生きる自由?
カイルがよく目をこらすと、窓から差す日の光の中でも、薄っすらとトマの胸部が白く光ったのが見えた。
その後、突然「ゴホッ」とトマが咳き込み、目を開けた。
「父さん、父さん!」
ジルが涙を流しながら、父親のトマに取りすがる。
トマは、マリーの顔と、足の方に取りすがっているジルを一瞥して言った。
「死ねなかったのか…。お嬢さん、俺に何かしたのか?
無駄なことを…。」
マリーは、トマの目の中の絶望の色がまた更に濃くなったように見えて、
身震いをした。
「トマさん、あなたは、また自殺を図る気ですね?」
マリーの問いかけに、トマは何も答えなかった。
〝このまま放っておいたら、この人は死ぬ…。〟
マリーはそう思った。
「カイル、申し訳ありませんが、ジルに部屋の外に出ていってもらってください。」
マリーがそう言ったので、カイルは、マリーが診察や話をするのだと思った。
ジルに「大丈夫だから。我々に任せて。」と声をかけて、ジルを退席させ、カイルはまたマリーの傍に戻った。
虚ろな目をして、ただ天井を見ているトマに、マリーは話しかけた。
「トマさん、ジルさんのためにも、生きようとしてくれませんか…?」
「俺の命だ、生きるのも死ぬのも俺の勝手だろ?」
「いいえ、生きているのではなく、人は、生かされているのですよ。」
マリーは静かにポケットから、もう一つ水晶玉を取り出した。水晶玉は白く美しく光輝いていた。
カイルは、息を飲んだ。
マリーは、ジルの左頭部に水晶玉をあて、目を閉じた。
直後に水晶玉が一瞬強く光り、薄い光がトマの頭部を包んだ。
「ううっ…」トマが目を閉じうめいた。
意識レベルが少し落ちたようだった。
マリーは、目を閉じながら言った。
「だめだ、足りない。もう少しなのに。」
カイルが見ると、水晶玉からは光が消え、ほぼ透明になっていた。
マリーは目を開き、手に持っていた晶玉、先ほど使用したと思われる透明な水晶玉、
ごくうすく白くなっている水晶玉の三つを、カイルに差し出した。
「ごめんなさい、これを預かっていてほしいの。」
「? マリー?」
「直接の癒しをするわ。カイル、倒れそうになったら支えてね…。」
マリーはそう言い、すぐに左手をトマの左頭部の上に置いた。
「やめろ!マリー!」カイルがそういう間もなく、マリーが集中を始める。
〝神様、この人に祝福をお与えください〟マリーはそう強く祈った…。
ぐらりとマリーの体が大きく傾いたのを、カイルはしっかりと支えた。
しかし、マリーに意識はなく、その顔色は真っ青だった。
「マリー、マリー!」カイルが必死で呼びかけても、マリーの目は開かず、抱えている体はどんどん冷たくなっていった。
「マリー!マリー!……シルヴィ!」
「シルヴィ!目を開けてくれ!シルヴィ!」
カイルの声に、マリーがうっすらと目を開けた。
いつもは若草色にきらめくその瞳が、睫毛の影で深い緑色に見える。
「なあに?ロディ? あれ?カイル??」
マリーの手が、カイルの頬にのび、その指が気遣うように愛おし気にそっとカイルの頬を撫でた。