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小さな約束

 神官長は、カイルがマリーを抱きしめる前に、いつの間にか水晶玉をマリーから離していた。


 カイルがしばらくマリーを抱きしめていたので、

「カイル、カイル…」と、マリーは自分を抱きしめているカイルの肩をトントンと軽く叩いた。

カイルは、はっと我に返り、腕を解いてマリーを離した。

マリーは、カイルの温もりと、いつもの彼のコロンの香りが遠ざかり、少し寂しいような気になった。


 しかし、傍らに立つ神官長の姿を見て、マリーは状況を察した。

そして、「神官長様、ありがとうございました。」と、神官長に向かって深く頭を下げた。


「マリーさん、もうこんな無茶をしてはいけないよ。」

神官長は静かに重々しく言った。


マリーは神官長の言葉に頷き、自分の右手を握り続けているカイルの方へ向き直った。


「カイル、ありがとう…。カイルは…ロディだったのね…?」

マリーがそっとカイルに問いかけると、

カイルは「ああ」と短く答えて、うれしいような、困ったような顔をした。

よく見ると、カイルの茶色の瞳はわすかに濡れていた。


カイルの瞳の中に、かつての泣き虫だったロディの存在を確かに感じ、マリーは優しくカイルに微笑んだ…。



 水晶玉のお陰で、すっかり回復していたマリーは、翌々日の王城での神官長との面談で、事の経緯を説明した。

神官長の話によると、飽和していた大型の水晶玉の〝癒しの力〟を半分程度マリーに対し使ってしまったらしい、とのことだった。そのことは、マリーは非常に申し訳なかったと思った。


 今回、より激しくダメージを負ってしまったのは、このマリーとしての身体の器の小ささと、かつての世界と神殿に満ちていたであろう神気の減少のためではないかと、マリーは考えた。



 神官長との面談から王宮へ戻る帰り道、マリーとカイルはゆっくりゆっくり歩いていた。


「カイルは、どうして私がシルヴィだとわかったの?」と、マリーが口を開いた。


「初めて会ったときに、一気に過去世での記憶が甦って、そのときから、そうかな?とは思っていたんだ…。でもはっきりわかったのは、建国祭の花火のときに、庭園で、聖養母さまの子守歌の旋律を君が口ずさんでいるのを聞いたときかな?」


「ああ、あれ?聞いていたの?」

マリーは恥ずかしそうに頬を染めた。

「自分がロディだって、早く言ってくれればよかったのに…。」


「ああ…そうだね。ごめん…。」

カイルが歯切れ悪く答えた。


「ねえ? 聖養母さまも、私たちみたいに、どこかで生まれかわっていらっしゃるのかしらね?」

マリーはずっと心に思っていたことを、カイルに聞いてみた。


「いや、聖養母さまは、とても清らかな方だっただろう? だから、その魂はもう地上に降りることはなく、ずっと天にいらっしゃるんじゃないかと、俺は思っているんだ…。」

カイルが静かに答えた。


「そうね、そうかもしれないわね…。」

マリーが少し寂しそうに言った。


「そうだ、今度、子守歌の歌詞を教えようか?俺は思い出したから。」

カイルがマリーの気持ちを引き立てるように言った。


「本当?うれしい。約束よ?」

「ああ、約束だ。」


思えば、過去世で、それぞれが本格的な修行に入ってからは、〝約束〟なんてすることはできなかったな、とマリーは思い出し、カイルと交わした小さな約束は、マリーにとって宝物のように思えた。


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