マリーを動かすもの
「あの…、がれきの下に逃げ遅れた方が何人かいるようなので、早く助けてあげてくれますか?」
マリーのその言葉に騎士たちの意識は一瞬で引き戻された。
「皆、直ちに救助にかかれ!」
中心に立っていた金髪の白いマントをつけたリーダー格とおぼしき騎士が号令をかけた。
「騎士様、少し戻ったところに広場がありましたでしょう?そこに臨時の救護所を設置しませんか?」
マリーは馬から降りたリーダー格の騎士に声をかけた。
「そうだな。カイル、早速手配をしてくれ。この非常時だ。私の警護は一旦はずれていい。」リーダー格の騎士は一人自分の傍らに控えていたこげ茶色の髪の騎士に命じた。
カイルと呼ばれた騎士はマリーに目を向けた後、マント姿の騎士に言った。
「アル様、恐れながら、彼女にマントをお貸しいただけませんでしょうか?女性がこの姿では……。」
「ああそうだな。使うといい…」
アルと呼ばれたリーダーの騎士がマントを流れるような優雅な動作で脱ぎ、マリーに差し出した。
「このように白くて立派なマント、もったいないですわ。」
とマリーが言うと、
「いいから!マントを着て足を隠しなさい!いや、お願いだから着てください!」
とカイルが声をすかさず上げた。少し顔が赤くなっていた。
〝あっ、この声最初に逃げろって言った人だわ
ちょっとぶっきらぼうだけど、いい方なのね…。〟
マリーがマントを受け取ると、カイルは軽くうなずいた後すぐに身を翻し、広場の方へ駆け出していった。
マリーがカイルの後を追って広場につくと、カイルは早速様子を見ながら戻ってきた人たちに声を次々にかけていた。
「ここを臨時の救護所とする!」「医師と薬師をできるだけ呼んできてくれ!」
「怪我をした人をここへ集めてきてくれ!」
「それから、王立病院へも知らせを!医師と薬師の応援を頼んできてくれ!」
「私は医者だ!」「町の薬師だが、手伝うことはあるか?」ドラゴンの襲来を聞きつけ、自発的に来てくれたのか、5,6人の医師や薬師の姿も見られるようになった。彼らはすぐに手近な怪我人の治療を始めた。
マリーの何百年前かの過去世のように、聖女と言われる聖なる力で人々を癒す存在は既にいなくなって久しいが、この時代では医師や薬師が一つの町に一人以上いて、人々の健康を守っていた。
「さてと。」
マリーは借りた白いマントをローブ風になるように身に着けながら、医師たちの動きを観察した。
〝あの茶色の上着の方と、水色のシャツの方が怪我の手当に慣れていそうね…〟
そして素早くまた小間物屋のドアをくぐり、赤色と黄色のリボンを取り、自分の腕の長さほどに何本も切っていった。
リボンの束を手に小間物屋のドアを出ると、再びマリーの中で何かのスイッチが入った。
それは過去世で下っ端の聖女として災害の現場に派遣されたときに入っていたスイッチと同じもののようだった。
今のマリーには聖なる癒しの力はもちろんない。
けれど言葉にすれば〝助けなきゃ!全力をださなきゃ!〟という思いがマリーを動かしているようだった。