騎士なのに混乱してきた…
リーが弾かれたように動き、声をかけ始める。
「怪我人で歩ける方はこちらに集まっていただけませんか?」
「大丈夫ですよ。もう心配はいりませんよ。」
「薬師様、こちらに来て見ていただけませんか?」
と、マリーは比較的軽傷の歩ける患者を集め、その診察と治療を薬師に託したかと思うとすぐに、うずくまっている患者に声をかける。
「大丈夫ですよ。脈を拝見しますね。」
こちらに横になっていてくださいね。お医者さまを呼んできますから…。
マリーは黄色のリボンをその怪我人の手首に巻いた。
「大丈夫ですか?足が痛いのですか?見せてください。」
「骨は大丈夫なようですね。歩けますか?」
「カイル様、こちらの方をあの薬師様たちのところへ連れていってください。」
「わかった。」
カイルは騎士であり、この場では指令者となるはずの存在なのに、なぜか何の違和感もなく、この初めて会った女性の言うことに従っていた。
カイルが薬師たちが治療している軽症者のところから、先ほどの場所へと戻ってくると、もう彼女の姿はなかった。
広場の様子を確認しながら、彼女の姿を探していると、そこへ戸板の上にのせられ、青い顔をしてぐったりしている中年の男性が運ばれてきた。その男性の手首には赤いリボンが結ばれていたのをカイルは見た。
戸板を持っている騎士の一人が声を張り上げた。
「茶色の上着の医師の方、水色のシャツの医師の方、この男性を至急診ていただけませんか⁉がれきの下にいた重症の方です!」
すぐに二人の医師が戸板の上の怪我人に近づき診察を始めた。
「おい、さっきのドラゴンい使いみたいな女性は、救助現場の方にいるのか?」
カイルは、また救助現場へ向かって駆け出そうとする後輩の騎士に聞いた。
「はい。白い衣に着替えた女性ですよね。いつの間にか救助現場に戻って来ていて、先ほどの男性をがれきの下から運び出したとたんに、脈をとったり胸に耳を近づけたりして診察したかと思うと、赤いリボンを男性の手首に巻いたんです!そして先ほどの医師たちに至急診てもらえと指示を出されました。」
後輩の騎士は興奮気味に答えた。
「はぁ?! 女性の身で、なんでまた危ない現場に行くんだよ!」
カイルが思わず毒づいてしまったところへ、二頭立ての馬車が勢いよく広場に入ってきた。馬車には王立病院の二本の杖をモチーフにした紋章が見てとれる。
「王立病院の応援が来たぞ!」「よかった!」広場のあちらこちらから声が上がる。
急停止した馬車の扉が勢いよく開き、王立病院付きの医師たち4人が飛び降りてきた。
「先生方、早速ですが…、手首に赤色のリボンを巻いてあるのが重症の怪我人です。最優先で診察と治療をお願いします。黄色のリボンは中等症の怪我人です。自力歩行が可能な軽症の怪我人は右手にいていただいています。よろしくお願いいたします!」
カイルの背後から、またドラゴン遣い風の女性の声が聞こえてきた。
〝この謎の女性は分身の術でも使えるのか?〟
騎士にあるまじきことだが、カイルの頭は混乱してきた。
カイルが振り返るとアルと女性が並んで立っていた。その後ろには、戸板に乗せられた老婆と男性が一人ずつ運ばれている。同僚の騎士たちも全員揃っている様子なので、どうやらがれきの下敷きになった人たちはすべて救助できたらしい。
「先生方、この女性の見立ては正確だと私は判断する。今言ったようにしてくれ。」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべた医師たちは、見知ったアルから発する声を聞き、すぐに我に返った。
「はい、仰せの通り、直ちに。」