ずっと一緒に
カイルの退院が3日後と決まった日、アルベール王太子が治療院を訪れた。
アルベールはカイルを見舞った後、マリーに少し話せないか?と言ってきた。
治療院の小さな庭で、マリーは口を開いた。
「王太子様、申し訳ありませんでした。私の方からお伺いしなければならなかったのに。」
カイルは半ば、マリーの言葉を遮るように言った。
「いや、いいんだ。何も言わなくて。君は、カイルを選んだのだね?」
マリーは静かに頷いた。
「そうか…。君の未来に幸多からんことを祈っている。
ただ、これだけは忘れないでいてほしい。私はいつまでも君の味方だ。」
アルベールは、もっとマリーに言いたいことがあった。
今までの感謝をもっと伝えたかった。マリー自身が気付いていないマリーの素晴らしさをもっと語りたかった。マリーの未来をもっと言祝ぎたかった。
けれども、胸が詰まり、言葉にすることが難しいと感じたアルベールは、せめともと、最後にマリーの右手を握り、思いのこもった友情としての握手を交わしたのだった。
アルベールを庭で見送った後、マリーが、カイルのいる部屋へ戻ろうと振り返ると、出入り口の柱にもたれてカイルが立っていた。
「カイル、大丈夫なの?」
マリーがカイルの元へ近づき聞くと
「大丈夫だよ。少し歩くのにも慣れないと。」と言った。
そして、「よかったのかい?」とマリーに聞いてきた。
カイルは、マリーがアルベールに求婚されていたことを、とっくに知っていたようだった。
「本当のことを言うとね、王太子妃の地位は魅力的だったわ。」
マリーはカイルの顔を見て、いらずらっぽく微笑みながら言った。
しかし、カイルが「え?!」と少し衝撃を受けた顔をしたので、慌てて言った。
「少しだけね。」
そして、笑顔で続けた。
「だって、クレアやミリエルやみんなの夢を応援できるでしょう?でも、孤児院での王女さまのお姿を見て思ったの。その人自身の未来を掴む力を信じようって。
だって、私たちはどんな花にもなれる、何にでもなれる…そうでしょう?」
カイルは、マリーのことを眩しそうに見つめた。そしてその場に跪いた。
そして、マリーのワンピースドレスの裾を手にとり、その裾にキスをして、マリーを見上げて言った。
「マリー、私はこの命をかけて、君を愛し、君を守ると誓う。ずっとそばにいてくれないか?」
カイルを見つめるマリーの目に涙が溢れた。
「はい。私もずっと一緒にいたいです。」
マリーの返事を聞いたカイルは、立ち上がって、喜びのあまり、マリーを肩の上まで抱き上げようとした。しかし、すぐに肩と胸に痛みを感じ、「痛ててっ」と言ってマリーをそっと下におろした。
「カイルったら!?」と言いながら、やさしく微笑むマリーをカイルは抱き寄せ、二人はいつまでも互いの温もりを確かめ合っていた。
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