いろいろ混乱しています
学園への訪問から帰ってきた当日も、その翌日も、マリーはボーっとして心ここにあらずと言った風情だった。熱でもあるのではないか、とマリー付きの侍女が医師を呼ぼうとしたくらいだった。
マリーにとって、カイルは大切な人だ。カイルにとって自分もそうだと思っている。
でもそれは、どういう意味の〝大切〟なのだろう?
〝あのキスは、カイルは私のことを、女性として,好きだとか、愛しいとか、思ってくれているということなの??? じゃあ、私は? カイルのことが、好き…??〟
マリーは、頭の中がぐるぐると混乱してきた。
そして、その日の夕方、突然アルベール王太子がマリーを訪ねてきた。
アルベールは意を決したような顔をして、マリーを庭園への散歩へ誘ってきた。
夕方の風が心地よかった。マリーはアルベールと北棟の広い庭園を歩きながら、ほんやりと侍女時代に丹精を込め手入れをしていた薬草園のことを思い出していた。
〝庭師さんにお願いしてきたけど、今はどんな感じになっているかしら?。あぁ~土いじりしたい…。〟
「マリー・ブランシェ伯爵令嬢。」
急にアルベールがマリーに呼びかけた。
「はい、なんでしょう!?」とマリーが答えると、
アルベールがその場に立ち止まり、背中から真っ赤なバラの花束を取り出してきた。
そのバラの本数は、5本だった。
「マリー、私と結婚してほしい。」
アルベールはそう言って、マリーに花束を差し出した。
バラの香りがふわりと香った。
「5本のバラの意味は…〝あなたに会えた心からの喜び〟だ…。」
そう言ってマリーの片手を取り、手のひらに優しくキスをした。
手のひらの、アルベールが触れたところが、熱を持った。
「君といると、私の世界が鮮やかに色をつける。君といると、とても息が吸いやすいんだ。
どうか、私と一緒にこの国とこの国の民を支えてほしい…。」
「王太子さま…。」
「返事は、ゆっくり考えてくれていい…。」
突然の王太子からのプロポーズに、マリーは更にボーっとなってしまった。
やはり、と医者を呼ぼうとした侍女を、女官長が止めた。
折しも、その次の日は、神官長との面談の日だった。
マリーは思い切って、神官長に、王太子よりプロポーズされたことを相談した。
「マリーさんは、王太子様のことがお好きですか?」
神官長はストレートに聞いてきた。
「……尊敬申し上げています…。見つめられると、どきっとします…。」
マリーの答えを聞いて、神官長は微笑んだ。
マリーは戸惑いながら、言葉を続けた。
「王太子様と結婚するということは、王太子妃となるということ…、恐れ多いことだと
思います。
けれど、王族になれば、もっと大切な人たちの助けになれるかもしれないとも思うのです。ミリエルやクレアの夢を応援できるかも…と。カリナのように、夢を実現させたい少女たちのために、もっとよい仕組みを作ってあげられることができるかも…と。
私はずるい人間なのでしょうか…?」
「マリーさん、そのようなことはありません。今あなたが話されたことは、大切なお友達や他のひとたちのことですよね。そこに己の欲がなければ、尊いことだと、私は思いますよ…。
自らの魂の声に耳をすませてみてください。魂は神様と繋がっていますから、きっと答えを知っていますよ…。」
神官長は、穏やかに、マリーの心に染み渡るような声色で言った。
「それから、今日で定期的な研究協力と面談は終わりにいたしましょう。」
「え!?」
マリーは神官長の突然の言葉にマリーは驚いた。
「マリーさんのおかげで、水晶玉の研究もだいぶ進みました。それで、結局は、我々は水晶玉の力に頼りすぎるのもよくない、という結論に達したこともあります。
マリーさんにお預けしている3つの小型の水晶玉はそのままお持ちいただいて結構です。
そして、いずれ神殿へお返しいただければ結構ですので、ご子孫にでもそのように伝えておいてください。」
〝子孫に、って……。〟
神官長の言葉に、マリーはあっけにとられた。