それぞれの道が続きます
「今日は、皆に、礼を述べるために、この場を設けました。皆、アンヌ王女のためによく働いてくれました。改めて礼を申します。」
王妃の言葉に、一番先輩格で高位令嬢のミリエルが代表して答える。
「もったいないお言葉でございます、王妃陛下。私たちこそ、王女殿下にお仕えでき大変幸せでございました。」
「私も王太子も、皆の献身に報いたいと思っています。今日はどうか皆の今後の希望などを聞かせてほしい…。」
と、言う王妃の言葉に
「それでは、これは〝未来の相談お茶会〟というわけですわね?」
と、アンヌ王女が、少しおどけて言った。
王女の花のような笑顔に、一気にその場が和んだ…。
〝王女さま!さすがの可愛らしさですっ!〟
マリーが心の中で悶えたのは言うまでもない。
まずはミリエルが口を開いた。
「ありがとうございます。私は、今後は予定通り、結婚相手を探すことに本腰を入れたいと思います。
ただ、できれば、将来、外務大臣や外交官になれるような優秀な方とご縁があれば、と願っております。」
「ほう?外務大臣か外交官か?」
アルベール王太子がミリエルに聞いた。
「はい、王太子殿下。僭越ながら、私は外交に携わりたいと考えるようになりました。マリーさんの手伝いをするうちに、相手と自らと、世の中のメリットを考えながら行う、社交と交渉事というのは、とても面白いものだと思ったのです。外務大臣や外交官の妻なら、夫を助けながら、手腕を発揮することがきっとできますでしょう?」
ミリエルは、微笑みながら、ハキハキと答えた。
「それに、ミリエルなら、どこででもファッションリーダーになれますわ。」
アンヌ王女が、いつもおしゃれでセンスがよいミリエルのことを褒めて言った。
「王女さま、ありがとうございます…。」
ミリエルが珍しく、はにかんだ様子を見せた。
「それならば、私もそのように心がけておきましょう。もし、我が国の中に適当な殿方がいなければ、他国からも探してみましょうね。」
王妃が微笑んでミリエルに言った。
ミリエルは、思ってもみなかった、最強の婚活の味方を得たようだった。
「私は、叶うことなら、政務官見習いの試験を受けたいと思っております。」
次に口を開いたのは、クレアだった。
「私は女性ではありますが、ずっと以前より、土木建築史と土木工学を学ぶことが好きでした。
いくら好きでも、何の役にも立たない…と思っていましたが、ある日マリーさんに〝好きなものは好きでいい〟と言われました。それで自分の好きなことを活かせる道を、考えるようになったのです。
いずれは、国の土木建設事業に微力ながら携わらせていただきたいと願っております。」
「クレアならきっとできると思うわ。だって、クレアが一番わかりやすく勉強を教えてくれましたもの。授業の補助資料を度々集めてくれて、本当に助かっていたのよ。」
アンヌ王女の心からの言葉を聞き、今度はクレアがうれしそうに、はにかんだ。
「私も〝好きでも役に立たなければ意味がない〟って思っていたけれど、クレアを見習って、好きなことを活かす道を考えてみるわ。」
アンヌ王女の言葉に、王太子が頷いた。
「ところでクレア嬢は、政務官を目指していることについて、ご両親の了承は得ているのかな?」
と、王太子がクレアに尋ねた。
「お恥ずかしいのですが、まだなのです、王太子殿下。」
「では、私の方からお父君のバレル子爵へ書簡を送っておこう。
クレア・バレル嬢を政務官見習いに推薦したい、とね。
君なら採用試験にも楽々通るだろう。」
「ありがとうございます。王太子殿下。力を尽くします。」
と答えた、いつもはクールなクレアだったが、余程うれしかったのか、その瞳は少しだけうるんでいた。




