新しいお部屋です
速いスピードで歩く、女官長に一生懸命ついていきながら、マリーは尋ねた。
「あの女官長様、女官見習いは部屋をいただくことはないと、聞いておりますが?」
「いいえ、あなたには部屋を賜りました。アルベール王太子殿下の御指示です。」
〝え~!?王太子様の? 何か嫌な予感がする…〟
マリーは心の中で思った。
マリーの嫌な予感が当たった…。
案内された部屋は、メインの北棟の隣、離れの中にある、豪華な部屋だった。
〝?? 広さといい、家具といい、調度品といい、今までの部屋より、4ランクくらい上がっていない? 何か、わからんけど…?〟
混乱してきて、マリーの頭の中のつぶやきがおかしなものになってきた。
「あの、女官長様!?こちらのお部屋は?」と聞くマリーの言葉に、
「外国からの賓客に使われるお部屋ですね。」
女官長がさらっと答えた。
「今までのあなたの部屋から、荷物をすべて運ばせてあります。」
「!!?」
もはや言葉にならなかった…。
女官長が、ベルをチリンと鳴らした。
落ち着いた中年の侍女らしき女性2人と、マリーと同世代の、お仕着せを着た下女2名が現れた。
「マリーさんのお世話を担当する者たちです。」
「………!?!」
マリーの混乱が頂点に達したとき、
「やあ、マリー、やっときたね。」
安定の華やかさをまとわせて、アルベール王太子がやってきた。
女官長がさっとお辞儀をしたので、マリーもそれにならう。
頭を上げた後、無意識のうちに、マリーは目でカイルの姿を探してしまった。
しかし、カイルの姿はなかった。
「マリー、この部屋は気に入ってくれた?」
アルベールが笑顔で聞いてきた。
「あの、王太子殿下、このお部屋は、何かの間違いでは…?」
マリーが恐る恐る言うと、
「間違いではない、君の部屋だよ。」とすぐに返された。
「女官長、マリーへ今後についての説明はしたか?」
「いいえ、王太子殿下からお願いいたします。」
アルベールはマリーに向き直り話し始めた。
「マリー、君には、早急に一人前になってもらいたい。
そのために見習いではあるが、集中して学んでもらうために部屋を用意した。」
「早急に…と言いますと?」
マリーが怪訝そうに聞いた。
「できれば半年後には、君をアンヌの専属女官にしたいと考えている。
アンヌが非常に成長し、やる気を見せていることもあるが、
実は、さる国から縁談の話が打診されていてね…。」
「え?」とマリーが息を飲んだ。
「もちろん、まだ打診の段階で、我が国としても、まだどうするかは決めてはいない。
しかし、これをきっかけに父や母とも話していたんだ。可能であればアンヌを、我が国が誇る、どこへ出しても恥ずかしくない、立派な王女として更に成長させてあげたいと…。
学園に入学したばかりではあるが、アンヌには、多くの公務を経験させてあげたいと考えている。」
アルベールが、少し憂いを帯びた顔で、マリーに向けて微笑んだ。
〝王太子様わかります…っ アンヌ王女のお可愛らしさは、全世界へ披露目するべきものですよねっ。〟
マリーは、両手を握りこぶしにして、アルベールに、うん、うんと頷いた。
「かしこまりました、王太子様!
不肖、マリー・ブランシェ、アンヌ王女様のために一日も早く、一人前の女官になります!!」
そう宣言するマリーの姿を見て、
アルベールは「あ、あぁ、頼んだよ…マリー…。」と
首を傾げながら言い、
女官長は「握り拳…マイナス30点」とつぶやいていた。