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隠密の働き

 マリーは、カイルをその瞳にとらえて、ほのかに微笑んだが、すぐにまた意識を失ってしまった。カイルの頬を撫でた右手も、パタリと下に落ちた。


「シルヴィ!」

カイルは思わずマリーの身体をかき抱くが、マリーの身体はますます冷えていくようだった。

カイルは、頭の中で過去世での記憶を駆け巡らせた。しかし、マリーが聖女だったときに、無理をして癒しの業を行ったときでも、ここまでの顔色の悪さと身体の冷たさを呈したことはなかったように思われた。


カイルの切羽詰まった声に驚き、ジルが部屋に入ってきた。


トマは目を閉じ横になっていた。そしてそのベッドの傍には、マリーが倒れ、カイルはそのマリーを抱きかかえていた。


「お嬢様!?」驚いたジルが声をあげた。


「ジル、お父さんは大丈夫だ。おそらくは眠っているだけだ。

すまないが、今度はマリーの方が緊急の状態だ。失礼する。」

カイルは、ジルにそれだけ言い、マリーを横抱きに抱え上げて駆け出した。


そして、玄関の扉の前で立ち止まり、誰もいない空間に向かって、

「影!」と、大きくはないが鋭い声を放った。


すると、一瞬の後、カイルの足元に、跪く黒装束の男が一人現れた。

「マリー嬢が、仮死状態に陥った。刻一刻を争う。

神殿に行って至急、神官長に知らせてくれ、私もこれから向かう。」

カイルは、男に短く指示を出した。


男は無言で頷き、また一瞬で姿を消した。


男は、アルベール王太子付きの隠密の一人であった。

カイルは〝影〟と呼ばれる隠密の存在についてだけは、王太子から聞かされていた。

従って、マリーが今日のように王宮の外に出るときは、〝影〟はマリーの警護を密かに命じられているだろう、そして何事かあれば、彼女の命と安全を守ることを第一義とすることも命じられているだろう、とあたりをつけていたのだった。

 

 カイルは意識のないマリーを抱えながら馬に乗り、中央神殿まで駆けに駆けた。

そして、中央神殿に着くと、大神殿の入り口のところで神官長がカイルを待っていてくれた。


〝ありがたい…〟カイルは〝影〟の働きと、神官長が今日この時ここにいてくれたことを感謝した。

神官長は、カイルに抱えられているマリーの顔色の悪さを見てとり、入り口に近い一室に案内した。

カイルがすぐに、部屋の3人掛けのソファにマリーを横たえる。そして手を離すときにはマリーの乱れた髪を軽くかきやり整えてあげた。マリーに触れたカイルの指は、まだその頬の冷たさを伝えていた。


マリーの傍に近づき、手を取った神官長も、その手の異様な冷たさに驚いた。

「マリーさんは〝癒しの業〟を直接施したのですね?」

神官長の質問に、カイル「はい」と答えた。


「かなり生体エネルギーが失われています。

やはり水晶玉を使うしかないでしょう。」

神官長がそう言うと、お付きの神官が、ワイン色のビロードの包みから、大型の白く輝く水晶玉を取り出した。

神官長は、それを受け取り、マリーのみぞおちに両手でそっと置いた。

神官長が目を閉じると、水晶玉が強く輝き、そしてマリーの身体全体が白く光った…。


終わってみれば、一瞬の出来事だった。

マリーの身体を包んだ光が消えると、マリーの顔には生気が一気に戻り、頬はバラ色になっていた。そして、まぶたが上がり、のぞいた若草色の瞳にもいきいきとした光が戻ってきていた。


「マリー!」カイルはマリーに駆け寄り、マリーを抱きしめた。

〝温かい…、よかった…。〟

カイルは目に涙が滲んできたのを、必死でこらえようとした。


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