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見習い女官はつらいよ

 王太子が退出した後、マリーは女官長から今後のカリキュラムについて聞かされた。

まず明日からおおよそ90日位は講義づけとなり、その後は業務を通じての実習になる予定、とのことだった。


 その夜、マリーは新しい部屋の豪華な寝台の上で、なかなか寝つくことができなかった。

部屋も寝台も、とても広く、静まりかえっていたので、まるで世界の中で自分が一人きりのような…そんな気分になっていた。

「カイル…どうしているかなぁ?」

マリーは、カイルの姿をしばらく見ていなかった。

マリーは、カイルの顔を思い浮かべながら、聖養母の子守歌の旋律をそっと口にした…。



 翌日から、マリーの勉強漬けの毎日が始まった。

複数の教師が入れ替わり立ち替わり、マリーの部屋を訪れ、国の歴史、王家の歴史、国内の地理と主要産業、諸外国の歴史、文化等々、多岐に渡る講義を行った。


〝女官になるための講義って、こんなに凄いものだったの?!〟

講義の内容は、学園で学んだものよりも、ずっと広い範囲で、詳しく深いものだった。


中でも、女官長担当の、淑女のマナーの徹底したおさらいと、外国の要人に会うときの挨拶の仕方や会話の仕方、話題の選び方などについての講義は厳しいものだった。


〝恐るべし!女官教育!!〟マリーには、時折女官長が、鬼に見えた。


〝それにしても、外国の要人との話題の選び方なんて、女官にはいらないスキルだと思うのだけれど…。王女様にアドバイスするために勉強しないといけないのかなぁ…?〟

と、たまに不思議に思う講義内容もあったが、日々の課題の多さにより、その疑問はマリーの意識から流れていった。


 アルベール王太子は、頻回にマリーの様子を見にきていた。

そして来るたびに、マリーに小さな贈り物を渡してきた。


それは、街で評判のお菓子や、かわいい小間物、花などであった。

花は、ピンク色のバラ3本の花束であることがほとんどだった。


マリーは、アルベールに何度も「プレゼントは遠慮したい」と言った。

しかし、「がんばっているマリーに、私が贈りたいだけだから。」と言って聞いてくれず、贈り物は続いていた。


 マリーが怒涛の講義に慣れてきたころ、ダンスのレッスンもカリキュラムに加わるようになってきた。マリーは、ダンスに苦手意識はあったもの、音楽に合わせて身体を動かす時間はとてもよい気分転換になっていた。



そんな中、画家のトマ・フルニエより、マリーの元へ手紙が送られてきた。

体力がついてきて、長時間の外出も可能になったので、ぜひ、アンヌ王女様への絵の指導を始めさせていただきたい、とのことだった。


 アンヌ王女は、現在、学園の寄宿舎の、王族用の部屋で暮らしていた。王城と学園はそれほど離れてはいないので、十分通える距離であり、歴代の女性王族は寄宿舎に入らないことも多かった。しかし、アンヌは、今までと同じ暮らしをしていると、甘えてしまうから、と、寄宿舎暮らしを選択していたのだった。


 その日も、当たり前のように、アルベールは、マリーの休憩時間に合わせて部屋を訪れ、ゆったりとくつろいだ風情で、お茶に同席していた。

前の時間の講義を行っていて、そのまま残っていた女官長は、執務中には決して見せない、アルベール王太子のリラックスした表情に内心驚いていた。


マリーから、フルニエからの手紙の話を聞いたアルベールは、

「それでは、トマ・フルニエ氏に学園の方に来ていただくか?」と言った。


「それは、よいお考えだと存じます。フルニエ先生にとっても、いきなり王宮へいらっしゃっていただくよりは、ずっと負担が少ないかと思います。学園内は、馬車を建物近くにに寄せられる場所も多いですし、段差も王宮よりは少なくて歩きやすいと思います。」

と、マリーは答えた。


「それでは、そのように手配しよう。

そうだ、アンヌとフルニエ氏の初顔合わせのときには、マリーも私と一緒に学園に行かないか?良い気分転換にもなるだろう?」


「はい。ぜひ。」

女官長の指導の賜物か、マリーは込み上げてくる嬉しさをこらえて、優雅に返事をした。


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