10年に一度の災害に出会っちゃった
「ドラゴンだ!」「ドラゴンが来たぞ!」
「逃げろー!!」
カフェのテラスの前の道を次々と必死の形相で人々が走りこんでくる。
マリーはとっさにテラスから道へ飛び出し、ズズ~ン、ガラガラ、と地響きがする方向に目を向けると、土埃の中街はずれの商家の屋根に、家一軒と同じ大きさの土色のドラゴンが足をかけている姿が見えた。大きなしっぽを振り回し、赤く光る眼がギラギラ光っている。
「ドラゴン!今の時代では数が減っているはずなのに…」
今、マリーが生きている時代はドラゴンは世界に30匹くらいしか存在しないといわれていて、マリーの国ではドラゴンが街や人家を襲うような出来事は10年に一度あるかないかという頻度だった。
「でも、幸い人食いドラゴンではなさそうだわ。人を狙うよりは建物を壊してばかりいるもの。戯れに街を壊しにきたのかも?それならまだ被害を少なくできるかもしれない。」
人食いドラゴンは人の味を覚えてしまったドラゴンで、人食いドラゴンが街を襲えば、ドラゴンが満足するまで人を襲撃し食らうため、最悪10人以上の死者が出てしまうことがあるのだった。
土色の土ドラゴンは他の竜種よりは体が大きいので、家くらいのサイズでもまだ成竜前の若いドラゴンの可能性がある、人を追いかけまわしている気配はないし、ドラゴン特有の気まぐれで街を破壊しにきたのかもしれない…とマリーはとっさに判断したのだ。
マリーの中で何かのスイッチが入った。
思うより先にドラゴンの方へ駆け出した。逃げてくる人たちとは逆の方向へと走る。ドラゴンまであと一区画までの少し開けた広場で子どもが蹴って遊ぶ玉を見つけた。
〝これは使える…〟
〝それから…〟広場の角に無人となってしまった小間物屋を見つけたマリーは
「ごめんください。非常時だから勝手をすることを許してください。」とつぶやきながら店内に入っていった。
そして、色とりどりの女性の髪用のリボンが並んであるコーナーを見つけ、透明なビーズがところどころ縫い付けてある、華やかで赤と黄色のリボンを玉にグルグルときつく巻きつけていった。
そしてコーナーの隅に置いてあったハサミで、リボンの端を切り処理をし、次に迷わず自分の外出用デイドレスを裾にハサミを入れジャキジャキと切っていった。
ドレスの後ろ側はハサミを入れることができないので、切れ目から引きちぎる。
「フン!」ビリビリ~と音が響き、あっという間にドレスは無残にも、辛うじて膝丈まで一周覆うほどの布切れと化した。
「よし!」マリーはリボンを巻きつけたボールを持ち、石畳の道をドラゴンの方向へ走りだした。