プロの技は流石です
舞踏会の準備にミリエルの家の侍女の手助けを受けることなったこともあり、マリーは中日の2日目の舞踏会だけ参加することにした。2日目は例年、3日間の中では参加する人数の多さが少しはましだと聞いていたからだった。
舞踏会開催の前日に、マリーのドレスやアクセサリー、靴がマリーの元へと届けられた。
それらを見て、マリーの部屋に集まっていた、年頃の乙女たちは声をあげた。
隣国で新たに人気になっているシュミーズドレスと、サファイヤに小さなダイヤモンドをあしらったネックレスとイヤリング、シルバーが土台のヘアアクセサリー、透明なビーズをちりばめた中ヒールの白い靴だった。
「やっぱり、超絶気合入れて指示していたわね、王太子様!」とミリエルが言った。
「私は値段や費用を概算するのが得意なのですが、今回は豪華すぎて、値段の予想ができません…。」クレアが少し悔しそうにつぶやいた。
マリーは軽いめまいを覚え、声がでなかった。
舞踏会当日の午後の早い時間から、マリーはレーヴェ家の侍女2人に取り囲まれて支度をしていた。
貴婦人を美しく仕上げるプロ中のプロとして、マリーをリラックスさせるように和やかに会話をしながらも、侍女たちの動作は流れるようだった。
いつもマリーの髪型は、ただ簡単に上側の髪を一つにまとめるハーフアップなのだが、今回はサイドに複雑な編み込みがなされたアップスタイルに仕上げられた。
そして、小花と葉をモチーフにしたシルバーのヘアアクセサリーがつけられた。それには、小さなダイヤモンドと真珠が所々にあしらってあった。ネックレスのサファイヤも、石そのものは深い色をしていて上質なのだが、大きさは程よいので、非常に上品な印象のものであった。
マリー付きの下女のキリルは、マリーの髪型が仕上げられるのを、少女らしい憧れのこもった眼差しでじっと見つめていた。
メイクが丁寧に施されて、マリーの胸元のケープが取りはらわれると、
「さあ、お支度ができましたよ。」と侍女に鏡の前へと促された。
鏡には、今まで見たことがない自分の姿が映っていた。
「お嬢様はお肌がきれいで、とてもメイクが映えますわ。」
メイク担当のベテラン侍女がマリーに言った。
マリーが鏡を覗き込むと、確かに目鼻立ちは自分なのだが、いつもりより7割増しで美女に見えるような気がした。
〝恐るべし!プロのヘアメイク技術っ!〟
マリーは心の中で、彼女たちのプロフェッショナル魂に帽子を脱いだ。
レーヴェ家の侍女たちはこれからミリエルの部屋で彼女の支度に取り掛かるとのことで、マリーは彼女たちにお礼を言い、見送った。
エスコート役の兄のルーカスは、マリーたち侍女の部屋があるエリアに入ることは、はばかられるので、侍女のサロン室で待ってもらっていた。
マリーがキリルとサロン室に入ると、夜会服を身にまとったルーカスはソファに腰をかけて、優雅にティーカップを傾けていた。部屋の少し離れたところから、休憩に入った王妃様付きと思われる若い侍女が、ルーカスのことをチラチラと見て頬を染めていた。
「お兄様、お待たせしました。」
マリーの姿を見ると、ルーカスは目を大きく見開いた。
「マリー!見違えたよ。とてもきれいだ。
かつて庭で、鋤や鍬を持っていた少女だとはとても思えないよ。」
ルーカスがマリーにウインクしながら言うと、部屋の隅から「きゃあ」という声が聞こえてきた。
「ありがとうございます。お兄さまも素敵ですわ。」
マリーは、おすましした感じでルーカスに返した。
マリーはルーカスと共に、アンヌ王女へ挨拶に行った。
「マリー、晴れ姿を見せてくれてありがとう。とってもきれいよ。
今夜は楽しんできてね。」
アンヌの言葉に、胸が温かくなったマリーだった。
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