僕から」


 少女は自分の眉間を親指と人差し指できゅっとつまむ。あー、もう。会話を成り立たせるのだけでも一苦労だ。


「つまり神岡君が噂を広めましたのね?」

「……そうなる……と、思う。いろんな人に訊いたから」


 事件解決。


 花音は胸をなで下ろした。


 噂の発信源が自供したのだ。


 あとは黒森に報告して終わりである。



「ご協力感謝いたしますわ」


 席を立とうとすると花音の上着のそでを少年がきゅっと掴む。


「きゃっ! なにをなさいまして? 袖口を引っ張るだなんてお子様かしら?」

「……金持さんは開かずの間を知らない?」


 少年の焦点の合わないまなざしが、懇願するように花音を下からのぞき込む。捨てられて心細そうにしている子犬の瞳だ。


「ぞ、存じ上げませんわね。だからこうして調査をしていましてよ」

「……そう……」


 神岡はそっと花音の袖を放す。

 少女は椅子に座り直した。


「わ、わかりましたわよ! これも何かのご縁。どうして開かずの間を探しているのか、仰ってくださいまし」

「……白……うん。ありがとう」


 色を呟いて少年は鞄からタブレットとペンを取り出した。


「……しゃべるの苦手だから」


 絵を描くアプリを立ち上げて神岡は素描する。


 それは木の扉の絵だった。生徒会室の扉そのままだ。さっと描いたのにスッと伝わることに花音は驚いた。


「これは生徒会室の扉ですわね。けれど、開かずの扉ではありませんわよ」

「……うん。僕も開かずの扉がどんな形かはわからない……」


 神岡は扉を探しているが、形状は不明ということだ。


「なにかわからなければ、質問を変えましょう。なぜ……ですわね。どうして神岡君は開かずの扉を探していまして?」

「……怒らない?」


「語られる内容次第ですわ」

「…………」


「あらあらあらあら、同学年の女子生徒に怒られるのが怖くてお話できませんの?」

「……そんなことない」


 挑発に反応すらしないタイプ。と、花音は勝手に思っていたが、意外にも神岡は乗ってきた。

 少年は小さく頷いてから続ける。


「……開かずの扉は別の世界に通じているから」


 花音は目を丸くした。

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