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お気遣いはご無用なのですが…

「王太子殿下!?ドレスというのは、家族や婚約者がプレゼントするものでは!?」

アルベール王太子の突然の言葉に、マリーは素っ頓狂な声を出してしまった。


アルベールは余裕の微笑みで返した。

「そんなことは、もちろん知っているよ。

ただ、今回は普通のプレゼントではなく、アンヌのために力を尽くしてくれた君への褒美だ。」


「まあ、それは素敵なお考えですわ、お兄さま。」

アンヌ王女が可憐に微笑みながら、兄のアルベールの考えを支持した。


「王女さま…。」

マリーは困ったように両方の眉尻を下げた。妹のように慕わしく思っているアンヌ王女に、そのように言われてしまったら、何も言えなくなるマリーだった。


「決まりだな!淑女への褒美にふさわしく、マリー嬢に似合う最高のものを用意しよう。」


「ええ~~っ、普通のでいいです!普通のをお願いします。」

半泣きが入ってきた、マリーに、アルベールは容赦なく続ける。


「そうは言っても、本当なら、エスコートも、私がしたいくらいなのだからな。

その分も加味したいのが、私の兄としての、王太子としての気持ちだ。」


「エスコートは兄に頼みますので、まったく問題ありませんのでっ!」

マリーは必死に言いつのった。


「ああ、ルーカスは邪魔な存在……、いやいや…

そうだ、ドレスに合うアクセサリーも靴も、一緒に贈らせてもらおう。それがいい…。」

満足そうに、アルベールの笑みが深まる。


「まあ、美しく装ったマリーの姿はどのようなものでしょうか。 

楽しみですわね、お兄さま。」

「ああ、とても楽しみだ。」

同じ色合いの金髪と、紺碧の瞳をきらめかせながら微笑みあうアンヌとアルベールに、


「ソウデスカ…アリガトウゴザイマス…。」

だめだ、この兄妹には勝てない…と、マリーは遠い目になった。



王太子の手配は早く、その次の日には、マリーの部屋へ王都のドレスメゾンの主人とお針子たちが、採寸のために訪れていた。


同僚のミリエルが、話を聞きつけて、マリーの部屋まで様子を見にやってきた。

「ドレスをプレゼントするなんて、王太子様もいよいよ本気を出してきたというところかしら?」

ミリエルは、メゾンの主人の顔を見て、すぐに、王太子の依頼先が王都で一番の一流メゾンであることを見抜いた。


 ミリエルも大勢の貴族令嬢と同じく、アルベール王太子の美しく凛々しい容姿と、王太子妃という地位にあこがれる思いは、かつてあった。

けれども、マリーが同僚となり、王立病院との交渉など、様々なことを経験していくうちに、そちらの方がはるかに刺激的で充実したものに感じられるようになってきた。

平たく言えば、王太子のことは、ミリエル個人としては、どうでもよくなってきたのである。


「ねえ、マリー、ところで舞踏会の当日は、着付けやメイクはご実家でしてくるの?」

採寸が終わり、ぐったりしているマリーにミリエルは話しかけた。


「いいえ、王女様が、私がドレスを着たところをご覧になりたいというので、こちらでするつもりよ。」

アンヌ王女はまだ成人年齢に達していないので、舞踏会に出席する予定はなかった。


「じゃあ、ご実家からここへ侍女を呼ぶのね?」


「え?どうして?私の世話係のキリルがいるから大丈夫よ。」

のんきな顔をして答えるマリーの答えに、ミリエルは驚いた。


「ちょっと!マリー!舞踏会のお支度をなめてはダメよ!

ましてや、王太子様が用意するドレスと宝飾品は、きっとすごいものになるわよ!

ヘアメイクも気合を入れないと!」

「は、はい…?」

拳を握ってマリーに詰め寄ってくるミリエルに、マリーは気のない返事をした。


「もう!わかったわ。当日は私もここで支度をするから、私の侍女たちにあなたの支度もさせることにするわ! ね?ぜひそうしましょう?!」


「え?侍女たち?」

「ええ、そうよ。いつもこちらに来てもらっている髪型を担当する侍女に加えて、メイクが得意な侍女にも、うちから屋敷から来てもらうわ。」


レーヴェ侯爵家の侍女の人材層の厚さにマリーは感心した。


「いいこと?マリー!お付き侍女の私たちが美しく装うことは、ひいてはアンヌ王女様の評価にもつながるのよ。決して手を抜くことはゆるされないわっ!」

と勢いこむミリエルに、


「ハイ、ソウデスネ…」と、またも遠い目になってしまうマリーだった。


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