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スペシャルなお茶会です

「まるで、今まで切れていた手足の配線が、急にまたつながるようになった感覚でした。

それでも、以前の3割くらいの動きか、と思っていたところ、次の日にカイル様が来てくださいまして…。硬くなった関節のほぐし方や、ベッドの上や椅子の上でもできる、体幹、手と足、それぞれの筋力をつける訓練の方法を教えてくれたのです。

本当に、ありがたいことです…。」

と、トマがマリーに柔らかく話した。


「マリー様、父さんは、カイル様が教えてくれた訓練を毎日頑張っているんです。

もう右手でフォークを持つことができるようになったし、杖を使って少し歩くことができるようになったのですよ。」

息子のジルがうれしそうに言った。


「すっかり筋力が衰えてしまっていたから、コツコツとやっていかないとな。」

と、力強く言うトマの様子は、自らの希望と可能性に、しっかりと目を向けているようで、マリーは安堵し、うれしくなった。


「マリー様、王女様に絵をお教えせよとのご依頼ですが…、お受けしようと思います。」

トマの言葉に、マリーは驚いた。


「よろしいのですか?」


「はい、もう少し長い距離を歩けるようになってから、ではありますが…。

マリー様が大切に思っていらっしゃる、王女様にお会いすることを励みにしたいと思います。」


「はい、ぜひ!私もトマさんに王宮でお会いできるのを、楽しみにしています!」

王女がトマから楽しそうに絵を学んでいる姿が、ぐっと現実に近づき、マリーの胸は躍った。



トマ・フルニエ氏が、まだ後のことにはなるが、自分の絵の教師役を引き受けてくれたと、マリーから聞き、アンヌ王女は一つの大きな決心をした。


「マリー、私は学園に入学することにしたわ。」

アンヌ王女のその言葉にマリーは驚いた。


「それは!とても良いことだと思います…。

よくご決心なさいましたね。」


「あのね、マリー、私はこれでも、マリーのことをこの1年よく見てきたつもりよ。

マリーはいつだって、自分に自信があるとかないとか、できるとかできないとか、そんなことは関係なく動くでしょう? 余計なことは考えないで、ただ自分の望むところに向かっていっているという感じというか…? 私も、そんな風にしてみたいって思ったの!」

アンヌの、はにかんだような明るい笑顔は、いつもにも増してマリーには可愛らしく、でも頼もしくも見えた。


アンヌ王女の、学園に入学したいとの申し出は、王と王妃、兄のアルベール王太子を、とても喜ばせた。

そして、王女が学園に入学するとなると、主に話し相手としての存在の若い侍女たちは、王女には必要なくなる。従って、いよいよマリーたちは、王女付きの侍女勤めを終えることとなった。


王妃と王太子は、マリーが王女を導き支え、ミリエルとクレアが、王女とマリーを支えてくれてきたことを知っていたので、彼女たちの今後の希望を、できるだけ叶えてやりたいと考えていた。


 王妃は、マリーたち、王女付きの若い侍女たち三人を、自らのお茶会に招くことにした。

貴族令嬢で、行儀見習いのために侍女として伺候した者としては、めったにない誉れだった。

 

天気のよい、ある日の午後、王妃の居室に続く、広々としたサンルームで、そのお茶会は開かれた。

王妃、王太子、王女と、マリー、ミリエル、クレアの前に、おいしいお茶と、王宮料理人が腕によりをかけた、テーブルに並べきらないほどのケーキや菓子、軽食がどんどん並べられていく。


マリーは早速ケーキや菓子を頬張りながら思っていた。

〝どれも絶品です。これ絶対に余ると思うんだけど、下女の皆さんたちにお土産に持って帰ってもいいか、後で聞こうかしら?〟


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