月明りの下で
カイルがバルコニーでマリーの姿を探し始めたときには、既に花火の打ち上げは始まっていた。
大広間のバルコニーはつながっていて広かったが、花火を見る多くの人たちで混みあっていた。
花火が打ち上がるたびに歓声が上がる中、カイルは満月の月明りと、打ちあがる花火の光を頼りにしながら、マリーを探していた。
すぐに見つかると思っていたのだが、なかなかマリーが見つからないので、カイルは焦ってきた。
〝やっぱりあの人は、目を離すとすぐにどこかに行ってしまう…〟
カイルは、もしかすると、マリーはバルコニーから庭園の方に降りていったのではないかと、ふと気がついた。
カイルが、庭園へと続く数段の階段を降りていく頃には、花火の前半の打ち上げが終わり、小休止に入っていた。
花火の打ち上げの、ヒュ~という音、花火玉が破裂するドーンという音が聞こえなくなった。
また、庭園へと兄を踏み入れると、人々の喧騒も遠くなってきていた。
ふいに、カイルの耳に、細く小さな女性の歌声が聞こえてきた。
歌詞はなく、ハミングで歌っているようだった。
低くどこか哀愁を帯びたその旋律は…カイルの過去世で、親がわりの聖養母がよく歌ってくれた子守り歌だった。
夢に迷いこんだ心地になりながらも、歩みを進めると、一人の女性がベンチに座り、空に向かって歌を口ずさんでいる。
月明りの下で、女性が着ている服は、カイルの記憶の中で、聖女が身にまとっていた聖衣のように見えた。
「シルヴ…、マリー?」
と、カイルが少し震える声で呼びかけると…、
「なあに?」と、振り返ると同時に
再び始まった花火の〝ドーン〟という音が響き、大きく夜空に花開いた花火の明かりが、マリーの顔を照らし出した。