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王女様のお言いつけ

 アンヌ王女と、王女の絵画指導を担うことになった、トマ・フルニエ氏の初顔合わせが設定された日、アルベール王太子とマリーは、共に馬車で学園へ向かった。

 その日は、アンヌ王女のたっての願いがあったらしく、カイルも王太子の護衛として馬で同行していた。

 

 マリーは、久しぶりにカイルの姿を見ることができたことが嬉しく、馬車の窓から外を覗き込んでは、カイルの姿を探し、目で追っていた。


 学園では、まずアンヌと学園長がアルベールとマリーを出迎えてくれた。

 学園での生活が充実しているのか、アンヌは短い間に、少し大人びた雰囲気になっていた。

マリーとアンヌは互いの手を握りあった。それだけで、互いの思いが通じ合う気がした。


そして、一行は、校舎の一階の応接室に案内された。

応接室のソファに座っていると、すぐにトマとジルが案内されてきた。


「王太子殿下、王女殿下、この度はご尊顔を拝す機会をいただき、光栄に存じます。」

トマとジルは最敬礼をした。


「よい、楽にせよ。」アルベールが皆に着席を促した。


「フルニエ先生、アンヌです。これからご指導をどうぞよろしくお願いいたします。」

というアンヌの言葉に、

「微力非才の身ではございますが、王女殿下が絵に親しんでいただけるよう力を尽くします。」

と、トマは穏やかに、けれど力強く返した。


「ところで、フルニエ先生、お加減はいかがですか?」

アンヌは、トマの脳卒中の既往と、手足に麻痺が残っていることを、学園入学の少し前に、マリーに聞いていた。


「手の方は、ほぼ以前と同じように絵筆が持てるようになりました。足は、長距離だと杖を使わなくてはなりませんが、ここに来るのには支障はありません。

両殿下と、マリー様とカイル様のお陰でございます。」

そう言うトマに、

「それは、よかったです。」とアンヌは微笑んだ。


学園長とも相談し、アンヌの絵の指導は、月に3回、放課後に1階の空き教室をかりて、行われることとなった。


話が一段落して、トマとジルが部屋を退出するときに、アンヌが口を開いた。

「マリー、トマ先生とジルさんをお見送りしてきていただけるかしら?そしてその後は、学園内を散歩するなどして時間を潰してきてほしいの。私は久しぶりにお会いしたお兄さまに相談したいことがたくさんあるのです。」


「相談したいことがたくさん?」

マリーが少し心配になり、アンヌの顔を見ると、アンヌはにっこりと笑い、マリーにだけ見えるようにウインクした。


「?さっきのウインクは、しっかり兄上様に相談するから、心配ないわ、という意味だったのかしら?」

そう思いながら、マリーはカイルと共に、王城から手配された馬車のところまでトマとジルを送っていった。

トマは片手で杖をつきながらではあったが、スムーズに歩行できていた。

カイルはトマの歩行の様子を温かい目で観察している様子だった。


「それでは、トマ先生、ジルさん、どうぞお気をつけて…。

お身体をお大切になさってくださいね。」

マリーが挨拶をすると、トマが言った。


「王女様は、とても澄んだよい目をなさっているお方ですね。きっとすばらしい絵をお描きになられるようになると思います。

この年になって、このようなご縁をいただいて、本当に幸せです。

マリー様、カイル様、ここまでお導きくださって本当にありがとうございました。」

そして、ジルと共に深々と頭を下げた。


馬車に乗り込むときにも、「ほら、足元に気を付けて」「わかっとる」などと生き生きとした笑顔を見せ、会話をする、仲の良さそうなトマとジルの姿を見て、マリーの胸は熱くなり、滲んでくる涙をそっと拭った。



王女さまのお言いつけ通りにと、マリーはカイルを散歩に誘った。

以前自分が学園に通っていたときと、変わっているところはないかしらと、マリーはキョロキョロしながら散策を楽しんでいた。

カイルは、集中して微細な気配を感じようとしたが、隠密がこちらを観察している雰囲気はなく、そっと息を吐いた。


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